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第三十七話 side:U 玄関とプレゼントと

「は、ぁっ・・・、ん、、んっ、やぁっ・・・」


玄関扉に縋り付くように手を付きながら、俺は背後から嗣にぃに抱かれていた。

安アパートではないし、そうそう声が外に響くことはないと思うが、この扉を一枚挟んで外だと思うと気が気じゃない。懸命に俺は声を殺していた。

先ほどまでは対面で片足を抱え込まれて受け入れていたのが、いつの間にかこの姿勢に変わっているのだから、どれだけ手際がいいのだろうか、この男。

どの姿勢でも恥ずかしさはあるが、この姿勢は一層と恥ずかしい気がする。

スカートは腰のあたりまで捲られていて、下半身を隠すものは女性物の下着のみだ。しかも嗣にぃはその下着を脱がすわけではなく、大きくずらして挿入していた。

俺の腰を掴んで、ぐん、と大きく突かれる。


「はんっ・・・あ、だめぇ・・・、奥、つよくしないで・・・っ」

「はは、ゆうくん、声漏れちゃってるよ?」


出るに決まってんだろ!こんなん!ガンガンと遠慮なく腰動かされたら、声も出るわ・・・!!しかもたまに硬い先で奥の奥を抉ってくる。そのたびに押し殺そうとした声が息と一緒に大きく漏れた。

嗣にぃは俺の背後で笑い声を零ししつつ、俺の頸に噛み付いた。チリっとした痛みに背中が震える。行為の最中、嗣にぃはよく俺の頸を噛む気がする。猫がする、なんだっけ・・・そうだ、ネックグリップだったか。あれと似てる。

しかし、この格好・・・本当にもう嫌だ。

女装が趣味ならある程度は楽しめたかもしれないが、俺のこの格好は趣味ではなく、「奥さん役」という理由がある。下着まで着けるのは多少行きすぎた面もあるし、ワンチャン嗣にぃが興奮するかも?とは思った。引かれるか興奮するか半々の勝負ではあったが、楽しくてやってるわけではない以上、もうとにかく恥ずかしい。幸いにも後ろの人は興奮してくれたことは良かったが。

自分からしといてなんだが、まさか玄関でするとは思ってもなかったのだ、俺は!キスぐらいは想定していたが、余裕で超えてくる。そして矢張り拒めない弱い俺であって・・・。


「あ、あ、あっ・・・だめ、嗣にぃ、も・・・ここ、やだぁ・・・っ」


奥深くまで挿れて出してを繰り返す中で、たまに浅い部分を嗣にぃのものが通り、弱い部分を刺激する。既に俺は中で一度達していた。俺は一度達すると、二度目からは達するまでが早くなるらしい。初めはそれこそ、中でイくのだってもう少し時間がかかっていたと思うのに、この頃は嗣にぃのものが入ってくるだけでもイってしまうぐらいに、快感に対してゆるゆるだ。

まだ触られていない前のものは、先走りで下着を濡らしていて、気持ちが悪い。

足もそろそろ限界で、ガクガクし出した。普通に立っているだけならばここまで体力を失うこともないのだが・・・。


「ベッドに行きたい?」


後ろからの囁きに俺は何度も頷いた。嗣にぃは、ふふ、と笑い声を落とした後、俺の頸を強く噛んで、腰を強く俺の尻に叩きつけた。


「ひああぁんっ!」


腹の奥へと響くいきなりの衝撃に、俺が悲鳴に近い声をあげると、嗣にぃは満足したようでずるりと大きなそれが引き抜かれる。嗣にぃの指が今の今まで自身が出入りしていた入り口を撫でた。


「んふっ・・・」

「ゆうくんのここ、閉まりきらないでヒクヒクしてるね」


そんなことを言いながら、指が遠慮なく中に入ってくる。先ほどまで受け入れていたものより細いそれは、すんなりと体内へと入り込んで、俺の弱い場所をこしこしと擦った。そうされると、一気に快感が高まって、俺の足が震える。


「あふっ、あ、あ、あ、あっ、やだぁ・・・っ、そんな、したら・・・っ」


ただでさえ過敏になっている部分を執拗に責められる。指がもう一本中へと入ってきて、水音を立てつつそこを掻き混ぜた。指は前立腺だけでなく、その上も押してくる。どうしようもなく気持ち良くて、俺はまた頭を振った。

凄く気持ちが良い、けど、一気に来ると怖い。


「いいよ、イって。イったらベッドに連れて行ってあげるよ」


嗣にぃは俺の耳元に顔を寄せて囁きながら、指の動きを早くして、押す力を強くした。


「あ、あ、あ、あっ!!ひ、うぅうぅうっ・・・」


何度目かに嗣にぃの指が肉を抉ったとき、俺はあえなく達する。

中でだけでなく、射精も伴っていて、脳がクラクラした。下着の中でどろりと精液が漏れて、俺のものを濡らす。

俺が達したことを見届けてから嗣にぃは指を引き抜き、俺の身体をまた対面になるように回した。

俺はされるがままに背中を扉に凭れかけさせて、呼吸をすることしかできない。

俯きがちの俺の顎を、嗣にぃの片手が上げさせる。


「ああ、蕩けた顔で可愛いね。ゆうくん。僕以外には、絶対に見せちゃ駄目だよ?ね?約束できる?」


息を繰り返す俺の唇に触れるようなキスをしながら、嗣にぃは首を傾げた。

何を言ってるんだろうか、嗣にぃは。俺が今の所、こんなことをするのは目の前にいる男以外はいない。問われたことに頷く。


「つぐ、にぃ・・・いがいとは、しない・・・」

「うん、良い子だね。じゃあ、ベッドに行こうか」


俺の答えににっこりと嗣にぃは微笑んだ。ああ、この笑顔、本当に好き・・・。どうやったら完全に手に入るんだろう。そんな風に思いが有り余って、自分から嗣にぃの唇に口付け、舌を伸ばす。嗣にぃは、俺の舌を優しく吸ってから顔を離した。


「ああ、本当に可愛いね・・・」


俺の顔、目に鼻に唇に頬に・・・至る所にキスを落としながら、嗣にぃは俺の片足を持ち上げた。ぐっ、と固いものがまた入り口へと当たる。

ん・・・?あれ?え?!移動するんじゃないの?!と思っていたところで、それがまた奥まで一気に埋まった。びくびくと中の肉がひくついて嗣にぃのものを包み込むのが分かる。


「ひ、んっ・・・あふっ・・・ぁ、ベッ、ドに・・・」

「・・・ああ、気持ちいね。ゆうくんの中・・・このままベッドに行こうね。抱えてあげるから、僕の身体に抱きついて足を巻いてごらん」


抱え込まれた片足を、導くように嗣にぃの手が動いて、体躯の良い身体に巻かせた。そうした上で俺の背中に手を回す。もう一方の手は俺の尻の下に回って、抱え上げた。姿勢の不安定さに俺は嗣にぃに手を回して、もう一方の足も片方と同じく回した。・・・木に抱きつくコアラみたいで、恥ずかしい・・・っ!コアラはいいよ、コアラは!こういうことしてないし!!しかし、そんな文句も言葉としては出てこず、息も絶え絶えだ。


「あっ、やっ・・・嗣にぃ、こわ、いっ・・・あんっ・・・!あた、って・・・!」

「大丈夫、落とさないから」


落とされても怖いが嗣にぃが歩き出すと、上下に揺れて、大きなものが深く入ったり浅い場所をついたりして、快感ががんがんと突き上げてくる。嗣にぃの一歩一歩、俺は喘ぐしかなかった。移動する最中、「駅弁っていうんだよ」とエロ知識を披露してくれた。うるせーわ、エロジジイめ・・・!その知識いらねーーーし!まあ、そんなこと言ってる顔も相変わらずかっこいいけどな!くそ!



あっという間に日は過ぎて、嗣にぃは出張へと出掛けて行った。

出掛けにえっらい長くキスをしてくるものだから、新幹線の時間が大丈夫か気が気でなかったけれど、問題なかったようでほっとした。

夜は嗣にぃとメッセージの交換をして一人でベッドに入る。電話も来たけれど、何でも同僚の人と同室らしく長くは話せないらしい。そういうこともあるよな、と納得しつつも、なんともはなしに寂しいものだ。

たった数ヶ月で依存してないだろうか・・・俺・・・。

そうした日を超えに超えて問題もなく日は過ぎて、今日は早くも七日目だ。

今日の夜に嗣にぃは帰宅する。そう考えると、寂しさが少しずつ晴れるようだった。俺は午前中の講義も終わり、谷先輩と学食で昼食を一緒に取っていた。


「春見は仕事に正確なんだね。会社の人間も褒めていたよ」


わしゃっと、隣にいる谷先輩から頭を撫でられる。


「あ、良かったです。先輩の教え方が丁寧だから・・・助かります」


素直で可愛いね、と谷先輩はもう一度俺の頭を撫でた。

実は少し前から、俺は谷先輩に融通してもらってバイトを始めていた。

以前に嗣にぃにも相談したにはしたのだ。バイトがしたい、と。しかし「必要ないよ」で一蹴された。そんなやりとりがあったので、バイトもバレないようにする必要性が出てきて、谷先輩に相談した結果が今である。

紹介してもらったバイトは簡単なデータ入力の仕事で、割が良く、先輩が教えてくれたおかげでスムーズに取り組めている。完全在宅でPCがあればどこででも出来る、というのもこのバイトの有り難いところで、持ち運びに便利なノートパソコンも谷先輩が貸してくれた物だった。

学校の空き時間や、嗣にぃの帰る寸前までの細切れ時間ではあったが、塵も積もればとはよく言ったもので、バイト代はそれなりに貯まっていた。


「春見はバイト代で何を買いたいんだい?」

「えー、っと、その・・・プレゼントを、ですね・・・買いたくて」


嗣にぃのことを思い出してしまい、頬が少し熱い。

そう、俺がバイトをして買いたかったのは、嗣にぃの誕生日プレゼントを買うのが目的だ。それがまさに今日である。ちなみにまだ買えていない体たらくっぷり。

いや、この数日間、商業施設を方々巡ってはみたのだが、いまいちピンとくるものがなく、今日に至ったのだ・・・。嗣にぃは社会人なので、時計やネクタイも考えた。が、時計は数本所持しており、ネットで調べたらとてもじゃないがそれらさえも、俺のバイト代なんて雀の涙くらいにしかならない値段だった。学生の俺にはとても手が出る代物じゃない。闇ルートで腎臓一個くらい売らなければ無理。

ネクタイは買えるものも多いが、センスがイマイチわからない・・・まさか青い猫型ロボットやカバに似た妖精の絵柄のものはつけないだろうしなぁ・・・。そんなわけで鉄板でありそうなその二品は早々に候補から消えた。ハンカチや靴下もなぁ・・・。


「その顔恋人にかな?」

「え、いや・・・そんな感じのような違うような・・・?」


仮の夫で攻略中の幼馴染(男)です、とは流石にいえず、俺は濁す。谷先輩は「何とも曖昧な答えだね」と苦笑したのだった。この人が俺の彼氏です!とか紹介できる日が来るのだろうか・・・あ、まてよ。男同士がその前に一般的ではないか。

その後は谷先輩とも別れて、午後の講義に出る。

授業が終わったら、嗣にぃが帰る前にもう一度プレゼント探しに出ないとなぁ・・・。

食事はなんとか用意したのだ。あまり凝ったものも作れないので、夏野菜のカレーだ。それにサラダとスープ。誕生日にカレーもどうかと思ったが失敗するよりは、と誕生日らしからぬメニューになった。それでもケーキは頑張った。とはいえ、これもドライフルーツの入ったパウンドケーキだ。ショートケーキなども考えたが、デコレーションに自信がなかったので、こちらも失敗がない無難なものをチョイスした。せめて生クリームを添えよう。

・・・まあ、うん、その辺は嗣にぃは優しいし大丈夫だろう。

そう、嗣にぃは優しい・・・でも、ここ最近、セックスの回数が減ってる。

元々回数がおかしかったので、普通と言えば普通なのかもしれないけれど、いきなり減ると不安になるわけで・・・回数を減らして欲しいとか思っていた割に、実際に減るとこうも気になるとは。仕事が忙しいということもあるし、気遣ってくれているのかもしれない。でも、そう、でも。・・・飽きた、とかだったらどうするよ?

嗣にぃは元々異性愛者だ。結婚式から狂ってた頭がだんだんと正常になってきてる、とか。ありえない話でもない。怖・・・。

今更「今までごめん。酷いことしてきたよね。前のように幼馴染に戻ろう」とか真面目に言われたら、俺はどうするんだろう?・・・元に戻るだけ。元に戻るだけでは、ある。しかし甘さを知ってしまった今、それは怖い話だ。

あーあーあーあーあー、やめだやめ。考え始めたらキリがない。今日はとにかく、嗣にぃが帰ってくるのだから良いじゃないか。昨日までの連絡の感じだとそう変化はないはずだ。

この授業が終われば今日はもうお終いだ。帰ったら、着替えて出かけよう。女装の練習に、あの姿で一人で出てみるのも悪くないかもしれない。

その前に授業だよ、俺。ちゃんと聞かなきゃ単位落とすわ・・・。

俺は深呼吸を一つして、講義内容の書かれているホワイトボードに視線を向ける。しかし、その日の授業は何も頭に入ってこなかった。

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