「れーちゃん、ちゃんと横になって」
「……っ……！！」
腕を掴まれ、ベッドの上に押し戻される。
鎖で固定された足首が動くたびにカチャカチャと音を立てる。
「まずは、鎖骨から」
「っ……誰が……！！！」
反論しかけた瞬間、ピッ という電子音が響いた。
（……？）
凛が、スマホのカメラを向けていた。
「なっ……！？」
「ちゃんと記録しておかないとね」
「記録って……」
「れーちゃんが、どれくらい変わってるのか、確認するために」
（……嘘だろう……）
何一つ、凜の考えに俺の思考が追い付かない。
会話ができないのではない。会話としては成り立っている。
けれど、凜は一切俺の要望を聞く気がないのだ。
その恐怖が胸を締め付けて、自由なはずの腕も動かない。
「ほら、大人しくして？」
「っ……！！」
「……っ……」
寒気がする。
それは “録画されている”という恐怖 からか、それとも――
「れーちゃん、ちゃんと撮るからね」
「……っ……何が“ちゃんと”だよ……！！！」
「大事な記録だから」
「こんなもん、記録する意味ねぇだろ……！！」
「あるよ。れーちゃんの変化を、ちゃんと残さないとね」
（変化……？）
「じゃあ、まずはここから」
指先が、ゆっくりと俺の鎖骨をなぞる。
「っ……」
（……あれ……？）
昨日までは、こんな感覚じゃなかった。
触れられただけで、妙に皮膚がざわつく。
「昨日より、肌が柔らかくなってるね」
「……っ……」
そう言われると、自分でも分かる。
αだった頃より、皮膚が滑らかになっている気がする。
でも、それを認めたくない。
「次、胸」
「凜っ……！！」
「ほら、力抜いて」
「抜けるかよ……！！！」
「触ってあげたら力が抜けるかな？」
凛の指が、ゆっくりと俺の乳首を撫でる。
「っ……！！ やめろ……！！！」
一瞬、背筋がビクッと跳ねた。
ぞわっとした感覚が全身を駆け巡る。
（……やば……）
「昨日より、ちゃんと感じてる？」
「感じるわけねぇだろ！！！！！」
「そっか。でも、動画にはちゃんと映ってるよ？」
「っ……！！！」
撮るな。
こんなもの、記録に残すな。
でも凜は続ける。
「次、お腹」
手がゆっくりと腹部へ降りていく。
「ここ、αの頃より力が抜けてきてるよね」
「あ……っ……」
指で軽く押されると、妙に敏感に感じる。
筋肉が抜けたみたいな、変な感覚。
「昨日より、感度が上がってるね」
「違う……っ……！！」
「特に、ここ……」
ふにり、と凜が俺の下腹部を押した。
その瞬間、小さな電流のようなものが走り、俺は身体を揺らす。
「なっ……⁈」
「れーちゃんの子宮ができかけてるところだよ」
「は……？」
「ここはね前立腺小室ていわれているところでね。子宮の痕跡なんだよ。ここがΩは育って子宮として機能するんだよ。本来は使われてないからね、αであれば機能はしないけれど……Ωは違うから」
もう言葉が出なかった。
馬鹿な、と頭の中で思うのに、声にはならない。
「じゃあ、足も確認しようか」
足を撫でられる。
「……触るな……！！！」
「ふふ、少し震えてるね」
（嘘だろ……？ 俺、震えてんのか……？）
「横を向いてね。背中を見るから」
有無を言わさず、俺は横を向けられた。
「……っ……」
手が、ゆっくりと俺の背中を撫でる。
「やっぱり昨日より、肌が敏感になってるよ？」
「……っ……ぅ！！」
指が触れるたびに、鳥肌が立つ。
でも、それは“寒い”からじゃない。わかっているけど、認めたくはない。
凜はそれを分かってて、敢えて言葉にしているんだと思う。
「じゃあ、お尻もみようか」
「えっ⁈まっ……！」
俺が止めるよりも早く凜の指が動いた。
尻の合間に指が入り込み、穴の方へ向かい、その上を軽く押した。
「凜っ……！やめろ……！」
恐怖より羞恥が打ち勝ち、俺は手を回し凜の手首をつかむ。
凜は首を傾げた。
「なんで？」
「なんでって……！人に見せるような場所じゃないだろ⁈」
「うーん？でも僕はれーちゃんの番だよ？ねえ、れーちゃん、わかってる？」
凜はなおも、同じ場所を押した。
「ここにさ、こうやって……」
指に力が込められて、押されるのが分かる。
俺は頭を何度も振りながら、やめろ、と叫んだ。
けれど、凜は止まらない。どうやっても。
指の先がつぷりと中へと入りこむ。
「ひっ……！」
「僕のペニスが入るんだよ？」
指が円を描くように動くと、穴が引き連れて奇妙な感触を産む。
俺は必死で頭を振った。
「いやだ、凜、凜……！」
繰り返し何度も、何度も。
凜は少し考えたようだったが、じゃあ、と落す。
「僕に、キスをしてくれたら許してあげる」
「……え……？」
一瞬、言葉が呑み込めずに俺は凜を振り返る。
「交換条件。止めてあげるから、僕にキスして？」
凜は、にこり、と笑った。
