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「研究発表」―プロジェクト報告書より

機密研究報告書抜粋:Case α-07


「αからΩへの遺伝的変質に関する実証実験」

発表機関:東都医療バイオ技術研究機構(傘下:MIKAGEグループ)


本プロジェクトは、「社会的分類の固定化に対する医学的可逆性の模索」を目的として始動した。

対象は先天的にαとして生を受けた若年男性。

心身ともに健康で、社会的影響力を持つ個体(以下「対象A」)を選定。

実験は非公開の環境下で進行された。

投薬プロトコルは以下の通り:

特定の遺伝子スイッチを解除するRNA干渉カクテルを用い、ホルモン環境に応じた身体の再構築を促す



投与は1日3回×3日間、計9回



生理的変化に伴い、被験者の第二次性徴機能が再構築され、Ωフェロモンの分泌が確認された



対象Aは実験初期、「本件に対する同意を与えていない」と主張。

しかし研究目的においては、“合意よりも観察”が優先された。

過程中、対象は以下の変化を示した:


αフェロモンの漸減・Ωフェロモンの出現



自律神経系の再調整(感覚過敏・性反応の変質)



他α個体との非互換性・ある特定のα個体への依存傾向の強化



投与最終日、対象Aは完全なΩ化を達成。

生物学的・性機能的にも、既存のΩ個体と同等の性質を有することが確認された。

また、対象Aは投与期間中、同一環境に置かれたα個体(以下、管理者α)に対し、明確な“番反応”を示した。

この反応は、従来の「運命的番」の概念を再構築するものであり、フェロモン同調と刷り込みによる“強制的結合”の可能性が示唆される。

現在、対象Aは管理者αと共に生活している。

外部との接触も部分的に再開されており、社会的な逸脱行動や拒絶傾向は見られない。

むしろ、“穏やかに順応している”と観察されている。

なお、本プロジェクトは倫理委員会の正式承認を受けておらず、一般公開は現段階では未定とする。


研究者署名:匿名

記録責任者:MIKAGEグループ傘下医学研究室主任



最後のページに添付されていた記録映像のサムネイルには、

白いベッドの上、静かに眠るひとりの若者の横顔が映っていた。

シーツの端からわずかに覗く左手には、銀の指輪が輝いている。

映像は無音のまま終わり、ファイルは自動的に閉じられた。




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