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44.王宮へ

夜も更けたころ、王宮からの馬車がレジナルドの手紙通りにやってきた。

俺は周囲に気を配りながら、邸内をそっと抜け出す。

控えめな装飾の馬車だったが、その側面にはしっかりと王家の紋章が刻まれている。御者が俺に恭しく頭を下げ、扉を開けて中へ案内した。

俺の顔を見て特に確認することもない御者──この男もレジナルドが俺につけていた密偵の一人なのだろう。そんな推察が頭をよぎる。

座席に腰掛けると、馬車は静かに動き出した。

夜風がひんやりと窓から吹き込み、辺りの音を消し去るような静寂が広がっている。

やがて、王城の灯りが揺らめきながら見えてきた。そしてその一角には東の塔が聳えている。

視界に入る東の塔はひときわ高く、月明かりに照らされて幻想的な雰囲気を漂わせている。だが、その美しさが返って不安を煽るようだった。

馬車が塔の前で止まると、御者がまた恭しく扉を開けた。俺は一つ、深呼吸をしてから中へと足を踏み入れる。

塔内は薄暗くひんやりとしていて、外よりもさらに静寂が深い。

足音が石造りの壁に反響する。

らせん状に続く階段を見上げると、その高さに気が遠くなりそうだったが、案内されるまま一段ずつ慎重に登った。

辿り着いた扉の前で、案内役が一礼し、扉をゆっくりと開ける。

中に入ると、意外にもそこはこぢんまりとした部屋だった。

豪奢な調度品がいくつか並んでいるが、どれも古びており、普段は使われていないことが一目で分かる。

大きな窓辺に佇んでいたのは──レジナルドだった。

彼は俺を待っていたのだろう。微笑みながら目を向けてくる。その青い瞳が灯りを受けて冷たい光を湛えているように見え、胸の奥がひどくざわつく。


「リアム、よく来てくれたね」


レジナルドの声は穏やかだったが、その裏には緊張の影が滲んでいた。


「……どうしたんですか?何か……あったんですか?」


俺の問いに、レジナルドは静かに歩み寄る。そして、真剣な眼差しで俺を見据えながら、肩に手を置いて切り出した。


「ディマスが生きている」


その言葉に、息が止まった。頭が真っ白になる。


「……え?」


あの時、ディマスはキースの力によって確かに消えた。俺の目の前で、闇に飲み込まれて。それなのに──?


「死んでは、いない……ということですか……?」


ようやく絞り出した声に、レジナルドは頷いた。


「……ディマスは私の前に現れたんだ。全身を霧のような闇に包まれて……あれは確かにディマスだったし、……闇の力だった。そして、こう言ったんだ。『リアムを消せばすべて終わる』と」


その言葉に、背筋が冷たくなる。

ディマスの執着が、俺を未だに追い続けているのだと実感する。

嫌われすぎだろう、俺……。どうしてここまで……。


「今回の件、君の兄上……キースが関わっている可能性が高い」


その言葉に、胸が引っかかれたような気がした。

確かにあの時、ディマスを消したのはキースだ。それ以外に何があるというのか?疑念が頭をよぎるが、レジナルドの視線には確信が宿っていた。


「兄様が……どうして……?」


俺が問いかけようとしたその瞬間、突然、強烈な風が吹き込んだ。


──バァン!


窓が荒々しく開き、カーテンが激しく揺れる。部屋の灯が一斉に消え、暗闇が俺たちを包んだ。


「リアム……」


低く響く声。その声は──キースのものだった。

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