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第5話 魅力度は主人公に不可欠?

――ガルルルッ!


モンスターは力のない者をバカにするように笑っていた。

あくまで、俺の主観であるが…。

それでも、モブには何もできないと言われているのは当然である。


だから、俺に主人公力とか荷が重すぎるんだよ。


何より、こんな時にモブである自分のアイデンティティを揺るがされるとは思わなかった。


「これは大変だ!よし。逃げるかな」

「もう、逃げてるぞ!」


なぜ、俺は今この男と漫才みたいなやり取りをしているのか。


貴族青年Dは別の意味で絶望したくなった。


今まさにモンスターの前足も迫ってきていた。


ああ、今度こそ終わりか…。

せめてひと思いに…。


だが、その願いもむなしく俺の足を守る靴がモンスターの口の鋭い爪に引っ掛かり、その体は宙ぶらりん状態でモンスターと対峙することになってしまった。

なんで、最後の最後まで恐怖の中に放り込まれなきゃならないんだ。

俺はただのモブだぞ。

だが、嘆いてもしゃあないな。

よし、最後の瞬間だ。

せめて、自分を食らう相手を見ながら消えよう。


それがせめてものモブの意地だ。


そう覚悟して、渾身のパワーで貴族青年Dは目を見開いた。


だが、次の瞬間貴族青年Dは床に顔面からぶつかった。


「イテッ!」


いくらぼやけているとは言え、傷物にされては困る。

というか、俺、モンスターにすら捨てられたのか?

なんだよ。モブに用はないってか?

その事実がビミョーに切ない。


一言文句を言ってやりたくなる。

しかし、肝心の相手が見当たらない。


モンスターはどこへ行ったんだ?


「すごいぞ!」

「はあ?」


状況がわからないが、セイは喜んでいる。


「どういうことだ?」


困惑する貴族青年D。


「君が奴を撃退したんだ」

「そうなのか?」


自然な流れで首をかしげる貴族青年D。

モンスターの中から無数の光が飛び去っていく。

あの輝きはモンスターが喰らったキャラクターだった物の成れの果てだ。

そんな気がした。


「よかった。キャラの元素体はイマジエイトの中枢部に帰っている。ひとまずは安心だね」

「そうなのか?」

「ああ。それよりも君に授与された力がわかったよ」

「どんな力が?」

「ずばり、相手をメロメロにする力だね?」

「うん?」

「ほら君も言ってたじゃないか。ヒロインは魅力があるって。つまり、主人公の愛され力が身についたんだよ。その証拠にほら、君の顔…」


セイは懐から手鏡を取り出す。お前の懐はポケットなのか?とツッコミを入れたくなる。

だが、そんな疑問を吹っ飛ばすほど鏡に映ったものに驚く。

そこには整った顔の青年。この世界の王子にもひけを取らないほどの美形が笑っている。


「イケメンだ…誰だ?」

「君だよ」

「そんなバカな!」


ただのモブだぞ。輪郭だってはっきりしてなかったのに。


「マジ?」


セイは親指を立てて真っ白な歯を見せて同意した。

なんかその反応ムカつくんだが…。


「どうしてこんな事に?」

「人を魅了するには見た目が重要だからね。能力が空気読んでくれたんじゃないかい?」

「すっげえ安易だな。なんか喜べない…」

「こういうのは深く考えなくていいんだよ」

「お前は他人事だから…いや、待てよ。だからってさっきのモンスターを撃退した理由にはならないよな。魅了した=モンスターの消滅はおかしいだろ!」

「そこはほら、君が言っただろ。この物語の主人公は治癒能力を持ってるって…」

「まあ、言ったけど…」

「つまり相手を魅了すると治癒能力が発動して邪悪な奴らを浄化したんだよ」


流れるように紡がれるセイの言葉になぜか納得してしまいたくなる。

基本、俺はモブなのだ。群衆心理には影響されやすい。

それっぽいことを言われる事に弱いのだ。


「そういうものなのか?」

「そういう事にしとこう」

「適当だな」


前言撤回。

セイ…、この男は信用できねえ。


思わずため息が漏れる。

再び鏡に視線を戻せばやはりイケメンが映っていた。


「うっ!」


折角、自分の顔に酔いしれていたというのに突然体中に痛みが走る。

次に鏡に映っていたのは点と線で表現された地味な男だ。


「また、顔が変わった」

「やっぱり、モブだからね。イケメンを維持するのは難しいみたいだね。せいぜい数秒が限度ってところか…」

「そりゃあ、そうだよな」


でも、まあいいか。ちゃんと目と鼻と口はある。

多少ヘンテコでよくある顔っぽくても輪郭がなかった今までよりはずっといい。


「それより、あのモンスターについて教えてくれ。一体あれは何なんだ?」

「そうだね…」


――ガガガガガッ!


「うわあ…!」


突然、視界が歪んでいく。

大きな地響きが体を揺らし、未だかつて経験したことのない恐怖感が全身を貫いていく。

一体今度は何だって言うんだ!

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