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02 超宇宙戦艦モモジリ

 超宇宙戦艦兼強襲揚陸艦モモジリ級。


 その名の通り、桃のような尻のような思わずむしゃぶりつきたくなるような、どピンクでプリッとしたモチモチとした外観をしており、どっちが前か後ろかもわからない形状をしていた!!


 そんなモモジリの中央の窪みには尻穴のようなギザギザの歯状線に囲まれた開口部があり、そこに向かってエスカレータ式タラップが設置されていて、猫五郎とゴリッポはそこに乗っていたのであーーる!!


「間近で見ると大きいんですねぇ」


「中の広さにはもっと驚くぞ」


「そうなんですか?」


「ああ。超東京都がまるまる1個入るって話だ」


「…え? 嘘ですよね?」


「ああ。嘘だ。そこまでは広かねぇ」


 シレッと嘘をつくゴリッポに、猫五郎はジト目をする。


「正確な大きさは、製図もなしに深夜のテンション爆上がりからの、カンと勢いとノリで施工したからわかんねーそーだ」


「はあ。そんな、ネオペ小説(ネオページ小説)を書く時みたいな感じに作ったんですか…」


 猫五郎は不貞腐れたように答えた。


「冗談だってよ! そんな顔をするな! これぐらいで怒ってちゃ、この船でやっていけねぇぞ!!」


 イチイチ大げさに背中を叩いてくるゴリッポに、猫五郎はますます不信感を募らせる。



 艦内は確かに広かった。貨物ホバートラックが搬入路をひっきりなしに行き交い、物資の運び入れを行っている。


「真ん中がメインデッキやブリッジへ続くエレベーターだ。右手が居住区に繋がっている」


 居住区の方は『ようこそ、おいでませ~』の垂れ幕が掛かっていて、まるで観光名所みたいだった。


「左手がエンジンルームや、“キグルミ”整備ドックがある。俺は基本的にそこにいるから用があったら気軽に遊びに来てくれや」


「キグルミ?」


 猫五郎が聞き慣れない単語に首を傾げると、ゴリッポは少し意外そうな顔をした。


「士官候補生なのに知らんのか? け…ケモノガタ…キドー…へ、ヘイーキ……そう。えーと、そうそう。“畜生型機動兵器”のことだ」


 ゴリッポは名札の後ろに隠してあったアンチョコらしき物を見ながら答えた。 


「あ。いえ、それは知っていますけど、正式名称は“AS”じゃ…」


「え、SM?」


「違います。“アニマルAnimalアニマルSuitsスーツ”の略で……ここではそうじゃないんですか? 現場じゃキグルミなんて呼ばれているんで?」


「ああ、バカが多いからな。漢字はもちろん無理だし、5文字以上のアルファベットになると覚えられねーんだ」


 アルファベットは2文字じゃないかと猫五郎は思ったが、ゴリッポの名札の後ろのアンチョコに赤字で『今年中に覚える単語』とか書いてあったのを見て口にするのを止めた。


 そのままゴリッポに連れられて、正面のエレベーターに乗り、ブリッジへと向かう。


 ブリッジの中は物々しいメカメカしさで包まれており、でっけーモニターを前にオペレーターたちがカチャカチャカチャ…ッターン! なんて風に、なんちゃってプログラマーか、喫茶店で執筆している作者みたいなことをやっていた!


「艦長ォォォ!! 艦長ォォォ!!」


 いきなり大声を出したゴリッポに、猫五郎はお目々を丸くする。


「すまねぇな。デケェ声じゃねぇと、耳が遠くて聴こえねぇんだ。艦長ゥォゥォゥォーッ!!」


 グィーンという音がしたかと思いきや、頭上にあったフレキシブルアーム先端のキャプテンシートが降りてきた。


「……なんだ?」


 そのキャプテンシートに深く座った、パイロットハットを目深に被った老齢の男性が、鋭い眼光でゴリッポを見やる。


「新入りだァォァォァォーッ!!!」


 目の前に居るというのに、ゴリッポが手を口元に当てて大声を出す。猫五郎の耳はさっきからキーンとしっぱなしだ。


「……なんだ?」


 今のが聴こえてないのかと、猫五郎は驚く。


「だ・か・ら! 新入りだァォァォァォーッ!!! 今日から配属だってよォォォォーッ!!! 知ってんだろォゥォゥォゥーーッ!!!」


 艦長の耳元で言うが、何の反応も示さない。


「……終わった。コイツはもうダメだな」


 ゴリッポは諦めて頭をボリボリとかく。


「え!? ダメって…艦長ですよね!? この人!!」


「ああ。オキーナ艦長だ。最近、耄碌しちまってよ〜」


「耄碌って、それで艦長が勤まるんですか!」


 オキーナはゴソゴソと懐からスキットルを取り出すと、震える手で蓋を開いて呷りだす。


「お酒を!? 勤務中に!?」


「しかも重度のアル中なんだ」


「最悪じゃないですか!!」


 猫五郎は絶望するも、ゴリッポは「そんなこと言ってもなぁ〜」と鼻ホジーである。


「……む」


「え?」


 オキーナがいきなり立ち上がったのに、猫五郎は驚く。


「総員第一種戦闘配備につけい! エンジン始動!! モモジリ、緊急発進!!」


「「「えっ!?」」」


 猫五郎やゴリッポだけでなく、カチャカチャ…ッターン! していたオペレーターたちもお目々を丸くする。


「繰り返させるな! 緊急発進だ!! ただちに超地球ステーションを離脱する!!」


 言いしれぬ威圧感を発するオキーナは、この瞬間には耄碌でもアル中でもなかった。


 眼の奥には、“艦長”としての確かな輝きがあった。


 これには何かの意味がある…そう察したオペレーターたちの顔に緊張が走る。


「スターターエンジンからメインエンジン“ゴッデム”にエネルギー供給開始! 出力87%! 発進可能状態まで後15秒!」


「全ハッチを閉鎖します! 非戦闘員乗組員は速やかに作業を止め、安全区画へと移動して下さい!」


「第一種戦闘配置! 第一種戦闘配置! これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない!」


 赤色パトランプが点灯し、けたたましく緊急警報が鳴り響く!


 ブリッジが慌ただしく動き出すのを、猫五郎もゴリッポも唖然と見やる他なかった。


「艦長! 出航準備整いました!」


「……超宇宙戦艦モモジリ発進」


 厳かなオキーナの指示に、オペレーターたちが一同合わせて「モモジリ発進!」と唱えた。


 重低音を響かせ、超宇宙戦艦モモジリが動き出す!!


「え、ちょっとなんでいきなり発進…」


「…非戦闘宙域を離脱後、ただちに“転移”する」


 オキーナがそう言うのに、勝手知ったる風にオペレーターは頷く。


「超空間ワープシステム起動…オールグリーン!」


「エンジンルームのゴッデムからクレームが入って来てますが、シャットダウンします!」


「な、なんで転移装置まで…」


 ゴリッポが問い掛けるのに、オキーナは静かにお目々を細める。


「……タイトル回収だ」


「は?」


 モモジリ船体が、ピンク色のなんか変なモヤモヤに包まれる(ご都合主義よろしく、メインモニターには船全体の外観までもが映って見えている)!!!


 かと思いきや、モニターに映った星々が集中線のようになって、モモジリは一瞬にして別の超宙域へとワープした!


「……主砲用意」


 オキーナが続けて出した指示に、猫五郎はあんぐり口を開く。


「主エネルギーの主砲へ切替転換完了! エネルギー充填!」


「主砲『桃色巨塔』銃座展開!」


 桃の中央がバカンと割れ、そこからやや赤みがかったピンク色の砲身が現れる。


「仰角調整完了! 前後往復チャージ始動!」


 砲身が前後に激しくピストンする!


 それをモニター越しに見ていた猫五郎は、あるモノを連想して顔を真っ赤にした。


「こ、コレって…アレじゃ…」


「コレがアレに見えるのは、お前の心が穢れているからじゃ」


 耳が遠かった設定はどこへ消えたのか、オキーナがそう答えた。


「不思議に思うのも無理はない。エロ規制派の我々が、このようなエロ推進派が望むような兵器を開発して使っているのをな…」


 誰もエロなんて口にしてないのに、結局のところお前もそう思ってるんじゃねぇか…と言いそうになったのを猫五郎は我慢する。


「しかし、スケベッティをもってしてスケベッティを制し、エロッティをもってしてエロッティを断つ……ワシらモモジリ独立部隊はそういうステキな隊なのじゃ」


 誰も聞いてもいないのに、オキーナはそう答えた。


「対閃光及び対衝撃防御準備完了!」


「チャージ臨界点105%! 艦長! 寸止め状態です!」


「……主砲発射」


 オキーナに合わせ、オペレーターたちが「発射!」と唱和する。



 ビュボッ! ビュボボボッ!!



 ヂュチュッボボーーーーンッ!!!



 真空の宇宙空間なのに小汚い音が聴こえるのは、某映画監督の「俺の宇宙じゃ音がするんだよ!」であり、賢明なる読者諸君はそんな野暮なツッコミなど入れまい! 


 真っ黒な超宇宙にぶっとい一筋の若干黄ばんだ色味の白き閃光が迸ったのだーーった!


「目標! …えー、あったのかどうか不明ですが撃沈したらしく沈黙! 索敵レーダーに反応なし!」


「艦長! 第二射どうしますか!?」


「……むぅ」


 オキーナはなぜか猫五郎とゴリッポを見やる。


「……敵は倒したのか?」


「え?」「は?」


 オキーナの問い掛けに、猫五郎もゴリッポも疑問符を頭に浮かべた。


 そもそも敵がいるかどうかなんて自分たちの方が聞きたい部分で、オキーナがなんでいきなり船を動かしてワープさせてまで主砲を撃ったのか、彼らにはまったくわからなかったのであーる!


「いったいぜんたい、なんの騒ぎだい!?」


 エレベーターから、誰かが上がってきて大声を張り上げた!



 と、キリは悪いが次回につづーくぅ!!

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