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04 エースパイロット『焦茶い悪魔』

☆前回までのあらすじ☆


 猫五郎を乗せた超宇宙戦艦モモジリは、敵であるチブサー帝国の艦隊に囲まれて、いきなり大ピンチになったのであーーった!!




「……囲まれてしまったか」


 艦長オキーナが、顔の陰影を濃くして渋く言う。


「誰のせいだと思ってるんですか!」


「慌てるんじゃないよ! 敵の数はどんだけだい!?」


「レーダー範囲内ですと、艦艇は100隻ほどです!」


「たったそれっぽっちかい! なら近寄られる前がチャンスさね! ワープ助走距離を稼いで転移して逃げるよ!」


「そ、それが…ワープするだけのエネルギーを充填するまで時間が…」


「そうかい! なら全速前進! 正面突破さね!! 進行方向に全門開放一斉射撃だわさ!! 風穴あけて、そこからトンズラするよ!!」


「そ、それが…主砲発射からのインターバル『賢者モード』が、あと30分以上は必要なので……とても全速力は出せません」


「……」


「そ、それに緊急発進したせいで、燃料の補給が間に合っておらず、無事に包囲網を抜けたとしても安全宙域までの離脱も難しいかと…」


「……」


「エンジンのゴッデムから『休ませろ』との要請あり! ボイコットした為、発進すらできません!」


「……」


 オ・ウーナは頬をポリッと掻く。


「……こいつはもうどうしようもない。お手が上げだわさ」


「お手上げじゃないですよ!! ど、どうしてくれるんですか!!」


 猫五郎が艦長に詰め寄る。オキーナは懐から短冊のようなものを取り出して筆ペンでなにやら書き始めた。


「艦長…なにを?」


「辞世の句を書き始めたねェ」


「不謹慎すぎますよ!! 艦長が真っ先に諦めてどーするんですか!!」


 猫五郎はそう言うが、オキーナは念仏を唱え、ゴリッポは青白い顔をしたまま気絶している。


「黙りぁッ! ピーチクパーチクやかましゃー!」


 エレベーターの方からまた声がした!


 振り返ると、3人の人物が後光(たぶんハロー効果とかによる幻覚じゃね?)を輝かせて立っていた!!


「あ、あなたは猿三郎伍長!」


 向かって右側に、無意味に手を交差させて人差し指と薬指を立てたラッパーのようなポージングをしていたのは猿三郎だ!

 なぜか黄色いパッツンパッツンのボディスーツを身に着けている!!


「この艦にはエースパイロットのアタシたちが居るのをお忘れじゃなくて?」


 左側に立つ女が、頭の上で指を組むという煽情的なポージングをしつつ言った! 


 やっぱりパッツンパッツンの真っ赤なボディスーツに、豊満な胸を窮屈そうに閉じ込めた妖艶な擬人化された雉の女であり、緩やかにカールした長い金髪を無意味に掻き上げてみせ、淡いピンク色のルージュを無意味に舐める。


 オ・ウーナが悔しげにハンケチの端を噛んでビリビリに破いた。


「……雉四郎兵長だ。オ・ウーナ副艦長とはヒロインの座を巡って争っている」


 意識を取り戻したゴリッポが猫五郎に耳打ちして教える。


 雉四郎のインパクトも大きかったが、あの老女がヒロインの座を狙っているのかと、己の立場を弁えろと猫五郎は心の底で苛立ちを覚えた。


「さっきから邪魔だ。さっさとそこをどけ。クズカスども」


「ぎゃッ!」「ああんッ!」


 2匹を蹴り飛ばし、真ん中に立っていたが後ろに隠れていた、真っ白なスーツに身を包んだ男が腕組をしたまま前に進み出る。


 それは綺麗な毛並みの薄茶髪、スラリとした長身の、目鼻立ちがはっきりしている擬人化したイケメソの柴犬だった!


「ううっ…」


 その放たれる只者ではないオーラに、猫五郎は思わず怯んでしまう。


「い、犬次郎軍曹。そうだ。まだこのひとがいた!」


 ゴリッポが斜めにかぶっていたワークキャップを外し、胸元に抱いてギュッと潰す。超米国合衆歌が流れてきそうな場面だ。


「だ、誰ですか?」


「知らねぇのか!? 最強のキグルミ使い! 敵からも“超連邦の焦茶こげちゃい悪魔”と恐れられているひとだ!!」 


「え!? この方が伝説の!」


 “焦茶い悪魔”については、さすがの猫五郎も知っていた。


 曰く狙った獲物は絶対に逃さぬ地獄の果てまで追い掛ける猟犬(柴犬なだけに)であり、曰く単騎で基地に乗り込んで敵を全滅させたという、まさに鎧袖一触を体現させた男であり、曰く1,000回の出撃でかすり傷ひとつも負わなかった不死身の存在である、と!!


「犬次郎の通る後には草木1本残らぬという…あの…」


「まあ、超宇宙にゃ最初から草木なんか生えてねぇがよ…それだ」


 ゴリッポが首肯した。


「そんな話は今はどうでもいい。敵に囲まれているなら滅ぼすだけだ。いいな、ジジイ」


 犬次郎に睨まれて、オキーナは産まれたての子鹿のようにプルプルと震える。


「さすが、犬次郎だねェ。頼りになるゥ〜」


「黙れババア。俺の視界に入るな」


 オ・ウーナに対しても、犬次郎は冷徹だったが、オ・ウーナ本人は「ツンデレね♡」とか言って、勝手に母性本能をくすぐられていた。


「おい。そこのお前」


「は、はい!」


 まさか呼ばれるとは思っていなかった猫五郎は、ピシッと背筋を正す。


「コイツらだけじゃ弾除けとして心許ない」


「弾除け…?」


「そうだ」


 犬次郎が指差したのが、猿三郎と雉四郎だったので、猫五郎は自分の聞き間違いじゃないと理解する。


「だから、お前も出撃しろ」


 猿三郎と雉四郎が抗議の声を上げているが、賢明な読者諸君のお察しの通り、犬次郎が取り合わないのはいつものことだ。


「え!? そ、そんなボクは畜生型機動兵器に乗ったことは…」


「問題ない。動かす必要もない。その場に浮いていろ。俺が危なさそうな時に盾にして使う」


 つまり、弾除けである!


「そ、そんなヒドイですよ!」


「なんもヒドイことはない。この場でミンチになるのも、超宇宙でミンチになるのも同じことだ。どっちがいい?」


 「どっちも嫌ですよ!」と言いたかったが、猫五郎は押し黙る。


「どうした? なにか言いたいことでもあるのか?」


 犬次郎が拳をギギッと握って見せる。そこにとんでもないポテンシャルが宿っており、なんなら太陽系ぐらいワンパンで壊せる力を秘めているのを察して、もはやなにを言っても無駄なのだと猫五郎は観念した。


「さあ、行くぞ。俺の邪魔をするヤツは、生まれてきたことをたっぷりと後悔させた上で、冥土の土産に、速達便であの世にと送ってやる」


 猫五郎は「冥土とあの世は同じ意味で、それ重複してるんでは…」と言いそうになったが、自分が速達便で送られたくないがあまりにツッコミを入れなかった。



 次回、ついにエースパイロットである犬次郎が大暴れする(予定)!!

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