黒を基調にした、飾り気のない冷たく重苦しい雰囲気を漂わす司令室。
中央のやけに背もたれの高い、どっしりとした椅子に1人の人物が座っていた。
「コーポー、コーポー」
不気味な黒い仮面をつけ、全身も黒衣に覆われ、奇妙な呼吸音だけが室内に響き渡る。
『アール・バイター様』
モニター越しに、その前に深々と頭を下げて跪く猫が居た。
「モモジリの連中には、”例の物”を投与済みなのね?」
アール・バイターの向かって右横から、ずんぐりむっくりとしたキウイフルーツみてぇな鳥であるキーウィがのたまう。
『はい。仰せの通りに…ザボボン様』
猫は頭も上げずにそう答えた。
「ならば今や艦内は大混乱ザマショ!」
アール・バイターの向かって左横から、どこぞの米国教育番組のデッケー黄色い鳥に似たダチョウがのたまう。
『仰る通りです。ドドリアーン様』
「「アギャギャギャッー!!」」
畜生みたいな笑い声を上げる鬼畜鳥類!
その2匹の背後から、何か白い物がフヨフヨと近づいてくる。
そして……
ベチバチベチバチ!! ベチバチベチバチ!!
「うんもッ!!」「ももすッ!!」
鼻水をくったらかし、2匹はその場で頭を抱える!
それらはハリセンだった!!
ふたつのデッケー、ハリセンが、鬼畜鳥類たちの頭を高速でシバいたのだ!!
「ゆ、許して欲しいのね!」「すみませんザマショ! アール・バイター様!」
「コーポー」
アール・バイターの前に平伏する鳥類!
そしてアール・バイターの周囲をフヨフヨと浮かび旋回するハリセン!
『あれが……。アール・バイター様の超能力…“ムラムラッティ”の力』
猫は怯えたように縮こまる。
そう! なんか唐突に出てきたが、スゲベッティとエロッティを抑制した童貞力から、童貞大邪神アンべレベの加護により得た特殊能力が、ムラムラッティという超常の力であることは、賢明なる読者諸兄の推察力を持ってすれば自明の理なのであーーる!!
「コーポー…ムラムラと共にあれ」
「「む、ムラムラと共にあれ…」」
なんかよくわからん決め台詞を、アール・バイターと、レイプ目になった鳥類が宣わったのであーった!!
☆☆☆
◇前回までのお話◇
ていへんだていへんだ!
さてはて、超宇宙空間に飛び出したモモジリ!!
好きな女の子と一緒のランデブーなら喜んでだけれども、相手は大暴走したゾンビビスの進化系ババエロンガであーる!
艦内に取り残された彼らの運命は如何に!?
このまま哀れな男たちは、貪り食われてしまうのか(性的に)!?
緊迫緊張の手に汗握る密室サバイバー的なエイリアソっぽい物語がいま始まる!!
…と、ちゃんとあらすじになってるぅ(驚)!!
★★★
「これからどうしましょう!?」
猫五郎は、主人公にあるまじき優柔不断さで周囲に回答を求める!
「もうダメだべ。諦めるださぁー」
ベンザーは、どこぞの真っ白になったボクサーみたいに黄昏れていた!
「ふざけるなー! ワシは…ワシはまだ死にたくぬぁい!」
「アタシもよぉ!!」
泣き喚く畜生2体!
どうしよう! 馬鹿ばかりで話が進まない!
「……とりあえず、ブリッジに行ってオキーナ艦長助けてみたらどーだ?」
賢者モードのゴリッポは鼻ホジーした。自分はやる気ナッシングなのである。
「そ、そうですよ! あのゴミクソみたいな艦長でも、艦長は艦長! なんとかしてもらいましょう!」
とんでもない失礼なことを言っておいて、他力本願な猫五郎も所詮は畜生だった!!
「仕方ねーな! んなら出発だべさ!」
こうして、自ら生き残りをかけて、畜生4匹はブリッジを目指したのであーった!
☆☆☆
通路の曲がり角に顔だけを出し、猿三郎は慎重に周囲を探る。
「おらん。…クリアじゃ」
猿三郎が手招きすると、残りの3匹が音を立てずに進む。
「しかし、ゾンビビスどもはどこへ行ったのかしら。この艦内のどこかに潜んでるのよね?」
「ええ。でも、隠れたりする知能はあるんですか?」
「そらぁ、それくらいはあるっぺよ。出会系サイトで詐欺写メで男ひっかけるなんて朝飯前ださぁ」
「それと隠れるのとどう関係が…」
「グダグダ喋っとらんでさっさか進まんかい! ……ん? クンクン! なんか良い匂いがするわーい!」
猿三郎が鼻の穴をおっ広げて言う。
「確かに漂うわね!」
「食堂からだっぺよ!」
「え? ちょっと、皆さん! ブリッジはそっちとは真反対で…」
さすが畜生! 食欲には逆らえず、目的も忘れて食堂へと向かったのであーった!
☆☆☆
食堂をパーンと開き、畜生どもが雪崩れ込む!
「飯じゃぁ!」「まんまよ!」「餌だっぺ!」
「だ、ダメですよぉ…皆さぁん。でへへ…」
鼻の下を伸ばして猫五郎の制止は弱かった!
というのは…
「ミーシャさんに迷惑がかかっちゃいますよぉ♡」
そう! あの雌猫に会いたかったのだ!
「あ、あら、どうしたの? 猫五郎くん!」
厨房にいたミーシャが、びっくら仰天して振り返った。
「ミーシャさん! よかった! ミーシャさんはゾンビビスになっていなかった!」
畜生らしく押し倒したい衝動に駆られながらも、ゾンビビスとなって逆に襲われるのもありかなぁなんて主人公にあるまじき考えの猫五郎は、わずかに残った理性でそうのたまわった。
「え、ええ! なんだか皆の様子がおかしくなってしまったから、ここで隠れていたのよ!」
ミーシャはなんだか慌てた様に早口で答えた! なんか、浮気夫が言い訳する時のような感じだった!
『コーポー。このワシに尻を向けて話すとは何事だ。ミー…』
「え?」
「な、なんでもないわ!!」
なんか床にあったモニターみてぇのを、ミーシャは180度くるりと回転させた!
「とりあえず! 食堂に来たってことは、お腹が空いてるからよね!? 畜生なんだから当然だわよね! ということは、この特製シチューのニオイに釣られて来たのね!!」
そういや、シチューのニオイがプィ〜ンと漂っていた!!
「ドックフードとキャットフードとモンキーフードとバードフードとオランウータンフードを混ぜた毒入りシチューよ!! さあ食べて!!」
ミーシャは勢いよく皿によそう!!
なんかそーいや、色が紫がかっていた!
なんかそーいや、心なしか盛ったルーがドクロみてぇな形状をしていた!
「コイツは美味そうじゃわーい!!」
「食うわよぉ!!」
「ちょっと待って下さい!」
理性を失ったケダモノどもががっつこうとしたのを、猫五郎が首根っこを押さえて止めなさられる!
「ミーシャさん! いまなんて言いましたか!?」
「絶品の
「違いますよ! いま、毒入りって…!」
「そんなことないわよ! 聞き間違いよ!」
ミーシャはしらばっくれた!
「ふーむ。ペロリ!」
ベンザーが舐める!
「こ、これは……」
「や、やはり毒が本当に…」
「うんまー!! こいつはウメェ!!」
ベンザーは畜生らしくスプーンも使わず食い漁る!!
「え、ええ?!」
「どきゃあ! このクソ猫がッ!」「アタシも食うのよ!」
「うあー!」
猫五郎を突き飛ばし、シチューへ突撃する猿三郎と雉四郎!!
「うまー!」「うめーじゃー!」「美味よぉ!」
食いまくって、挙句の果てにおかわりを要求する畜生ども! ミーシャは喜んで次をよそう!
「だ、大丈夫なんですか?」
満腹になって、爪楊枝で歯をシーシーしているベンザーに尋ねる。
「大丈夫だぁ! オラたち動物は野生の勘で危険物を察知することが…」
「ことが…?」
「…ヴッ?!」
ベンザーは青白い顔をして鼻水を滴らせる!
「ンブゥッ!」「アウッ!」
猿三郎も雉四郎も同じように苦しみだす!
「ど、どうしたんですか!?」
「ど、毒ださぁ! コイツはぁ、レディースがゾンビビスに、メンズがナエナエ・シンドロームになる毒ださぁ!!」
「な、なんじゃとぉ!?」
「な、なんですって!?」
「だから言ったじゃないですか!!」
やっぱり畜生は、畜生だったのであーーる!!