目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

37 鬼ヶ島の童貞王

 超東京うんももす町直轄区、鬼ヶ島。


 それは童貞を拗らせた男のみならず、オタクやニートたち、そして嫁さんに「休みだからって帰ってくんな!」と言われたオッサン、娘に「パパのパンツと一緒に洗わないで!」と怒られたオッサン、パチ屋で台パンして出禁になったオッサン、免許返納に来たのに自家用車で帰ろうとするジジイ、サービスカウンターで意味不明な供述を繰り返して怒り狂ってるジジイまでもが過ごせる、そんな夢の楽園(ゴミの埋立地)であーった!!


 さてはて、鬼ヶ島の朝礼台(学校の運動場にある校長が長話をして生徒を気絶させる装置のアレ)の上に立って、なんかのたまわっている鬼が1匹いたァーッ!


「我々は童貞の中の童貞である! 確かにリア充に比べ、我が鬼ヶ島の充実度は半分以下である! それにもかかわらず、今日までイキ抜いてこられた理由をおわかりか? 諸君! 我が鬼ヶ島の卑猥な目的が正義だからだ! これは諸君らこそが一番知っている! 我々は超日本を追われ、女共からも爪弾きにさせられた! 何度、鬼ヶ島に住む我々がリア充生活を要求して、悔しくも踏みにじられてきたか。鬼ヶ島の掲げる童貞ひとりひとりの自由のための戦いをゴッデム神が見捨てるはずはない!」


 半分以上は意味不明だが、ノリと勢いでなんか止まらない時ってあるよねみたいな感じで続けるぅ!


「我々は過酷な底辺メンズな生活の場としながらも共に苦悩し、切磋琢磨して今日のオタク文化を築き上げてきた! しかしながら、リア充のイケメソ共は、自分たちが童貞の支配権を有すると増長し我々に徹底抗戦する! 諸君の父も、子も、そのイケメソの無思慮な抵抗の前にタヒんでいったのだ! この切なさも悲しみも怒りも忘れてはならない! それを、我が股間はタヒをもって我々に示してくれた! 我々は今、この激怒をかき集め、イケメソ・リア充に叩きつけてやろうではないか! ただひとつの勝利こそ、タヒ者への最大の慰めとなる! 童貞よ勃て! 絶望を怒りに、欲情を胸に、勃てよ! 童貞よ! 我ら鬼ヶ島の鬼こそ選ばれた存在であることを示すのだ! 童貞バンザーイ!」


 童貞万歳の掛け声が木霊する!


「……すみません。コレなんの騒ぎなんでしょう?」


 夜の仕事から帰ってきてみれば、とんでもねぇことをやってやがる鬼たちに、地味男っぽくてネクラっぽい、いわゆる「うぇ〜いw オタクくん、見てるぅ〜?」とか言われて、好きな女の子を寝盗られちゃうような、パパから呼び出されて巨大なロボットに乗れって言われて、乗らなきゃ帰れって理不尽なこと言われて「逃げちゃダメだ」を連呼しそうな気弱な主人公補正のありそーな、そんな感じの鬼が尋ねた(言われた言われたうるせーなw)。


「オウフwww いわゆるストレートな質問キタコレですねwww おっとっとwww 拙者“キタコレ”などとついネット用語がwww」


「はぁ……?」


 ものすげー勢いで喋る鬼に、聞く相手を間違えてかと主人公補正はため息をつく。


「ドプフォwww ついマニアックな知識が出てしまいましたwww いや失敬失敬www まあ、萌えのメタファーとしてはよく真似てるなと賞賛できますがwww 拙者みたいに一歩引いた見方をするとですねwww ポスト指導者のメタファーと商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww あの宣誓の文学性はですねwwww フォカヌポウwww 拙者これではまるでオタクみたいwww 拙者はオタクではござらんのでwww コポゥwww」


「はぁ……そうなんですか」


 もはや話にならないと、彼は諦めた。


「おや、よく見たら“王”ではござりませんか!」


「あ、いやその…」


「こんなところに居てはなりませんぞ! ささ、壇上の方へ!」


 半ば突き飛ばされるようにして、壇上の方へと押しやられる彼!



「ん? おお!」


 壇上で演説をしていた男は、彼を見てびっくら仰天した!


「王! 我らが王! 鬼の中の鬼! “童貞王”!!」


「いえ、ちょっと、その呼び名は……」


「今は勃…いえ、決起…いや、決“鬼”集会中です! 皆の士気を愛撫…もとい、鼓舞しておりました!」


「は、はぁ……」


「さあ! 童貞王からもなにか一言!!」


(ああ。なんでこんなことになっちゃったんだろう……)




★★★




 時は数年前に遡る!


 激ウマ格安でなにが悪い的な某ファミレスで、ぼっち飯をしていた彼は、やかましゃー集団に遭遇したのだ!



「童貞でなにが悪い!」


「「「なにが悪い!」」」


「鬼になってなにが悪い!」


「「「なにが悪い!」」」


「お前も鬼になれ!」


「「「鬼になれ!」」」



 そんな風にヤベーことを連呼していたが、かかわったら最後、凌辱される危険性を感じた女性店員たちは注意するにできないでいた! そしてドリンクバーしか頼まねぇで何時間も居座ってる、そんな迷惑な客どもであーった!


「なんなんだろう……アレ」


 せっかくのデミグラスハンバーグも美味しくなくなってしまうと、彼は嘆く。


「おや、こんなところにも1匹の鬼がおられましたな」


「え?」


 声がした方へ振り向くと、そこにはドリンクバーを取りに来ていた、メガネデブロン毛のアニメ絵シャツのオタクがいた!!


「つかぬことをお聞きしますが……」


「はあ?」


「童貞ですかな?」


「……は? あ、な、なんなんですか!? 失礼な!」


 彼は真っ赤になった! 図星であったが、面と向かって言われて、怒ったのも相まって赤くなったのであーる!


「いやいや、隠さなくてもよろしい! 根暗、影が薄い、存在感がない、チビガリヒョロと言われることはございませぬかな?」


「そ、それは確かに言われることもありますが……」


「ドゥフドゥフw アナタとはなにか親しいものを感じますぞ!!」


「ちょ、勝手に横に座らないで!」


 許可もなくオタクは隣に座り込む。デッケェー図体でグイグイと押すようにだ!


「うひ?!」


 そしてオタクはいきなり彼の股ぐらを掴んだ!


「や! やめて!」


「こ、これは……! そんな! 一度も放出したことがないパンパンの玉袋!! な、なんという圧倒的な魔力!!」


「は、はひぃ?」


 びっくら仰天して、フルフルと震えるオタク!


「み、皆の衆!! ここに! ここに“王”がおられるぞ! これは伝説の“童貞王”に相違ない!!」


「は、はあ!?」


 こうして、彼は童貞王となったのであーる!!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?