俺は椅子に置いてあった服をソフィアに渡した。
「服を着てくれ」
「……なぜ!?」
「魅力的なお誘いだけど、見ず知らずの女の人を抱こうとは思わない」
ソフィアは服で胸元を隠しながら、ポロポロと大粒の涙を落とした。
「や、やっぱり、……あたしのような……根暗なゼロは……誰も抱いてくれないの……ですね」
俺は慌てる。俺が悪いのか?
「いや、君は十分魅力的だよ。それに俺はゼロとか気にしたことないし。ただ、今日初めて話していきなりっていうのもね。そういうのはもっとお互いの事を知ってからの方がいいと思うんだ」
何言ってるんだ? 俺! 冷静になれ!
「お、お優しいんですね」
ソフィアはしばらく泣いていたが何とか泣きやみ、素直に服を着てくれた。
そういえば、あの時に男たちはソフィアの事をゼロのくせに魔法技術院に勤めていると言っていたな。
「ソフィア、お礼の代わりではないんだが、一つお願いがあるんだ」
「何でしょう? やっぱり脱ぎます?」
最初に比べてソフィアは落ち着いた声で答えた。内容はちょっとあれだが。
「君は魔法技術院に勤めているんだろう。実は俺はまだ一度も魔法習得の儀を受けたことがないんだけど、格安で受けることはできないだろうか?」
ソフィアは少し残念そうに考えてた。
やはり、無理か。
「そうですわね。条件がありますが、ただで魔法習得の儀を受けることは可能です」
「ほ、本当か?」
思わず、大きな声を出してしまった。
ソフィアがびくっと身をすくめる。
「大きな声を出してごめん。それよりその話は本当なのか?」
ソフィアは軽く深呼吸した。よほど大きな音が苦手なんだろう。
「ええ、ただし先ほど言いましたように、条件がございますよ」
ソフィアが出した条件はこうだ。
ソフィアの仲の良い人間が魔法習得の儀を行うときに一緒に行うのでそれまで待つこと。
通常はリストで決められた人しか行わないので、最後の人が終わった後にこっそりと行うので、夜に行うこと。
魔法習得の儀で魔法が手に入らなくてもあきらめること。もともと男性の魔法習得率は非常に低い。
「最後の条件ですが、魔法技術院に黙って儀を行うのですから、このことを口外されるとあたしや知り合いに迷惑が掛かります。最悪、処刑かもしれません」
「わかった! 決してこのことは口外しない。約束する」
ソフィアは静かに首を横に振った。そしてピンクの瞳で初めて俺を真っ直ぐにじっと見る。
「あたしがあなたの事が信頼に足りる人かどうか見極めさせてください」
「わかった。それでどうしたら俺のことを信頼してもらえる?」
当然の要求だ。どんな要求されるかわからないが、それで魔法習得の儀を行ってもらえるならやるしかない。
「……と」
またソフィアの声が小さくなった。
「ごめん。聞き取れなかった。大きな音が苦手なのはわかるが、もう少し大きな声で言ってくれないか?」
「でーと……。あたしとデートしてください」