「なぜ? ほとんどみんな一度は魔法習得の儀を受けているんだよな。だったら、どんな儀式かみんな知ってるはずだろう」
ソフィアは首を横に振った。
「魔法習得の儀が終わるとどんなことが行われたかみんな忘れるの。それも儀式の一つに組み込まれているの。知識や技量がない人間がうわべだけ理解して勝手に儀式を行わないようにするために必要な事なのよ」
ということは魔法技術院の人間以外でも出来るという事か?
「魔法を習得できる最大数は五個だっていうのはみんな知ってると思うんだけど、六個以上習得も技術上可能なの。だけど六個以上習得した人、亜人も含めて、全員が精神崩壊を起こすか、魔法が暴走してマナ不足で死ぬか、良くて魔法が一切使えなくなるの。だから、そんな事故を防ぐために魔法技術院が儀式の流出をしないように管理しているのよ」
つまり最大五種類の魔法さえ分かれば、あとはその対処か。
「ちなみに魔法を使いこなせれば、同じ魔法で色々な効果を出すことは可能か?」
「種類にもよるでしょうけど、可能だと思うわよ。魔法はあくまで道具だから、道具は使い方次第だから効果が違ってくるわよね」
しかし、魔法のこととなると自信を持った喋りになるな。よっぽど魔法のことを研究してるんだろう。
「そうやって自信持って話している方が綺麗だよ」
思わず思ったことが口に出た。
「え、あ、何の罠?」
だから、何で罠なんだよ。
「魔法の話をしたり、ダンスをしているソフィアは魅力的な女性だと思うよ」
顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。
「それで、俺は今日一日でソフィアの信頼は得られたのか?」
それによって魔法習得の儀が受けられるかどうか決まる。
「そんなの……助けてもらったあの時から……信頼してます」
魔法習得の儀はソフィアとデートをした日の二日後に行うことになった。
夜遅い時間、魔法技術院の裏門で待ち合わせる。
その日は酒も飲まず時間になるまで部屋でゆっくりとしていた。
レイティアと三日ぶりにあったが、魔法習得の儀の事で俺の頭はいっぱいで上の空だった。
時の鐘が静かに十回鳴る。この鐘を合図にほとんどの店が閉まり、街に人影がなくなる。
「気をつけて行ってくるんじゃぞ」
あらかじめ、ムサシマルに話はしてある。
一通りの武装をして俺は街に出る。
さいわい今日は月明かりがきれいに街を照らしていた。
指定された場所に行くとソフィアが隠れている。
守衛室でソフィアが入館の手続きをしている時、俺は守衛に見つからないように中に侵入した。
その後、出会う人もなくある部屋に通された。
「少しここで待っててください。すぐライセンサーが来ますので」
窓もない部屋で外部と遮断されている。調度品はないが、ロウソクにより十分明るかった。
その部屋の中央に小さなテントが一つあった。
魔法習得の儀はあの中で行われるのだろう。そうすれば部屋をのぞいても中で何をやっているかわからない。
「お待たせしました」
頭からすっぽりとマスクをした人間が来た。男性か女性かもわからない。おそらく目の部分に小さな穴があり中からは見えるのだろう。
長袖に手袋。全身黒服に魔法技術院のマークなのか豪華な金の刺繍を施していた。
街で会ったら踵を返して逃げだしそうな格好をしている。
促されるようにテントに入る。
いよいよ、魔法習得の儀だ。