昨夜は一緒に食事をしただけで満足したらしく、ソフィアは家へ帰った。
そして、次の日の朝早くまたやってきた。
今日は昨日のようなメイド服ではなく街の外に出る装備をしている。
いつもはふわりとした長い髪を今日はきちんと結い上げて兜の中に収めていた。
胸当ても俺たちの革製ではなく、金属製だ。あの大きいのがすっぽりはまってる。ズボンにスネまである長いブーツは、革製だが動きやすいようにしっかりと使い込まれている。まるでいつも街の外に行っているようだ。
「どうですか? 似合ってますか? ご主人様」
「似合ってるけど、いつもは街から出ないよな」
「ええ、そうです。ただ、いつ何があるかわからないと両親が用意してくれていたのです」
「そうか、いい両親だな」
「はい。あたしにはもったいない両親なんです」
森へと向かう道でソフィアは嬉しそうに話す。
「なあ、キヨ。今日はリーと落ち合う場所あたりで、嬢ちゃんの魔法の練習をするのでいいんだな」
「ああ、今日はそれでお願いします。それでいいな、ソフィア」
「はい。ご主人様」
「あそこはそれなりに森の奥じゃ。昨日もレッドキャップが出たんじゃが、万が一の時には隠れるか逃げるなりして自分の安全を第一に考えるんじゃぞ、嬢ちゃん」
「……は……い」
助けを求めるように俺を見ながら返事をするソフィア。
朝、ムサシマルにソフィアを紹介したのだが、ソフィアの人見知りが発動して二人の会話は一方的にムサシマルが話すだけになる。
森に入り俺たちはいつものように獣などの動物の痕跡を探しながら、奥へと入っていく。
途中で山鳩が木に止まっているのを見つけた。
俺はソフィアに合図を送った。
「バイブレーション!」
山鳩はその声に驚き、飛び立った。しかし、飛び方がおかしい。ふらふらとして初めてとんだひな鳥のようだ。
俺はすかさずクロスボウで撃つ。
急いで山鳩を触ると痙攣を起こしているように振動していた。
俺はすぐに頭と胸を裂き、ソフィアに見せた。
「次は脳か心臓に直接魔法を使ってみてくれ。場所はわかるな」
ソフィアは素直に脳と心臓の位置、どんなものかを確認した。
料理をしている関係上、ある程度は知っているが、特に脳は捨てる部分という認識しかなくしっかりと確認していない。
しばらくするとカラスの群れがいた。奴ら雑食のせいか肉に臭みがあるため料理を選び、あまり人気がない。
まあ、まったく売れないわけでもないし、ソフィアの練習にはいいかもな。
俺はカラスを指さし、次に頭を指さした。
ソフィアは黙って頷いた。
「バイブレーション!」
その声にカラスの群れが一斉に飛び立ったが、そのうちの一匹がすぐ墜落した。
しばらくしてカラスの群れが戻ってきた後に今度は心臓を指した。
「バイブレーション!」
同じようにカラスが飛び立ち、今度は俺たちから離れてしまった。
その様子を見ると一匹がふらふらと飛んでいる。こちらの結果としては微妙だな。
「よくやった、ソフィア」
俺は昨日したようにソフィアの兜越しの頭をなでながら言った。
「ありがとうございます。ご主人様」
「どうやらうまくいったようじゃのう」
今回は付き添いのようになっているムサシマルも成り行きを見ている。
「これでソフィアの魔法も実践で使えるだろう」
そう言ったとき、カラスが一匹遅れて飛んで行った。脳震とうから回復したのだろう。
「今日は怖い魔法持ってるお姉さん連れてきたんだな」