突然だが、俺はシューティングゲームが好きだ! シューティングと聞いてFPSを思い浮かべた其処の君、君だよ君! あんなのはシューティングゲームなんかじゃ無い、俺に言わせりゃ、あんなのはただの戦争ごっこだ。男なら宇宙を股にかけ、凶悪な異星人どもを蹴散らさんかい!
そんな俺は昨今のSTGの不作っぷりを嘆き、レトロハードを引っ張り出しては名作STGに明け暮れる日々で、今日も今日とてSTGに興じており、アドレナリン全開でボスラッシュの弾幕を避けまくる。
「ヒャッハ〜、1ドットのエクスタシー!!」
叫びながら弾幕に突っ込んでいく、その刹那、鈍器で殴られたかの様な頭痛と激しい眩暈がする、時間にして数フレームか? 俺の愛機は被弾しド派手な爆炎を撒き散らす、まるで俺自身が被弾したかのごとく同時に意識が消えて行くのだった………
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……俺は目を覚ました。
「ううん?……知らない天井……か?」
目を覚ました俺は、目に入る見知らぬ青い天井を見つめそう呟く。
「眩し! って、天井じゃねぇよ、青空だよ。何で野っ原で寝てんのよ?」
目を覚ました俺は辺りを見回すが、全く持って覚えがない場所で目覚めた。会社帰りに一杯やって酔っ払って寝過ごし、起きたら終着駅だった、ならまだ救いがあるが、辺りは見たことも無い見事な草原だった。
「オイオイ、俺の人生終着しちゃったかぁ?」
立ち上がり周囲をグルリと見渡すと、舗装のされて無いデコボコとした砂利道が街へと伸び、その遥か先には外壁に囲まれた中世ナーロッパ風の建物が小さく見える。
視線を下げれば、俺の周りには赤や青のグミがたくさん落ちてる。ただし直径40〜50cmは有ろうクソデカグミがだ、それがプルプル震えながら飛び跳ねている。
「オイオイ嘘だろ? スライムじゃねぇかぁ〜〜〜!!」
はあぁ? 俺は確かSTGやってて意識を失ったのに、なんで剣と魔法のファンタジー的な異世界にいるんだ? オーマイ神様!仏教徒だけどボスケテ〜
「って、ボスケテ言ってる場合か! 俺の予想が正しければ……剣と魔法と…………モンスターの世界じゃないの!」
ヤバイと思った俺は、街道へ向かいとっとと逃げる、スライムとは言えあんなデカいの丸腰で相手できるか! 幸いスライム達はアクティブモンスターでは無く、少々の接触では戦闘にはならなかった。
「ふう、此処まで来れば安全か」
取り敢えず街道まで出て一息つき、コレからのことを考える。見知らぬ草原、中世ナーロッパ風の街、スライムと来れば……優秀なオタクである俺は当然、異世界転生ラノベも余裕で履修を終えている。その優秀な頭脳が導き出した答えは……
「スッテータスぅ! オ〜〜ペェン!!」
俺の魂の叫びに呼応するように現れた青いウインドウ。
「キタキタキタ〜! やっぱ異世界転生つったらステータスオープンが基本でしょ!」
見事に開いた青いウインドウを見ると……??? 何だコレ? 社畜の皆んな大好き、マイケルソフトのエクシードセルよろしくテキストが書かれたセルが、ウインドウの下の方に横に6個並んでいる。
「『スピーダァップ』『ミッソー』『ダァボォ』『レィザァー』『オプスン』『?』」
右から順に読み上げる。まんまSTGの超傑作ソフト
「"だったのだ!" は良いけど、如何やってゲージ貯めるんだよ?」
このウインドウが『ネメディウス』のパワーアップゲージを表すとしても、パワーアップカプセルを得るには敵を倒さなければならない。自慢じゃ無いが、この
「(やれやれ、シューティングゲームマニアが聞いて呆れるわね)」
突然頭の中に響く女性の声、辺りを見回すがそれらしき人物は愚か、気配すら感じない。念の為ジャージのズボンの中も見てみるが、いつものアニメプリントのトランクスしか見えない。
「(そんな所に居るわけないでしょ!! まったくもう、如何いう思考回路してるのかしら?)」
更に脳内に響く美声(リバーブのエフェクト付き)、CV誰だ?こんな神々しい声優いたか?
「(ちょっと、CVとか声優とか訳の分からない事言ってないで、女神で有るこの私の話を聞きなさい!)」
「女神様? マジで? と言う事は…………俺は……もしかして……死んだ?」
「(ピンポン、ピンポン、ピンポ〜ン、正解でーす。そうです、貴方は死んでしまいました)」
「え、ちょっ、何で? 俺STGやってただけで、ダンプに轢かれたり、ブラック企業で残業三昧だったり、そんな事何もしてないのに何で死んだんですか?」
「(あー、それは何もしてないからよ。アラフォーのオッサンがヒキニートでコーラ飲んでポテチ食べてゲームばっかりしてたら、そりゃ不摂生が祟って死ぬわよ、運動しなさい運動)」
……なんか神々しい女神様が、一気にオカンになってしまった。
「(なんか言ったかしら?)」
「いえいえ、何も言ってないです、思っただけです。それで死ぬべくして死んでしまった俺が、何でこんな世界に転生してるんですか?」
「(其れは……偶々、偶然、ラッキーみたいな?)」
…………そりゃそうか、事故に遭いそうな子供の代わりに死んだとか、神様の手違いで寿命が尽きたとかじゃ無く、不摂生で死んだだけだもんなw
「(偶々だけど、其れは言っても詮無い事ね。という事で貴方には試練を与えます。私の授けたスキルを使い、この世界を平和に導いてもらいます)」
「……俺がこの異世界の平和を守るのですか? 自慢じゃ無いですが、腕っぷしは、からっきしですよ?」
「(勿論分かっています。その為のスキルと、オマケで此方の世界での新たな体と、貴方の全盛時の反射神経を与えています)」
「スキルとは、このウインドウに書かれている、『ネメディウス』の様なパワーアップゲージの事ですか?」
「(そうです、基本的な使用方法は『ヘルプ』機能を呼び出せば、貴方なら直ぐにマスター出来るはずです)」
「分かりました、取り敢えず出来る事から、出来る何処までやってみます」
「(ダメです、必ずこの世界を救いなさい。私の限定解除が掛かっているんですからね? 貴方には『YES』か『はい』のどちらかしかありません)」
オイオイ、ブラック気質な女神様が、今サラッとなんか言わなかったか? 限定解除が掛かってるとか何とか。要するに女神様はこの世界を救うのが限定解除とやらの課題で、偶々死んだ俺がその手伝いの為この世界に呼ばれたのかよ。
「もしも、もしもですが、この世界を救えず滅んでしまったら、どうなるのですか?」
「(そうなると、私はまた創造神様の元で、限定神から修行のやり直しよ。あのエロ爺いの元でとか、もお耐えられないんだから。だ・か・ら、絶対に成功させる事、分かったわね?)」
「イエス、マム!」
「(宜しい、では行きなさい)」
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「はぁ、救えなかったら、"俺が"如何なるか聞きたかったんだけどな」
女神様の剣幕に押されてつい返事をしてしまったが、この世界の事が全く分からん。モンスターはその辺ピョンピョンしてるし確定か。剣は普通に有るだろうし、後は魔法は……有って欲しいが分からん。国家や政治形態や宗教、他にも通貨や経済やら何やらかんやら……
「まあ、取り敢えず、ヘルプ見てから考えようか」
思考放棄し、開きっぱなしのウインドウに目をやりヘルプを探す……ウインドウの角に有る『?』マークをタップ後、任意の項目をタップすると説明文が現れた。
「成程、ヘルプの内容からSTG的な部分と、RPG的な部分が混ざってる様な仕様だな」
現状使用できるスキルは『ノーマルショット』のみで、2連射まで可能で弾切れは無し。
赤い敵を倒すとカプセルをドロップするので、其れを使用する事でパワーアップゲージをチャージする。
ゲージの使用は音声入力で可能。
敵を倒すと
後は、残念な事に、残機制ではなく
「ほんじゃ先ずは、『ノーマルショット』を試射してみますか」
えーと……ヘルプで『念じろ』しか書いて無かったな。出来の悪いマニュアルそのもので、ちょっとモヤるが文句言っても始まんない。
「やはり、アケコン
そう言いつつ、足は肩幅に開き、左手はスティックをオーバーハンド、右手は親指からの三本指を開き、まるでジョイスティックを操作する構えを空中で取る。とてもじゃ無いがコレからモンスターとのバトルの様には見えない。
「先ずは一発、その辺の森にでも打ち込んでみるか」
そう決めると、右手の人差し指でショットボタンを押すイメージし念じる『ノーマルショット』発射! ピュンと軽い発射音と共にショットが飛び、着弾。
ドッゴォ〜〜ン
「…………ハ、ハハ、マジかよ、此れはアレか? ビックパイソンのスケールのまんま再現してんのか?」
街道から見える森との境目に出来たクレーターを見て、乾いた笑いしか出ない俺は、誰かに見つかる前に、この場からトンズラするのだった……