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第14話

「さて、話が盛大に逸れましたね。今はこれからのダンジョン運営の大事な話の途中だったと言うのに」

責めるように俺を睨むリゼル。

……俺のせいなのか?

「ともかく、これは大変な事態ですよ」

「そうだな。結局手に入ったのは、あの鉄粉だけだし」

まだインベントリにしまっていない袋を眺めながら呟く。

ポイントも300ポイントになってしまったし、これは本格的に詰んだかもしれない。

……楽な自殺の方法ってあるかな?

「主様、諦めるのは早いわよ」

「そうです。まだ何とかなりますよ! だから死んじゃ駄目ですっ」

二人に励まされて、何とか思いとどまる。

だけど、どうしたものか。

だいたいゴブリン三匹分くらいしか残っていないポイントを眺めながら頭を悩ませる。

そうしていると、どこからかため息が聞こえてきた。

「はぁ、全くしょうがないですね」

その方向を見れば、リゼルが肩を竦めながらそう呟いた。

「なにか、考えがあるのか?」

「はい。ハヤトさんを甘やかすから黙っていようと思ったんですけど、ちょっとした裏技を使いましょう」

裏技?

「時に、ハヤトさんは今いくら持ってます?」

それは、現金って意味か?

「はい。出来れば小銭が良いんですけど、なければ札でも結構です」

突然生々しい話が始まった。

いったい何に使うのだろうと訝しんだが、リゼルにはリゼルなりの考えがあるんだろう。

ポケットに入れっぱなしになっていた財布を取り出してひっくり返すと、俺の全財産が机の上にばら撒かれる。

占めて、小銭だけで1769円。

「内訳的には、500円玉が二枚に100円玉が七枚。それから10円玉六枚に1円玉が九枚ですか。……今言うことではないかもですけど、あまりに貧相過ぎません?」

放っておいてくれ。

こちとら貯金を食いつぶすだけのニート生活を送っていたんだぞ。

そんな俺が大量の現金を持ち歩いていたら、その方が不自然だろ。

「まぁ、今は結果オーライですよ。これだけあれば十分です」

ジャラジャラと小銭を弄びながら喜ぶリゼル。

そろそろ、説明してくれないか?

「ああ、そうでした。……実はポイントは、生物を殺す以外にも得ることができるんです」

そうなのか?

「はい。その一つが、ダンジョンコアにお金をつぎ込むことです。お金ってのは、この世で最も魔力の宿る物ですから」

なんだか若干俗っぽい話になってきたが、理解はした。

つまり、この金をダンジョンコアにつぎ込めばいいのか。

「いや、こんな二束三文使ったところで事態は好転しませんよ」

……じゃあ、どうするんだ?

「はぁ……。あのですね、ハヤトさん。このお金は、この世界的には異世界の硬貨なんですよ」

まぁ、それはそうだよな。

俺にとってこの世界が異世界ということは、この世界にとっても俺の元居た世界は異世界ということになる。

だけど、それがいったいどうしたんだ?

「異世界の硬貨って、それだけで高そうじゃありません?」

なるほど。

なんとなく、リゼルの言いたいことが理解できてきた。

この小銭を元手に、この世界の金を増やそうってわけか。

「そうです、そうです。理解力のないハヤトさんも、やっと気が付きましたか」

言い方は悪いけど、ともかく言いたいことは理解した。

だけど、どこで売るんだ?

スマホじゃ、流石に無理だろ。

「そうですね、街の骨董屋とかが良いでしょう。ただ、そうなると一度街に行かなくちゃなんです」

かと言って、全員で行く訳にはいかないな。

「そうですね。最低でも、ハヤトさんかネールっちのどちらかは残った方が良いかと」

「わ、私も街に行くのは嫌なのですっ」

リゼルの意見に、ミリィが泣きそうな目で訴えかけてくる。

そうなると、ミリィと誰かが留守番か。

「それじゃ、ネール。お願いできるか?」

「良いけど、ちゃんと対価は貰うわよ」

「がめつい女ですねぇ」

ケンカが勃発しそうだったので、すかさず二人の間に入る。

「俺が留守の間のダンジョン防衛は、一日につき借金から200ポイント減額ってことでどうだ?」

「それと、侵入者を倒した事によるポイントも別途で換算なら良いわよ」

「……分かった。そうしよう」

ここで揉めても仕方ない。

つまりは、俺がダンジョンをあまり留守にしなければ良いだけだ。

交渉も終了したし、早速出発しよう。

ついでに、鉄粉も少し売ってくるか。

「それじゃあ、街に行くのはハヤトさんと私ってことで良いですね」

「ああ、そうなるな」

「それじゃあ、せめてハヤトさんに一般常識を得てもらわないと困るかもしれませんね」

一般常識を得るって言っても、今から勉強したら遅くならないか?

「チッチッチッ。ハヤトさん、あまり異世界を舐めてもらっちゃ困りますよ」

いや、舐めてるつもりはないんだが。

「ともかく、ダンジョンマスターの特権で、ポイントさえ支払えばスキルだって覚えることが可能なんですよ」

おお、それは便利だな。

「一般常識くらいなら、300ポイントもあれば取得できますから、サッサと覚えちゃってください」

スマホに表示された「スキル管理」画面を開くと、そこには様々なスキルが表示されていた。

その中で『一般常識・初級』スキルを見つけてタップすると、どうやら100ポイントで取得できるらしい。

迷わずに取得してみたが、特に変わったところはない。

不安になってステータスを開いてみると、そこには確かに『一般常識・初級』が表示されていた。

「一般常識は、適宜ハヤトさんの思考を手助けしてくれますから大丈夫ですよ」

そう言うことは早く言ってくれ。

「まぁ、良いじゃないですか。……あっ、ポイントは使い切っちゃっても大丈夫ですから、なにか気になるスキルがあったら覚えちゃっていいですよ」

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