夜空に大輪の花が咲いている。壮麗な花火があがったあと、腹の底に響くような音が後から追いかけてくる。
「そうか。今日は縁日だっけ・・・・・・」
「今年は誰も誘って来ないな・・・・・つぶらな
「無理もないか・・・・・・」
そんな彼女の気持ちを気遣ってか、いつしか怜美を誘う友人もいなくなってしまっていた。怜美は世間から距離を置いた生活を送るようになっていたのだ。
「はぁ」桜色の柔らかな唇からため息をひとつ。「縁日か・・・・・・気分転換に行ってみようかな」
怜美は意を決して普段着のまま、赤い鼻緒の下駄をつっかけて夜の街に向かって歩み出した。
提灯が連なる並木道を通り抜けて縁日に出る。そこには思いのほか大勢の人々が歩いていた。
「すごい。屋台がいっぱい」
お好み焼きの香ばしい香りや、鯛焼屋の甘く茹であげられた小豆のふっくらとした匂いが立ちこめている。
アニメ・キャラクターの大きなビニール袋が所狭しとぶらさがった綿菓子屋。赤い金魚や黒いデメキンが勢いよく泳いでいる金魚すくい。あたりは提灯やら、夜店の裸電球の明かりで眩しいぐらいだ。
そんな雑踏の中には両親に両腕を引かれ、浴衣を着た小さな男の子が嬉しそうにはしゃいでいる姿もあった。・・・・・・生きていれば弟もあれぐらいの年になっているんだろうな。怜美はぼんやりとその家族に見入っていた。
「あっ」
その時ふいに人混みの中に、知人の顔が現われた。会社の同僚たちだ。怜美は反射的に暗闇に身を隠していた。まるで路地裏に捨てられておびえる猫のように。
「なんだ、元気になったんじゃない。明日から会社に出ておいでよ」などと言われるのが容易に想像できた。仲間には悪いが、そんな気分にはなれない。気持ちの整理がまだつかないのだ。
怜美は薄暗い屋台の裏を通り抜け、そのまま
お祭りの喧噪が
しばらく歩くと、ふいに怜美は足を止めた。肩まである怜美の黒髪が揺れる。
「あら、こんなところに鳥居なんてあったかしら?」
今まで気づかなかったのだが、古めかしい小ぶりの赤い鳥居が怜美の目の前に現われたのだ。こんな山の中腹に小さな神社があったのか。お祭りだからだろう。本堂へ連なる
「お参りして、もう家に帰ろう」
怜美は鳥居の前でぺこりとお辞儀をすると、参道へと歩を進めて行った。下駄が軽やかな乾いた音を立てた。