※1997年初版。絵本作家・飯田サダハル氏による自費出版。
昔むかし――。
今で言う童ノ宮と夢ノ宮の境にある深い森に、それは恐ろしい魔ものが棲みついておりました。
その魔物は死んだサルをはじめとして、ウサギやイノシシ、シカと言った動物の死体に乗り移り、不思議な力で女・子どもを操つり、村から食べ物を奪い取るなど悪さを働いていました。
村の男達は魔物をやっつけようとそれぞれ武器を手に立ち上がりましたが、
「俺さまはお殿さまだぞ。言うことを聞け!」
という魔物の威張った声を聞くとヘナヘナと腰砕けになってしまうのでした。
そして、その間に魔物の爪と牙にかかり、かわいそうなことにみんな死んでしまいました。
苦しんだ人々はみんなで相談して童ノ宮の神様にお参りして、
「どうか助けてください」
「どうか魔物をやっつけてください」
と一生懸命お願いしました。
そんな人々の祈りに心を打たれた童ノ宮の神様は、稚児姿のてんぐ様になって現れ、こうおっしゃいました。
「大きくて強い牙をもつ猟犬と腕の良い鉄砲撃ちを集めなさい。彼らが魔物をかく乱すれば、すきを突いて私が退治してあげましょう」
人々は言われた通り村中をまわって魔物と戦えそうな強くて大きな犬をかき集め、みんなでお金を出し合って近くの村から腕のいい猟師、つまり鉄砲撃ちを雇いました。
やがて、村を舞台に魔物とのはげしい戦いがはじまりました。
何頭かの犬と何人か鉄砲撃ちは魔物の鋭い牙と爪のせいで死んでしまいましたが、てんぐ様は約束を守ってくれました。
空から大きな岩を降らせ、魔物のからだを押しつぶし退治してくれたのです。
「この岩は動かしてはいけません。年に一度、この岩を神様としてお祀りし、お神酒をかけてあげなさい。そうすれば魔物は岩の下から這い出ることはないでしょう」
そう言い残し、てんぐ様は童ノ宮に帰ってゆきました。
人々は大いに喜び、てんぐ様に感謝をささげ、死んだ犬や鉄砲撃ちの霊を慰め、言われた通り大岩に年に一度お神酒を注いでお祀りをしました。
そして、そのお祀りは今も続いているのです。
本当に、なんとありがたいことでしょう。
オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ。