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第15話 第一章 終

一方その頃、隆は当番勤務を終えて家に帰ってきた。

スマホを見ると着信があった。

それは佐奈子の父親から。すぐに掛け直した。


「すいません、仕事でして」

『すまんな、お疲れさま』

「いえ……仕事があった方が気が紛れます」


そういう隆の見る先は佐奈子との写真。


『最近どうかね、うちの娘が化けて出てくることはなくなったかな』


「……昨日も来たのですが、気配はなくなりました」


『そうかね……迷惑かけて済まなかった。君もまだ若いから娘のことを忘れて次の人に行って欲しいんだわ』


そういう佐奈子の父親。隆は何と返せばいいのかわからない。


『困らせてすまんな。体大事に……来週の週末には墓参りに行こうとは思うんだ』


「はい、僕は明日も行きますが来週も……」





話を終えて隆は電話を切る。


「佐奈子……」


スマホの画面にはロック画面にしたままの、佐奈子と一緒に写る写真がわずかに映っていた。


彼女がまだ生きていた頃、よく喧嘩もした。だけど、不器用にでも笑い合えた時間は、間違いなく本物だった。


「なんであのとき、もっと……」


悔しさとも後悔ともつかない感情が、喉の奥に詰まる。隆はその場にしゃがみ込んだ。

部屋は静まり返っている。いつもなら、佐奈子が無造作に靴を脱ぎ、雑な言い訳で玄関を通り抜けていく音がしていた気がした。


不意に、カーテンの隙間から夜風が吹き込み、写真立ての角が微かに揺れた。


――生きていたなら、今夜もきっとここに来て、どうでもいい話をして、笑って……。


「化けて出てきてもいいよ。せめて、声を聞かせてくれ」


嗚咽混じりになる。




──その時だった。


玄関の外から、猛烈な足音が聞こえてきた。

次いで、けたたましくチャイムが鳴る。


隆は驚き、あわててドアを開ける。


「隆ーーーー!!!!! 大変なことになった!!!」


ドアの向こうにいたのは──佐奈子だった。


「……さ、佐奈子……?」


隆は目を見開いた。幻覚かと思った。けれどそこには、息を切らせた彼女が立っている。


「私、死んじゃったみたい!!」


佐奈子はそう叫んだ。


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