一方その頃、隆は当番勤務を終えて家に帰ってきた。
スマホを見ると着信があった。
それは佐奈子の父親から。すぐに掛け直した。
「すいません、仕事でして」
『すまんな、お疲れさま』
「いえ……仕事があった方が気が紛れます」
そういう隆の見る先は佐奈子との写真。
『最近どうかね、うちの娘が化けて出てくることはなくなったかな』
「……昨日も来たのですが、気配はなくなりました」
『そうかね……迷惑かけて済まなかった。君もまだ若いから娘のことを忘れて次の人に行って欲しいんだわ』
そういう佐奈子の父親。隆は何と返せばいいのかわからない。
『困らせてすまんな。体大事に……来週の週末には墓参りに行こうとは思うんだ』
「はい、僕は明日も行きますが来週も……」
話を終えて隆は電話を切る。
「佐奈子……」
スマホの画面にはロック画面にしたままの、佐奈子と一緒に写る写真がわずかに映っていた。
彼女がまだ生きていた頃、よく喧嘩もした。だけど、不器用にでも笑い合えた時間は、間違いなく本物だった。
「なんであのとき、もっと……」
悔しさとも後悔ともつかない感情が、喉の奥に詰まる。隆はその場にしゃがみ込んだ。
部屋は静まり返っている。いつもなら、佐奈子が無造作に靴を脱ぎ、雑な言い訳で玄関を通り抜けていく音がしていた気がした。
不意に、カーテンの隙間から夜風が吹き込み、写真立ての角が微かに揺れた。
――生きていたなら、今夜もきっとここに来て、どうでもいい話をして、笑って……。
「化けて出てきてもいいよ。せめて、声を聞かせてくれ」
嗚咽混じりになる。
──その時だった。
玄関の外から、猛烈な足音が聞こえてきた。
次いで、けたたましくチャイムが鳴る。
隆は驚き、あわててドアを開ける。
「隆ーーーー!!!!! 大変なことになった!!!」
ドアの向こうにいたのは──佐奈子だった。
「……さ、佐奈子……?」
隆は目を見開いた。幻覚かと思った。けれどそこには、息を切らせた彼女が立っている。
「私、死んじゃったみたい!!」
佐奈子はそう叫んだ。