私たちが別荘に帰る頃にはもうすでに明け方になっていた。
「お姉様、お疲れ様ですわ!」
早朝だと言うのに、マロンに笑顔で出迎えられる。
こんな朝早くから悪いなと思いつつ、一方で私はというと、夜中に化け物と戦ったのでへとへとに疲れ果てて一刻も早くお風呂に入りたい気分だった。
「うん、ありがと。疲れたからちょっとシャワー借りるね」
「もちろん、どうぞ。なんだったらお背中も……」
「いや、一人で大丈夫」
私はマロンの申し出を丁重に断ると、一人でシャワーを浴びた。
そして少しの間モアと一緒に仮眠をとり、冒険者協会が開くと同時にことの次第を説明することにした。
「これこれこういうわけで……」
初めは私とモアが必死に受付で説明してもなかなか信じてもらえなかったが、しばらく経ってから解放された子供たちの証言や教会内部の魔力の痕跡などからようやく私たちの言うことは本当らしいと信じてもらえることとなった。
この一件はフェリルを揺るがす大事件となり、アオイとヒイロもようやく疑いを晴らすことができた。めでたしめだたし。
そして……。
「こちらが、新しい冒険者カードにございます」
エルさんがにっこりと笑って私に冒険者カードを手渡してくれた。
ピカピカに光る真新しい冒険者カードには「C3」の文字がくっきりと刻まれている。
そう、私とモア、ゼットの三人はEランク冒険者からCランク冒険者へと一気にレベルアップしたのであった。
「やった! C級冒険者だ!」
「やったーー!」
「やったぜ!」
私とモア、ゼットがカードを手に飛び上がる。
どうやら今回の事件は町を揺るがすS級相当の大事件だったらしく、私たち三人は今回の働きを評価され、特別に昇進できたとのことだ。
「もっとランクが上がってもいいくらいですよ」
ニコニコとアオイが微笑む。
「いや、流石にそんないっぺんにランクが上がるのはね」
「それにしても、私たちまで級が上がって良かったのか? 捕まってただけでそんなに何もしてないと思うけど」
不満そうな顔のヒイロ。実はアオイとヒイロもまた、今回の件でA2級冒険者からA1級冒険者にランクアップすることができたのだ。
私は真面目な顔で二人に言ってやった。
「いや、最初に神父が怪しいと目をつけて探ってたのは二人だし」
でもそれにしてもA1級ってすごいな。ここまで来ればS級冒険者まであと少しだし。私も早くAランクに上がりたいなあ……。
すると後ろを通った冒険者グループの一団が私たちを見て舌打ちをした。
「ケッ、いいよなあ、A級冒険者様のお手伝いをしてついでに自分も昇級!」
「持つべきものは強いお友達だよなあ」
「俺たちがコツコツ努力してるってのに、コネで上に上がれるんだから楽だよなあ」
どうやら彼らは私たちがA級冒険者のアオイとヒイロのおかげで昇進できたと思っているみたいだ。
私が唇を噛み締めていると、モアが慰めてくれる。
「あんなの気にしないでお姉さま」
うう。やはりモアは天使だわ! モアが無事で本当に良かった。
「でも悔しいですねお姉さま、一度戦ってみればお姉さまの強さはひと目で分かるはずなのですが」
と、これはアオイ。嬉しいこと言うなあ。
「自分の実力の分からない者ほどそんなことを言うんだ」
苦々しい顔をしたのはヒイロだ。私は苦笑した。
「大丈夫だよ。私は自分を信じてるから」
私はそう言うと、青く透き通ったフェリルの空を見上げた。
そうだ。私が強いことは俺自身が知っている。それでいいんだ。