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第168話 風のオルゴール

「体中が切り刻まれ倒れていた男がいるよ。」と仲間の妖精が話してくれた。


僕たちは妖精。

[ 個は多であって、多は個でも有る ]

ひとりの妖精が見聞きしたものは、即時に仲間の妖精に知れ渡る。彼の事は直ぐに仲間の伝わっていた。


彼の全身に受けたキズは、深くて命が危険に晒される程に深かった。


妖精たちは、話しあった。

「この男をどうする気なの?」

「助けた方が良いのかな。」

「良い人だったら助け様か、悪い奴ならほっとけばいいさ。」

「そうだね。」


妖精たちは、魔術で男の心を読んでみた。

「わぁ!心の中は、悲しみでいっぱい。」

「故郷から急に連れて来られて、帰りたいと泣いている。」


「心の中に有る光の色はどう?」

「白く輝いているよ。だけど、光が

徐々に失われていくみたい。早くしないとその人死んじゃうよ。」


「助けてあげようよ。可哀想だよ。」

妖精は男を助ける事に一致した。


早速、妖精魔法によって、男は一命を取り留めた。


暫くして、目覚めた男は、己の体の傷が全て癒えた事に気付き戸惑う表情を隠せないまま、茫然とただ「ありがとう」と呟く。

物陰に隠れている妖精に気づく事なく。


そして、「余計な事だったよ。」と見えない相手に訴える様に嘆く。


その言葉に物陰から、妖精が飛び出し、「助けて貰って、その言いぐさはなによ。やっぱりこんな奴、助けるんじゃなかったんだよ。」と声を荒げて呟いた。


妖精を見た男は驚きながら、再度「ありがとう」と感謝をし立ち去ろうとする。


男の行動を憮然としながらも見詰める妖精は、

「どうして、そんなに悲しい目をしているの。

なぜ、そんなに自分の心を痛め付けるの。

運命から逃げようとするの。」

と問いかけた。


男は一瞬、驚いた表情を直ぐに隠し、呟いた。


「俺は呪われた男。王国が、俺を探し回り、関わる人々を害してくる。

俺に関わると、君たちに不幸をもたらす事となる。」


直ぐにでも立ち去ろうとする男を、妖精達は引き留めた。

「ここは、妖精の隠れ里。僕たちが望まない限りは人間は入って来れないよ。君が隠れるとしたら、ここしか無いんじゃないかな。」と、哀しむ心の男をほっとけない優しさが染み込んでいる。


男は静かに頷き、

「ありがとう」と心の底から妖精達に感謝した。


それからの男はせっせと働き、徐々に明るさを取り戻していた。それを妖精達は温かく見守っている。


だが、時より見せる悲しい表情は、妖精達を哀しませていた。


そんな時に男は、静かにオルゴールを開いた。

「この歌は何の歌なの。とても、郷愁の有る歌だけど」

妖精達が尋ねると、男は遠くを見据える眼差しで

「これは、僕の故郷の歌さ。大好きな歌なのさ。」と答えた。


その旋律は、悲しく、そして二度と戻れない故郷を歌っていた。


平和の時間は短く、そして悲しい別れを連れてきた。


平和な妖精の里に突然の人間達の攻撃。


右往左往と逃げ惑う妖精達。


男は静かに運命を悟ったかの如く、自ら命を絶った。


妖精達に「ありがとう」の言葉を残して。


そして、妖精の里に再び平和が訪れた。





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