「体中が切り刻まれ倒れていた男がいるよ。」と仲間の妖精が話してくれた。
僕たちは妖精。
[ 個は多であって、多は個でも有る ]
ひとりの妖精が見聞きしたものは、即時に仲間の妖精に知れ渡る。彼の事は直ぐに仲間の伝わっていた。
彼の全身に受けたキズは、深くて命が危険に晒される程に深かった。
妖精たちは、話しあった。
「この男をどうする気なの?」
「助けた方が良いのかな。」
「良い人だったら助け様か、悪い奴ならほっとけばいいさ。」
「そうだね。」
妖精たちは、魔術で男の心を読んでみた。
「わぁ!心の中は、悲しみでいっぱい。」
「故郷から急に連れて来られて、帰りたいと泣いている。」
「心の中に有る光の色はどう?」
「白く輝いているよ。だけど、光が
徐々に失われていくみたい。早くしないとその人死んじゃうよ。」
「助けてあげようよ。可哀想だよ。」
妖精は男を助ける事に一致した。
早速、妖精魔法によって、男は一命を取り留めた。
暫くして、目覚めた男は、己の体の傷が全て癒えた事に気付き戸惑う表情を隠せないまま、茫然とただ「ありがとう」と呟く。
物陰に隠れている妖精に気づく事なく。
そして、「余計な事だったよ。」と見えない相手に訴える様に嘆く。
その言葉に物陰から、妖精が飛び出し、「助けて貰って、その言いぐさはなによ。やっぱりこんな奴、助けるんじゃなかったんだよ。」と声を荒げて呟いた。
妖精を見た男は驚きながら、再度「ありがとう」と感謝をし立ち去ろうとする。
男の行動を憮然としながらも見詰める妖精は、
「どうして、そんなに悲しい目をしているの。
なぜ、そんなに自分の心を痛め付けるの。
運命から逃げようとするの。」
と問いかけた。
男は一瞬、驚いた表情を直ぐに隠し、呟いた。
「俺は呪われた男。王国が、俺を探し回り、関わる人々を害してくる。
俺に関わると、君たちに不幸をもたらす事となる。」
直ぐにでも立ち去ろうとする男を、妖精達は引き留めた。
「ここは、妖精の隠れ里。僕たちが望まない限りは人間は入って来れないよ。君が隠れるとしたら、ここしか無いんじゃないかな。」と、哀しむ心の男をほっとけない優しさが染み込んでいる。
男は静かに頷き、
「ありがとう」と心の底から妖精達に感謝した。
それからの男はせっせと働き、徐々に明るさを取り戻していた。それを妖精達は温かく見守っている。
だが、時より見せる悲しい表情は、妖精達を哀しませていた。
そんな時に男は、静かにオルゴールを開いた。
「この歌は何の歌なの。とても、郷愁の有る歌だけど」
妖精達が尋ねると、男は遠くを見据える眼差しで
「これは、僕の故郷の歌さ。大好きな歌なのさ。」と答えた。
その旋律は、悲しく、そして二度と戻れない故郷を歌っていた。
平和の時間は短く、そして悲しい別れを連れてきた。
平和な妖精の里に突然の人間達の攻撃。
右往左往と逃げ惑う妖精達。
男は静かに運命を悟ったかの如く、自ら命を絶った。
妖精達に「ありがとう」の言葉を残して。
そして、妖精の里に再び平和が訪れた。