真理亜は、思い切り背伸びをした。
「うーん! いい日差し!」
仮に病室だろうと、自分の余命が後96日だろうと、朝日の眩しさは何も変わらない。
100日病。
それはいつからか人類に広まった不治の病だった。
真理亜は、自分の胸をトントンと叩き深呼吸をしてから立ち上がった。
とりあえずスクワットを30回、そして腕立て伏せもやってみた。
今日は外出許可も出ているし、何より一週間ぶりに美咲と遊ぶのだ。
ヘバってなんかいられないし、100日病なんかどうでもいい。
コンコンと、ドアがノックされた。
そこにはジャケットを着て、茶色い髪を綺麗に整えた少年がいた。
「あー、鈴村くん! おはよ!」
真理亜は笑顔で挨拶した。
「真理亜さん、お元気でしたか?」
「うん、けど鈴村くんこそいつも来てもらってごめんねえ、サッカー部で忙しいんでしょう?」
鈴村晴也は、高校サッカー部の二年生エースで、プロのスカウトも来ているという逸材だ。
「いいんだよ、僕は真理亜さんの顔を見に来たんだから」
晴也は真剣な表情だ。
「ええー私の顔を? 別に毎日見ても変化しないよ。化粧っけないし」
「い、いやそういう意味じゃなくて……つ、つまりね」
「うん」
晴也は背後に隠し持っていた花束を差し出した。
薔薇が10本の花束だ。
「真理亜さん、君の余命なんか僕には関係ない……一目惚れだったんです。付き合ってください!」
晴也はお辞儀をしながら(決まったな)と確信していた。
晴也はかなりモテる。それを全部断って、毎日真理亜のお見舞いに来ていたのだ。
これで断られるはずが、
「あー、ごめん! パス!」
「んご!?」
晴也は今まで発したこともない言葉を出した。
「嬉しいんだけど、私は今は恋愛とかじゃなく、美咲ちゃんと遊びたいの!
ごめんね、晴也くん!」
「この展開、普通は100%成功するのに! ちきしょおおお! サッカーの馬鹿やろうおおお!」
晴也は涙を流しながら走り去っていった。
「悪い事しちゃったなあ。けど、晴也くんてメチャモテるのに、なーんで私なんかに……」
真理亜は訝る。
鏡に映る自分の顔は『まあまあ可愛い』というレベルで、美咲の方がよほど顔立ちが整っているし、他にも美人の子も女子サッカーをやってる子も大勢いるけど、晴也はみんなからの告白を断ってきているらしい。
「まあいいや。さて、池袋ね! 外出許可は夕方の五時まで、小学生の門限みたいだなあ」
真理亜はつぶやき、真っ白な病室から外に出た。