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第15話 話し合い



「ブルーノ様、お願いがあります」


「なんでしょう? アリスさん」


 アリスは真剣な表情でブルーノに言った。



「私だけの問題なら構わなかったのですが、今回はエルバの町にも危機をもたらしていたかもしれないんです。でも、今回のドラゴンの封印が解かれた話が町で噂になったとしたら、エメリーさんもマーク医師も町にいられなくなります」


「そうでしょうね。当然でしょう?」


 ブルーノは、アリスがドラゴンの話を町人にするのを躊躇している理由が分からなかった。


「私は、町を追い出されるつらさを知っています。どうか、町長とエメリーさん、マーク医師だけを家に呼んできて頂けませんか?」


「……アリスさんがそう言うのなら、従いますが……」


 ブルーノは不満そうにため息を着いた。



「アリスさん、お人好しもほどほどにしないと、貴方が困ることになりますよ」


「……そうかもしれませんね」


 言葉ではそう言ったものの、アリスは優しく微笑んでいた。



「それでは、町長とエメリー、マークをこの家に呼んできます」


「はい、お願いします」


 ブルーノは町に向かって、急ぎ足で歩き出した。



 その日の夕方、町長達がブルーノに連れられてアリスの家にやって来た。


「遠いところ、きてくださってありがとうございます」


 アリスはそう言うと、人数分のジンジャーアップルティーを机に並べた。


「よろしかったら、お召し上がり下さい。体が温まります」


「魔女の作った物なんて、怖くて飲めないよ」


 エメリーはそう言うと、腕を組んでアリスを睨み付けた。



「いただきます。……これは美味しいですね」


 町長とブルーノはジンジャーアップルティーを飲んで、ほっと息をついた。


 それを見てマークもアップルティーを一口飲んだ。


「これは……昔、妻と一緒に飲んだ味です……」


 マークは俯いて、膝に手をあてている。



「それで、お話ですが」


 ブルーノがドラゴンの封印を解かれた話をした。


 町長とエメリー、マークの表情が硬くこわばる。


 アリスは少し寂しそうに微笑みながら言った。


「私はただ、ここで平穏に暮らしたいだけなのです。エメリー様、マーク様、町を出ろとは言いません。ただ、ドラゴンの封印が解かれたのは事故だったと証言して下さいませんか?」



「え? 私たちに責任を取って町を出て行けと言うんじゃ無いんですか?」


 マークの言葉を聞いて、エメリーは苦虫をかみつぶしたような顔で言った。


「偽善者の施しは受けないよ。私は町を出て行く。マークは好きにしたら良い」


 マークは悩んだ末、ちいさな声で言った。



「先ほどのジンジャーアップルティーで思い出しました。緑の魔女と楽しく暮らしていた日々を」


 マークは横目でエメリーを見た後、深々と頭を下げて話し続けた。


「……アリスさん、ご迷惑をおかけしたのに厚かましいと思いますが、私は妻と暮らしたエルバの町を出たくはありません」


「あの、昔のように貧しい方にも優しく接して下さいませんか? マーク様」


 アリスの訴えにマークは頷いた。



「町の人たちの信頼を取り戻すには時間がかかるでしょうが、頑張って下さい」


「私はもう用がないから失礼するよ」


 エメリーはアリスの家を出て、町とは反対側に歩いて行った。



「ドラゴンの件は、事故とブルーノ様の力で封印されたと言うことで、町人たちにつたえてください。町長様」


「分かりました。アリスさん」


 町長はそう言って立ち上がった。


「それでは、これで今日は帰ります。ありがとうございました」


「……申し訳ありませんでした」


 マークも立ち上がり、アリスの家を出て行った。



「アリスさん、これで良かったんですか?」


「ええ。エメリーさんは町を出られると言うことで寂しくなりますが……」


 ブルーノはアリスのことをじっと見て、その頭をやさしく撫でた。


「ブルーノ様!?」



「アリスさん、一人で抱え込むことはありませんからね。何かあれば私に言って下さい」


「……ありがとうございます」


 アリスは顔を赤くして、家を出て行くブルーノを見送った。


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