ある日、アリスが森の奥を歩いていると、薄いローブを身にまとった女性が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
アリスは駆け寄ると、声をかけ、軽く女性の肩を叩いた。
「う……ん? ここは?」
女性の耳は尖っていて、その目は美しいエメラルドグリーンに輝いていた。
「あなたはエルフの方ですか?」
アリスの問いかけに、女性は身構えようとしたが、立ち上がるのがやっとだった。
「危ないですよ? 急に立ち上がっては。私はアリス。森に住んでいます」
エルフの女性は座り込むと、アリスに聞いた。
「……アリスさん? 森に住んでいる? もしかしてマリーの知り合い?」
「マリーは私のおばあさまの名前です」
エルフの女性はふらふらと立ち上がると、アリスに向かって礼をした。
「私の名前はレーン。ここからずっと北に行った場所、エルフの谷から逃げてきました」
「エルフの谷……おばあさまのメモに書かれていました」
アリスはそう言ってから、荷物の中からポーションを探し出して女性に渡した。
「はい、どうぞお飲み下さい」
「……ありがとう」
レーンはポーションを飲み干すと、深いため息を付いた。
「体が軽くなりました。怪我も治ったようです」
「それは良かったです。ところで、エルフの谷でなにがあったのですか?」
アリスが尋ねると、レーンは暗い表情で答えた。
「ウォーウルフの群れが現れて、村を襲ったのです。エルフ達はそれぞれ逃げ出したので、だれが助かったのかも分からない状況です」
アリスは少し考えてから言った。
「おばあさまのメモに、強力な眠り薬のレシピがありました。それをつかえば、ウォーウルフたちを眠らせて、その隙に倒すことが出来るのでは無いでしょうか?」
アリスはそう言うと、更に森の奥に向かって歩き出した。
「もう少し行ったところに、眠り草が沢山生えているはずです。取って帰りましょう」
それを聞いて、レーンは言った。
「私も手伝います」
アリスとレーンは森の最も奥の方に生えている、眠り草をかご一杯に採取してから、アリスの家に向かった。
家に着くとアリスはいそいで、強力な眠り薬を作り始めた。
「アリスさん、ありがとうございます」
レーンが礼を言うとアリスは首を横に振った。
「困ったときはお互い様です」
レーンは椅子に腰掛けると、家の中を見渡してから言った。
「ところで、マリーは元気ですか?」
「……もう、ずいぶん前に亡くなりました」
アリスの答えに、レーンは俯いた。
「そうですか……。人の命は短いですね」
「あの、眠り薬が出来ました。これを持って帰れば、村を救えると思います」
「ありがとうございます、アリスさん」
レーンはアリスから眠り薬を受け取ると、森の中に入り、北の方に駆けていった。
「エルフの村が助かれば良いのですが」
アリスは一人、レーンとエルフの村の無事を祈った。