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第21話 褒賞



 ウォーウルフを倒して、しばらく立った頃、アリスが庭の手入れをしていると見慣れない男性がやって来た。


「貴方がアリスさんですか?」


「はい、そうですが……貴方はどちら様ですか?」


 男性は姿勢を整えて敬礼すると、自己紹介をした。


「私はこのフィオーレの国の兵士です。過日、ブルーノ様のウォーウルフ討伐の際、力を貸して頂いた件で王宮からお呼び出しがかかっています」



 アリスは驚いた。


「まあ、王宮ですか? 私は故郷を離れた身ですが……」


「いえ、それはかんけいありません。是非、一緒に王宮までいらっしゃって下さい」


 アリスは急な話に戸惑っていたが、兵士はアリスを馬車に案内した。


「ちょっと待って下さい。出かけるなら、それなりに準備が必要ですから」


「それでは準備ができましたらお声がけ下さい」



 アリスはドアに、少しの間留守にするという張り紙をした。


 そして、一番綺麗な服に着替えてから、バックを取り出し祖母のメモをその中に入れた。


「お待たせ致しました」


「それでは、エルバの町のブルーノ様も一緒にお呼びするよう言われておりますので、すこし寄り道をします」


「はい、分かりました」


 アリスは、道中が一人では無くブルーノも一緒だとわかり一安心した。



 馬車がエルバの町に着いた。


「アリス様は馬車の中でおまちください」


「はい」


 兵士はブルーノの泊まる宿へと駆けていった。


「……王宮か。お父様とお母様と一緒に行ったのはずいぶん前のことに感じますね」


 アリスは一人で呟いた。



「アリスさん、こんにちは」


「おひさしぶりです、ブルーノ様」


「それでは王宮に向かいましょう」


 兵士とブルーノ、アリスは馬車に乗って王宮に向かった。



 王宮のある首都、サントの街についたのは二日後のことだった。


「おつかれさまでした」


「はあ、体がガチガチに固まってしまいました。アリスさんは大丈夫ですか?」


「……なんとか、大丈夫です」


 アリス達は馬車で王宮まで移動した。街並みは綺麗で明るく、人々は活気に満ちていた。



「首都だけあって、にぎやかですね、ブルーノ様」


「そうですね。エルバの町とは違いますからね、アリスさん」


 ブルーノはアリスに微笑みかけた。


「そろそろ王宮の門をくぐります」


 兵士が言うと、大きな門が静かに開いた。


 王宮の入り口に馬車が止まる。



「それでは、こちらにお越し下さい」


 正装をした兵士が王宮から出てきた。


「はい」


「分かった」


 アリスとブルーノは案内されたとおりに王宮の中に入っていった。



「ここでお待ちください」


「はい」


 アリスとブルーノは謁見の間に通された。


 少し待つと、兵士の後にシンプルだけれど品の良い服を着た、高貴な身分と一見で分かる男性が立っていた。


「私はこの国の王子、レイモンド・ジョンソンだ。この度はエルフの谷に現れた魔獣を倒したとのこと。礼を言う」


「ありがとうございます、レイモンド王子」


「……ありがとうございます」


 レイモンドはそこまで言うと、兵士に部屋から出るように言った。



 部屋にはレイモンドと、ブルーノ、アリスの三人だけになった。


 レイモンドが屈託の無い笑みを浮かべてブルーノとアリスに言った。


「かしこまった挨拶はこの辺にしておこう。ブルーノ、この可愛らしいお嬢さんが森の魔女なのか?」


「はい、レイモンド様」


「今は兵士もいない。いつも通り呼び捨てで構わない」


「レイモンド、私はかしこまった席が苦手だといつも言っているだろう?」


「そうだな。で、アリスさん。ブルーノは貴方を困らせていないかい?」


 レイモンドの問いかけにアリスは首を横に振った。



「ブルーノ様にはいつも助けられています」


「そうか。たしかアリスさんは体調を崩して森で療養中と聞いていたけれど、具合は良くなったのかな?」


 レイモンドの言葉に、アリスが困っていると、ブルーノは言った。


「それは、アリスさんの力を怖がった両親が、家を追い出す口実にしただけですよ」


「そうか、やはり嘘だったのか」



 レイモンドはため息をついて、アリスを見つめた。


 宝石のような薄い青色の瞳に、金色の髪がよく映えていると、アリスは思った。


「アリスさん。森の生活は大変ですか?」


「いいえ、エルバの町の皆さんは親切ですし、ブルーノ様も助けてくださいますから、困っていることはありません」


「ああ、アリスさんは町の皆にも慕われているし、森もアリスさんが来てから生き生きとよみがえってきている」


 ブルーノの言葉に、アリスも頷いた。



「そうですか。それならよかった。最近は強い魔物が町の近くに現れることも増えてきましたから、十分気をつけてください」


「ありがとうございます」


 レイモンドは一通り話をおえると、ブルーノとアリスに魔獣退治の褒美として金貨とを渡した。


「国のために尽くしてくださったお礼です」



「ありがとう」


 ブルーノが微笑んだ。


「……私もですか?」


 ブルーノとアリスが褒美を受け取り帰ろうとすると、レイモンドは意味ありげに微笑んでいった。


「これからも、よろしくおねがいします」


「……これからも?」



 アリスとブルーノは、また馬車に揺られてエルバの町に帰っていった。


「これからも、か」


「ちょっと気になりますね、ブルーノ様」


「そうですね、アリスさん」



 エルバの町に着いた二人は、硬くなった体を伸ばしながら、大きなため息をついた。


「ああ、緊張した」


「私もです」


 ブルーノは金貨のほとんどをアリスに渡そうとしたが、アリスは断った。


「私には、お金は余り必要ありませんから」


「そうですか? では、私がお預かりするという形にしておきましょう」



 そう言って、ブルーノは金貨を預かっている旨を紙に簡単に記載し、アリスに渡した。


「お金が必要になったときや、なにかあったら私の所へ来て下さいね」


「ありがとうございます、ブルーノ様」



 アリスはブルーノに別れを告げると、森の家に帰っていった。


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