アリスとブルーノはフィアマの火山島を後にして、王宮に向かった。
港に着き、船を下りると近衛兵が一人、駆け寄ってきた。
「ブルーノ様、アリス様。お待ちしておりました。お怪我はありませんでしたか?」
「まあ、多少は。だが大丈夫だ」
ブルーノはアリスを見つめ微笑んだ。
「王子が王宮でお待ちです」
近衛兵が言うとブルーノは頷いた。
「分かった」
近衛兵の後について、ブルーノとアリスは王宮に向かった。
王宮の前には、8名の近衛兵に囲まれたレイモンド王子が立っていた。
「よくやったな! ブルーノ、アリスさん! これでもうフォーコにおびえる必要は無いな」
レイモンド王子にアリスが答えた。
「そうですね。誰かが島に入り封印を破らなければ、フォーコがよみがえることは無いと思います」
アリスはそう言うとブルーノを見つめた。
「それで、この先アリスさんとブルーノはどうするんだい?」
ブルーノはアリスを抱き寄せて、レイモンド王子に言った。
「俺は……アリスさんさえよければ、このまま一緒にエルバの森のそばの家で生活したいと思っている」
アリスは目の前にあるブルーノの顔を見つめ、戸惑っていた。
「嫌か?」
自信なさげな目をしたブルーノに、アリスは答えた。
「私も、今の生活を続けられれば……嬉しいです」
アリスは顔を赤く染め、ブルーノに言った。
「それじゃ、二人は結婚するんだね」
「……えっと」
「アリスさん。こんな俺で良ければ、共に生きていかないか?」
「……はい」
アリスの顔に笑みがこぼれた。
「それじゃ、褒美は何が欲しい?」
レイモンド王子の言葉に、ブルーノは難しい顔をした。
「急に言われても思いつかないな。アリスさんは?」
「私も思いつきません……」
レイモンド王子は二人の答えを聞いて、ちょっと悩んだ後に言った。
「エルバの町で二人の結婚式ができるように手配をしようか?」
「おいおい、俺はこんな姿なんだぜ?」
ブルーノは両手を挙げて首を横に振った。
「私も、目立つことは……避けたいです」
アリスはブルーノの後ろに隠れるように一歩下がった。
「分かった。なるべく質素な式にしよう」
レイモンド王子は兵士達に指示を出した。
「それじゃ、二人ともお幸せに」
「まったく、自分勝手な奴だな。レイモンド」
ブルーノが苦笑いしながら言うと、レイモンド王子は綺麗な笑みを浮かべた。
「馬車の用意ができたら、エルバの森に帰りたいのだが……ここにいると何を頼まれるかわかったものじゃない」
「おや、人聞きの悪いことで。報償もちゃんと用意しているから持ち帰るように」
レイモンド王子から渡された革鞄には金貨が詰め込まれていた。
「こんなもの、いらないよ」
ブルーノが断るとレイモンドは言った。
「持っていて困る物じゃ無いだろう?」
アリスも言った。
「私たちには……多すぎます」
「そうか? なら町に寄付すれば良い」
レイモンド王子の言葉を聞いて、アリスは言った。
「そうですね。それなら、頂戴致します」
「そうだな。それでは、また会おう。レイモンド」
「ごきげんよう」
アリスとブルーノは馬車でエルバの森に帰って行った。
「忙しい旅だったな、アリスさん」
「ええ。でもこれで皆、安心して暮らせますね」
旅を終え、アリスとブルーノはエルバの森の小さな家に戻ってきた。
「アリスさん、これからもよろしく」
「ブルーノ様、こちらこそよろしくお願いします」
ブルーノは少し考えた後に、言った。
「アリスさん、これからは呼び捨てにしても良いかな? 俺のことはブルーノと呼んでくれ」
「分かりました。ブルーノ様」
ブルーノは笑った後、アリスの髪を指でとかしながら囁いた。
「アリス、ブルーノと呼んでください」
アリスはブルーノの大きく毛だらけの手を両手で包んだ。
「はい……ブルーノ」
空を見上げると、月が綺麗に輝いていた。
二人がエルバの町で結婚式を挙げたのは、その翌週だった。
ブルーノの姿を見て町人たちは驚いたが、アリスの説明を聞くとブルーノの姿をあたたかく受け入れた。
「おめでとう、アリスさん、ブルーノさん」
「ありがとうございます、皆さん」
「まったく、これで地味にしたつもりなのか? レイモンドの奴は」
町中に音楽が溢れ、中央広場にはご馳走が並んでいる。
アリスとブルーノは町中から祝福を受け、はにかむような笑顔を浮かべていた。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
「ええ」
アリスとブルーノは、町外れの森の家に手をつないで歩いて行った。