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第二章 二話「その出会いは波乱を呼ぶ」

 ――夢にまで見た、学園生活。ヴェルディ学園長の登場により、今幕を開けようとしている。


 広い講堂に集められた新入生たちの中で、ルークは静かに息を飲んだ。


 「諸君、入学おめでとう。様々な試験を乗り越え、今、君たちは狭き我が校の門を叩くことができた。それは誇ってよい。だが、これはまだ始まりに過ぎない。これからの学園生活は学び舎であると同時に、多くの選択を迫られることになるじゃろう。自分が何を学び、どのような道を辿るのか――君たちの活躍を楽しみにしておる」


 ヴェルディ学園長の挨拶が終わると、後ろに控えてる先生が一歩、歩みを進め口を開く。


「手始めに、手元のパンフレットを開いて欲しい。我が校は完全寮制であり、長期休暇を除いて校外に出ることは許可されていない。同時に、本校では“ランカー制度”によりポイントが与えられ、端末に加算されていく仕組みだ」


 説明とともに、壇上後方のスクリーンに映像が映し出される。


「この制度で得たポイントは1ポイント=1レアとして学費や買い物、施設利用に使える。また、上位ランクになれば学費も免除される。このランク情報はギルドや国家も注目しており、君たちの進路にも影響を与える。期待しているよ」


「お、すげぇ。 見てみろよ、もう10万ポイント入ってる! 他にも面白そうな機能が色々あるぞ?」


 ガイはすでに先生の話そっちのけで端末を起動し、遊んでいた。


「すでに起動している生徒もいるが、この端末はMADマルチアシストデバイスと呼ばれるものだ。君たちには生活費として初期配布の10万ポイントが与えられている。ホーム画面上部の数字が現在のランキング、その下が所持ポイントだ。ランキングは入試の評価をもとに算出されているので、それぞれ確認しておくように」


 先生が指を鳴らすとスクリーンの映像が切り替わる。


「我が校には多くの禁則事項があるので、MAD内のツールで確認してください。基本学園内のことはMADで確認もしくは対応可能。授業を受けるも、仮想ダンジョンに潜るも自由――だが長期休暇前に試験があり、成績が悪いと補習終了まで休暇に入れないので注意する様。以上だ」


 先生がそう告げると、体育館の照明が明るくなり、出入り口の扉が開かれた。それを確認するとヴェルディ学園長は杖を掲げ、体育館全体に光の魔法で花火を打ち上げる。


「では生徒諸君、健闘を祈る!」


 その言葉を聞いて、生徒達は歓喜の声を上げる。皆それぞれ思いを胸に体育館を後にする中、ルークがMADを起動すると、自室の番号を知らせるメッセージが届く。


「ねぇ! リンク交換しよ?」


 突然、ルークとガイの背後からララが現れ、ふたりの間に割り込んできた。


「なんだ?それ」


「ルーク、下の手帳マークのとこ押してみ?」


 ガイの言葉に従い、ルークが画面下の手帳マークを押すと、学生証といくつかの項目が表示された。


「その中の『リンク』ってやつで番号を交換すると、メッセージが送れるようになるの、私はもう何人か交換したよ」


 ララのコミュニケーション能力の高さに、ルークは素直に驚きつつ、リンク交換を済ませた。


「ねぇねぇ、このあと特に予定ないなら、荷物置いてから校内を一緒に見て回らない? 校内マップ見たけど、結構いろんな施設あるみたいだよ!」


「俺は空いてるけど、ガイは?」


「俺も大丈夫だぜ。荷物置いたら、噴水のある中央広場で集合しよう」


 3人は予定を決め、それぞれの寮に向かう。男子寮と女子寮は別の場所にあり、少し離れていた。途中でララと別れ、ルークとガイは男子寮の前に立つ。


「でけぇ……」


 目の前の寮を見上げて、ガイがぽつりと呟く。


「その反応は、君たちも新入生だね。僕は男子寮の寮長をしている、3年のハルナだよ。よろしく」


 寮を前に立ち尽くしていると背後から声をかけられた。


 振り返ると、そこには淡い青髪と薄緑の瞳を持つ先輩がいた。前髪をヘアピンで留め、丸眼鏡をかけた細身の低身長――身長はララと同じか、それ以下に見える。


 気さくそうに見えるが、ルークは謎の違和感をハルナに感じとる。


「寮内は好きに移動したり過ごしてもらっていいから、まぁのんびり慣れていって〜。僕ちょっとこの後忙しいからまたね」


「あ、はい! ありがとうございます!」


 ガイが、元気よく返事を返すとニコッと笑いハルナは寮内へと向かって歩き出す。


 そんなハルナの背中を見て、ルークは訝しむ。彼の穏やかな口調や柔らかな態度が逆に不自然に思えたのだ。


(強者が集うこの学園で、あんなに無防備な人が寮長なんて……ありえるのか?)


 ふと疑念が頭をよぎる。確かめるべく、ゆっくりと、静かに剣の柄に手を伸ばす。


 瞬間――。


 殺気を纏った視線が全身を貫き、ぞくりと背筋が凍った。その直後、白と黒の毛並みをした二匹の巨大な狼が突如として現れ、ルークを前後から挟み込み、低く唸り声をあげる。


(……ッ!)


 息を呑み、即座に状況を理解する。剣の柄にかけた指先が、まるで氷に触れたように冷たく痺れた。下手に動けば、一瞬で命を奪われる。


 ルークは静かに手を引き、剣から離した。……だが、狼たちは一歩も退かない。殺気も、消えていなかった。


(流石に……迂闊過ぎた……か?)


 全身を縛りつけるような重圧のなか、ルークはただ、静かに息を潜めた。


 ――そして、ハルナが、ゆっくりと振り返る。

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