「起立! 気をつけ! 礼! 着席!」
日直の……田……なんとかって女子の号令。
今日も無事に
よっしゃ、やっと帰れる……。
あー、腹減ったな。
短縮4時間授業のはずなのに、今日は一段と長く……まさかと思うが、誰か『体感時間が伸びる』
しっかし中間テスト前だからって、どの教科も内容詰め込み過ぎだろ。
「ここは試験に出るぞ~」「ここは覚えておくべきポイントよ」って、先生たちさあ。そうやって問題のヒントを小出しにしてくるくらいだったら、いっそのこと最初から試験問題全問配ってくれよな? どうせさー、勉強なんて大して役にも立たないんだから、授業も試験ももっと和気あいあい、アットホームな雰囲気でやってくれよな。そうじゃないと俺みたいな
「お兄ちゃん、何難しい顔してるの? 早く帰ってご飯にしよ~よ~」
俺の双子の妹・ミウが現れた。
グイグイと俺の腕を引いてくる。
俺たちは双子だが、顔はぜんぜん似ていない。ま、二卵性双生児だしな。
俺は父さん似で地味顔だけど、ミウはアイドル並みに顔が整っている。だけど背が低くて体も細い。高2になった今でも小学生に間違われることもある。まあ、アイドルはアイドルでも、ジュニアアイドル止まりってところか。
ミウはなー、たぶん母さん似なんだろうな。たぶんだけどな……。父さんは、頑なに母さんの写真を見せてくれないからさ……。
母さんは、俺たちを出産した時に亡くなったらしい。父さんからそう聞かされている。
父さんは再婚もせずに男手一つ、俺たち兄妹を育ててくれた。毎日朝から晩まで働いて……父さんにだけは頭が上がらない。ミウは父さんのことを「オヤジ」「臭い」って言って遠ざけようとするがな。
「お兄ちゃんどうしたの? 今度は黙ってわたしの顔を見つめたりして……キスしたいの? も~、明るいうちから恥ずかしいよぅ。しょうがないな~、ちょっとだけだよ~♡ 激しいのはおうちに帰ってからね♡ ん~」
目を閉じて顔を寄せてくるミウ。
周りから「キャー」と黄色い声が上がる。
どうやらクラスの女子たちが俺たちの会話を盗み聞きしていたらしい……。
男女の双子ってだけでもいろいろ言われがちなのに、ミウがこういう態度ばかり取るから、ガチでそういう関係なんじゃないかって疑っているヤツも出てきているんだぞ……。
「バカ言ってないで早く帰るぞっ、と」
ミウの頭頂部の真ん中、髪の分け目辺りに照準を合わせて、強めにチョップをお見舞いする。
「痛いっ!」
ミウが頭を押さえて後ずさりしたのを見計らい、イスから立ち上がる。
「もう! お兄ちゃんのバカッ! 禿げたらどうするのよっ!」
「便秘に効くツボを押しただけだ。安心しろ」
「わたし、便秘じゃないもん!」
おいおい、大声で便秘とか叫ぶから、みんなざわついてるじゃんか。
下ネタはたいがいにしておけよ?
「はいはい、今日は食物繊維がたくさん取れる昼飯にしようぜ。帰るぞ~」
「だからわたし、便秘じゃないもん!」
今日から3日間は短縮4時間授業で給食はなしだ。中間テスト前の勉強に集中する期間という名目でな。
つまり――。
早く飯食って遊ぶぞー! 明日は土曜日で休みだし、徹夜でゲームだな! 試験勉強? そんなん知らんわ! どうせ勉強なんてしたって、俺の場合は何の役にも立たないしな。
ピンポンパンポーン。
校内放送前のお知らせ音が鳴る。
うっ、なんだか嫌な予感がする……。
『2年1組、
あーあ、こういう時だけは俺の勘って、当たるんだよな……。
この声は、学年主任の
「お兄ちゃん……呼び出し……何かしたの?」
ミウが不安そうな表情で見つめてくる。
「あー、なんだろうな? 今朝出した進路の紙のせい、かな……」
まあ、十中八九あれのせいだな。
さすがに適当に書きすぎたか……。
マジできついな。
「お兄ちゃん……わたし、ついて行こうか?」
「いやいや、さすがに1人で平気だって。心配するなよ」
ミウの頭に手を乗せる。
またもや黄色い声が。
しまった。つい、いつもの癖で……。
だから違うよ? 俺たちはただの双子、健全な家族だからね? って、コラッ、ミウ! 頭に乗ったお兄ちゃんの手を撫でまわしながらうっとりした表情をやめなさい! みんなに勘違いされるでしょ!
「痛っ! 何すんだよ⁉」
やたらと手を撫でまわしてくると思ったら、急に手の甲をつねられたんだが⁉
「だってお兄ちゃん、生徒指導室に咲坂先生と2人きりになったら……エッチなことを期待してるでしょ」
「してねーよ⁉ ミウは生活指導の先生を何だと思ってるんだ⁉」
たしかにな、
「絶対お兄ちゃんのこと狙ってるよ……。咲坂先生って、授業の時お兄ちゃんのことばっかり見てるもん。あの露出狂のエロ悪魔教師!」
それはたぶん、俺がいつも授業中に居眠りしたり、マンガ読んだりしているせいですねー。
「あの人……たぶんお兄ちゃんの血を狙ってるのよ……」
周りに聞こえないように配慮した、小さな声でのつぶやき。
俺はそれを即座に否定することができなかった。
たしかに、
そして、そんじょそこらの悪魔族とはわけが違う。
この≪特別自治区≫の治安維持と発展のために、≪セカイ≫から派遣されている≪監察官≫様なのだ。
さすがに指導的立場の≪監察官≫が俺の血を欲するなんてことは……。
まあ……ないとは言えないか。
俺のような
とくに≪セカイ≫からやってきた、純粋な天使族や悪魔族と
まあ、今は『
「ホントに気をつけてよね……。一応、生徒指導室の前で待ってようか?」
今にも泣きそうな顔のミウ。
「大丈夫だって。前に生徒指導室に呼ばれた時も
なーんてな。
お兄ちゃんを信じろ。
「それもダメ……。お兄ちゃんはわたしのものだから」
ガチ目のトーンで俺だけに聞こえるように囁くのはやめようね?
さすがにお兄ちゃんでも、ちょっとドキッとしちゃうからさ……。
「お前は考えすぎだ。何にもないって! さてと、お兄ちゃんはちょっと説教されに行ってくるわー。晩飯までには帰るから、食物繊維の多い料理頼むなー」
スクールバックを片手に、ひらひらと手を振りながら、教室を後にする。
「だからわたし、便秘じゃないもんっ!」
というミウの絶叫に後押しされるようにして、生徒指導室へダッシュ。
待ってろー、