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第6話 歓迎会


 部の歓迎会は、夕方6時から近くの居酒屋で行われた。3課合同なので、全員揃うと60名を超える。

まず、今年の新入社員の3名が前に出て、次長から紹介されて挨拶。

1課の吉田と2課の小野田が先に挨拶して、最後が事務担当をする私の番だ。

すると、

「花怜ちゃ〜ん!」と、まだ素面しらふの筈のオジ様たちの熱い声援を受けながら、挨拶を始めた。


「高橋花怜、22歳です。今年はこの部署では、ただ1人の女性新入社員です。まだ右も左も分からないような私ですが、精一杯頑張りますので、ご指導のほど、宜しくお願い致します」と挨拶した。


「ヨッ、可愛い〜!」「頑張って〜」などの声をいただきながら、拍手していただいた。

そして、ホッとして、山岸さんの隣りの席に戻って座った。


「良かったよ、花怜ちゃん」と山岸さんは、何でも褒めてくださる。

「緊張した〜ありがとうございます」と言うと、

「そうなの?」とニコニコしてくださる。


そして、私の前の席には、同期の小野田が座った。

研修中の時、杏奈ちゃんと共に、たまたま仲良くなった小野田、そして、もう1人が吉田だった。

3人は、同じ営業部、杏奈ちゃんだけが業務部に配属されたのだ。


「え? 高橋、緊張してたの?」と小野田が言うので、

「すっごく緊張してたよ」と言うと、

「高橋は、いつも落ち着いてるから余裕だなって思ってたよ」と言われた。

「全然」と手を振りながら言うと、山岸さんも、「花怜ちゃんは、いつもと変わらず良かったよ」と又褒めてくださったので嬉しかった。


そして、小野田が上司に呼ばれたようで、席を移動して行った。

すると、

「小野田くんと仲良いの?」と山岸さんに聞かれたので、研修中に4人で仲良くなった旨を話した。

「そうなんだ〜! 小野田くんは、彼女居ないのかなあ?」と聞かれたので、居ないと言っていたことを思い出し、伝えると、

「ふ〜ん、こっちの線も有りか〜」と何やら1人でニヤニヤされている山岸さん。


「ん? こっちの線?」と聞くと、

「あ〜何でもないよ」と微笑んでおられる。


すると、その空いた席に、なんとドS優星先輩が座ったのだ。

「!!」

「おお、桐生! 来たか」と山岸さんに言われると、「ウッス」とだけ言い、私と目が合ったので、黙って会釈をした。

優星先輩もペコッと首を一度だけ前にやった。


そして、

山岸さんが「花怜ちゃん、次何呑む?」と聞いてくださったので、1杯目は、皆さんと瓶ビールをグラスに注いで乾杯したのだが、

「じゃあ、レモンサワーでお願いします」と言うと、

「OK〜!」とタブレットを取って注文してくださる。

「桐生は?」と聞かれると、「じゃあ、俺もレモンサワー」と言った。

すると、山岸さんは、

「OK! 花怜ちゃんと同じのね! 仲良しね〜」とおっしゃった。


「フッ」と、その言葉を流した優星先輩、

私だって、『フッ』と言いたかったが、また何か言われそうなので、我慢して黙っていた。


すると、優星先輩が、

「お前さっきの挨拶、良かったわあ〜」と突然笑いながら言ったので私は、驚いた!


──まさか、ドS優星先輩が褒めてくれるなんて、どうしたんだろう? 

思わず、きゅんとしてしまった。


「あ、ありがとうございます」と言うと、

山岸さんが「ホント可愛くて良かったよね〜」と言ってくださったのに……

優星先輩は、

「は〜? 可愛い? イヤ山岸さん! ホントにこいつ分かってないんですよ」と言った。


その瞬間、

──あ〜これは、方向音痴のことだ〜

と私は分かった。


「え? どういうこと?」と聞かれている山岸さん。それに対して、私が毎回方向を間違えたことを説明している優星先輩。


──しょうがないじゃない! 何も言いふらさなくても……やっぱイヤな奴! きゅんを返してよ!

と思っていた。


それでも、

「そうなの? 花怜ちゃん! 可愛い〜」とおっしゃる山岸さん。


──いえ、私は至って真剣なので、そこに可愛さを求めておりません


「いえ、私、超絶方向音痴なので……」と言うと、「そっか……じゃあ気をつけて見ておくね」と優しく微笑んでくださる。

「ありがとうございます」


──ん? 山岸さんに、私が方向音痴だから、気をつけて! って知らせる為に優星先輩は、わざと言ってくれたの? いや、まさかね……


優星先輩は、

「だから、右も左も分からないって、上手いこと言うなと思って……」と、やっぱりバカにしたような言い方をしながら笑っている。


──そう言う意味じゃ……間に受けて、褒められたと勘違いした私がバカだった! そうよね、そんなわけないわよね!


「ハハッ、そうですよ! 自虐ネタですよ、よく分かりましたね?」と言ってやった。

「ブッ、そんな所で自虐ネタ使うなよ。俺1人で面白かったわ」と言った。


──マジでムカつく! 山岸さん! やっぱり

を好きだなんて勘違いですよ!

と思っていた。


なのに、山岸さんは、

「ふふふふ、2人息ぴったり! ホント仲良しだね〜」

とおっしゃった。


「どこがですか?」「どこが?」


「ハハッ、ホラ! 素直じゃないな、2人共!」と言われた。

「「え?」」

「ふふふふ」と笑われた。


──マジで無理だから……

私は、ムスッとしていた。

なのに、優星先輩は、私の方をチラチラ見ていたのが分かった。


それからは大好きなエビを食べて、

「エビ美味っ!」とご満悦。

また酎ハイを呑んで……

すると私は酔いが回り、酔った勢いで、ついに優星先輩にくだを巻いていた。


「大体さあ、優星先輩は、高校生の頃から私に厳しく当たり過ぎなんですよ!」と言っていた。

「は? どこが?」と言われ、

「たった1回優輝先輩と間違えただけで、間違えんな! とか……」

「当たり前だろ! 誰だって間違えられたら嫌に決まってんだろが」と言われ、

「そっくりなんだから、仕方ないじゃない? 山岸さん! ココのホクロが兄弟で、右左逆なだけなんですよ!」と言うと、

「そうなんだ〜」となぜか山岸さんは、ニコニコしながら聞いてくださっていた。


そして、時間が来たようでお開きとなった。

「2次会行くぞ〜!」と言う声が聞こえて来た。山岸さんが、

「あ、桐生と花怜ちゃんは、私に付き合って!」と、呼び止められた。


──え〜? やだなぁ〜優星先輩と一緒?

と思っていた。

が、とりあえず、山岸さんと一緒に行くことに……


山岸さんと話しながら少し歩くと、落ち着いたバーに入った。

「うわ〜素敵な所ですね」と私は、嬉しくなった。夜風に当たりながら、お店まで歩いたことで少し酔いが覚めていた。

ボックス席に案内され、私は、山岸さんと並んで座り、前の席に優星先輩が1人座った。


そして、何にしようかとメニューを見ていると、

山岸さんが、

「ごめん、ちょっとトイレ!」と言って席を立たれた。

私は、さっきのお店を出る前に行ったので、メニューを見ていた。


──うわ〜どうしよう、優星先輩と2人きりだ!


すると、

「お前、普段は何呑むんだ?」と聞かれた。

「生ビール、酎ハイ、ワインかなあ?」と言うと、

「結構呑めるんだな」と言われた。

「ホントは、日本酒が好きなんですけどね」と言うと、

「なら、呑むか?」と言われて、

「あ、ダメなんです! 他の物を呑んだので混ぜちゃうと、すぐに酔いが回って管を巻いて、寝てしまうようで……」と言うと、

「ふ〜ん、コレ以上管を巻かれると困るからやめておくか」と笑っている。

「そうですね〜」と私も言い返して笑った。


そして、優星先輩がチーズや生ハム、おつまみになるような物を注文してくれたので、やはりそれに合うように、ワインを呑もうと選んでいた。

「赤? 白? それとも?」と聞いてくれているので、「じゃあ、赤ワインにしようかな〜」と言うと、

「おお、分かった」とタブレットで注文してくれている。


──遅いなあ〜山岸さん!

と思っていたら……


〈花怜ちゃん! ごめん、急用! 2人で楽しんで〉とメッセージが届いた。


──嘘っ! やだ、優星先輩と2人だなんて、どうしたら良いのよ〜


「ん? 山岸さん急用? うわ〜嵌められたな! これは……」と優星先輩も笑っている。


すると、「お待たせ致しました」と頼んだチーズや生ハムや赤ワインが届いてしまった。


──2人で食べるしかない……

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