GWが終わった。
毎日会って、2回もお泊まりが出来た濃厚なGW4連休を過ごした。
──楽しかったな
半同棲のような生活だった。
また、今日から通常業務だ。
「おはようございます」
いつものように皆さんにご挨拶する。
「おっはよう〜」と一際元気な山岸さんだ。
「おはようございます。いつもお元気ですね」
「連休明けだからさあ、ホントは怠いのよ。でも、元気出さなきゃ夕方まで持たないからさ」とおっしゃる。
「なるほどですね」
そして、私は始業の準備をする。
すると……
「そう言えば、どうだった?」
と聞かれたので、小声で
「一応、結婚前提ということで」と言うと、
「早っ!」と驚かれた。
「同棲は、父に反対されてて……せめて半年経ったらとは言ってますが、父は、同棲=結婚みたいな考えの人なので」と言うと、
「そうなんだ!」と
「なので、しばらくは通い妻的な」と言うと、
「そっか〜でも良かったね!」と、おっしゃった。
「ありがとうございます」
すると、そこへ優星が出社して来た。
「おはようございます」
「あら、ダーリンのお出ましね」と、
「桐生! おはよ〜」とニヤニヤする山岸さん。
「オッース! どうしたんですか?」と聞く優星。
私の方をチラッと見て、
「あ〜」と言うと、
「良かったね」と言う山岸さんに、
「おかげさまで」と言う優星のお尻をポン! と一度叩いて席に戻って来られた。
「羨ましい!」
「ふふ」
「ホントお似合いだと思ってるよ」
「ありがとうございます」とお礼を言って仕事を始めた。
昼休み、杏奈ちゃんと昼食を食べながら報告会。
杏奈ちゃんは、吉田と映画デートをしたようだ。順調そうで良かった。
そして、初めて手を繋いだと言う話を聞いて、キュンとした。
──吉田って、案外ウブなんだな
と思ってニヤニヤしてしまった。
すると、杏奈ちゃんが私たちのことを聞いたので話すと、
「すご〜い! 良かったね、花怜ちゃん」と喜んでくれた。
「ありがとう」
そう言ってると、吉田が同期の矢田くんと食堂に来た。
「高橋!」と呼ばれたので、振り向くと、
「
同期なんだから、名前ぐらいは分かる。
「あ、どうも」と言うと、
「どうも」と言う。
──何? 吉田は、いったい何がしたいの?
思わず杏奈ちゃんに、助けを求める。
「あっ、ごめんなさい、私たちこれから用があるので、また〜」と言う杏奈ちゃん。
とりあえず、その場からは離れることが出来た。そして、まだ昼休みなので、2人で屋上へ行ってみた。
「ありがとう」と杏奈ちゃんにお礼を言うと、杏奈ちゃんに、私と優星のことを吉田に話しても良いのかが分からず、まだ話していないのだと言われた。
気を遣わせてしまっていたのだ。
なので、このままだと吉田は、矢田くんを私に勧めてくるので話しても良いか? と言われたので、『もちろん!』と言った。
そして、私は優星のマンションに通っていることを話すと、
「良いな〜」と言うので、優星は本当は同棲をしたがっていることを話すと、杏奈ちゃんは驚いている。
スピードが速すぎて自分でも驚いているけど、時間が経つにつれ、やっぱり一緒に居たいと思える相手だと自覚したことを話した。
「そうなんだ〜素敵〜! 私達もいつかはそんな風になれるのかなあ?」と言うので、
「なると思うよ」と微笑んだ。
そして、杏奈ちゃんと別れてからすぐに、
大滝さんと言う同期の女性に呼び止められた。
優星のことがカッコイイと思っているから名前を教えてと言われたのだ。
「え?」
嫌だったけど、同じ部署なのに、名前を知らないとは言えないと思ったので、教えた。
交際していることをまだ公表していないので言えない。モヤモヤしながら部署に戻った。
まさか、このことが今後、大ごとになるとは思いもしなかった。
お昼休みが終わり、通常通り仕事をこなしたが、私の元気がないことに山岸さんが気づいてくださった。
「どうした? 何かあった?」と……
先ほどの同期の子の話をした。
「え? あ〜そうなんだ。桐生、モテるからな」とおっしゃった。
「ですよね〜」と机に伏せる。
「もう皆んなに言っちゃえば良いのに……」とおっしゃる山岸さん。
「でも、仕事がしにくくなるからと……」
「う〜ん、どうかなあ? 大丈夫じゃない?」とおっしゃる。
「ちょっと桐生と話してみれば?」
「そうですね。そうします」
夜に話そうと思っていた。
なのに……
大滝さんは、優星が営業から帰って来るのを見計らい待ち伏せをしていたようだ。
私は、たまたまそれを目撃してしまった。
もちろん優星は、そんなの相手にしない!
と思っていたが、大滝さんとニコニコしながら話していた。
ショックを受けた私は、終業後だった為、頭を冷やそうと屋上に上がった。
しばらく景色を眺めながらイヤホンで音楽を聞いていると涙が流れて来た。
誰かが上がって来たようで、泣いている所を見られたくないと思い、思わずしゃがんでしまった。すぐにどこかへ行ったようだ。
そして、そろそろ冷えて来たので、帰ろうと屋上のドアを開けようとしたが開かない。
「えっ! 嘘!」
鍵がかかっていて中に入れなくなってしまった。
──どうしよう
杏奈ちゃんに連絡をしたが、すでに電車に乗って帰っている所だったようなので、〈あっ、大丈夫〉と返した。
でも、もう誰も上がって来ない。
優星に連絡しようか迷ったが、大滝さんのことでなんだかイヤだったから、山岸さんに連絡した。がメッセージには気づかないようで既読にならない。電話をかけたが出なかった。
真っ暗になって来てしまった。
怖いのと、情け無いのとで又涙が流れる。──このまま朝までココに居なきゃいけないのかなあ? 5月とはいえ、夜は流石に冷えて来た。
「そうだ!」と会社の代表電話に電話を掛けたが、定時後なので留守番電話になってしまう。
──どうしよう
と思っていると、優星からメッセージが来た。
〈花怜! もう帰ったのか? まだカバンがあるようだけど、どこに居るんだ?〉
もう意地を張っていても仕方がない。
優星に返信を送ろうとした時、スマホの充電がなくなってしまった。
「嘘!」最悪だ!
今日に限って妙に冷える。
もうカラダがかなり冷たくなってきた。誰にも連絡出来なくなってしまった。ただただ寒くて怖くて涙が出て来た。でも、ジッとしてるとカラダが固まってしまいそうだったので、身体を動かしたり摩ったりしながら温めていたが、徐々に動けなくなって来た。
どのくらい経ったのだろう。
屋上のドアが開いて、「花怜!」と、優星だった。
「ウウッ優星!」走って来て抱きしめてくれた。と同時に涙が滝のように流れた。
「ウウ〜ッウウッ、怖かった〜」
「怖かったな、もう大丈夫だぞ」と抱きしめながらカラダを摩って温めてくれた。
「歩けるか?」と聞かれたが、もうそんな体力は残っていなかったし、腰が抜けてしまっていた。すると、優星は私を抱き上げて、中へ向かってくれた。
「ごめんね」と言うと、「謝らなくて良い!」と言われた。
「ありがとう」「うん、無事で良かった」と言った。そして、とりあえず部署まで戻った。
すると、「花怜ちゃん! ごめんね気づくのが遅くなって」と山岸さんが会社に戻って来てくださっていた。
「救急車呼んだから、もうすぐ来ると思う。病院で診てもらって」と言われた。
「ご迷惑をおかけしました」とお礼を言いながらガタガタ震えていたので、ブランケットやカイロで温めてくださり、温かいココアを淹れてくださっていた。
そして、「どうして屋上へ?」と聞かれ、
優星と大滝さんの話をした。
すると、「はあ? 桐生何やってんのよ!」と優星に怒った。
優星は、「同期の子が花怜の友達だと思ったから、仲良くしなきゃと思って」と言った。
付き合ってることを言えないから紹介してって言われて断れなかったことを話すと、「ごめん! 俺のせいだな」と言った。
「それより、きちんと確認しないで鍵をかけた警備員さんにも注意しておかなきゃね」と言って警備員室に電話をしてくださった山岸さん。
すぐに謝罪に来てくださり、優星が物凄い勢いで怒っていたが、あんな時間に出た私も悪いからと宥めた。
とにかく無事に生きてることに、感謝した。山岸さんと優星が居なかったら、私は大変なことになっていたのかもしれないと思った。そして、救急車が到着し、優星が付き添ってくれた。
山岸さんに「ありがとうございました」とお礼を言った。