「よし、見回りに行くか」
マンションこもれびの管理人である誠司は、この管理室に住まいを構えている。住み込みで仕事ができるここは最高だ。今からマンション内の点検に向かう。だが点検といってもたいしたことはしない。ゴミを拾ったりマンションの外観や駐輪場、駐車場の異常がないかを確認する。こもれびには八十世帯ほどの住民が住んでいるので、それなりに大きいので管理は大変だ。
誠司はいつも着ていたジャケットを身につけず、暖かくなってきた外の空気を感じるためにシャツの上にカーデガンだけを着て出る。黒い硬質な髪が少し強い風に揺れた。垂れ目気味の目尻はやわらかい印象があり、人懐っこさを感じさせる。
三十五歳になった今、体力の衰えを感じることもあり両親からは早く結婚をしろと言われていた。しかしゲイである誠司は両親の願いを叶えてやることはできないのが心苦しい。
以前は普通に会社員をしていたのだが、社内でゲイだとバレてからは居づらくなって辞めた。多様性を叫ばれるようになった世の中だが、そうじゃないことを身をもって感じたのである。
「こんにちは。荷物ですか?」
マンションをひと周りして管理室に帰ってくると、宅急便の荷物を持った配達員と出くわした。
「そうなんですけど、宅配ボックスがいっぱいなので、自宅にお届け先に行ったんですけどね……」
配達員の話を聞けば、置き配をしようと思ったができなくてこっちに来たら、ここもいっぱいでどうしようかと悩んでたのだという。宛先を教えてもらうと、つい最近引っ越してきた家だった。
「じゃあ私が預かりますよ」
「え、でも……」
「大丈夫ですよ。管理室に荷物がありますとメモを入れておきますから」
誠司がそういうと、配達員はホッとしたように礼を言って走って行った。まだまだ配達の荷物があるのだろう。
誠司は荷物の宛名にもう一度目をやった。
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誠司は管理室の小窓に『見回り中』という札をかけ外に出て施錠する。この荷物の受取人が住んでいるのは管理棟から少し離れたF棟の203号室だ。入居のときに仕事は在宅なので大体は家にいると聞いていた。オンラインショッピングが多いのか、この家に荷物が届く量が半端ではない。それをどうして誠司が知っているかというと、こうして届けるのは今回が初めてじゃないからだ。
誠司はF棟に向かい階段を上る。そして二階の踊り場に来て廊下に出たとき、目の前に光景に絶句した。