新緑の緑が眩しい。澄んだ風が、木々の葉擦れの音を紡ぐ度美しい詩を聴いているようだ。自然から発せられる詩は人が紡ぐものより清らかで、汚れがない。
穏やかな昼下がり。淡い金髪の少年は読みかけの本を顔に乗せ、微睡んでいる。
こういう時間の過ごし方は貴重で、贅沢だ。
少年がいるこの庭園は、学園が所有するうちの一つで、アンティーク調のベンチが置いてあるだけの小さな庭園。
ここはお気に入りの場所で、
いつも通りの日常風景で終わるはずだった。が、少年の傍にいる、淡い光の蝶が呆れた口調で言ってきた。
しかしこれは、一回目じゃない。
『
「……
『あいつより悠かにマシだっての。言っとくけど、行かねーのナシだからな! 妖精にとっても大事な式なんだぞ、絶対わかってると思うけど』
少年はやれやれと言わんばかりに身体を起こす。
たった今、自分の聖域ともいえる楽園に息を切らせながら、“話題の中心人物”が呼びに来たのだ。いい加減痺れを切らしたのだろう、式の時間に遅刻するなど前代未聞。
(ふたりして、真面目だなあ。間に合えば問題ないのに)
噂をすれば、である。
「旭! 深紅! お前たちわかってるのか? 今日が、どれほど大切な日なのかを。特に旭、大体お前は昔から……」
始まった。知識の象徴である眼鏡をかけた少年からの第一声、お説教である。
深紅からしたらとばっちりでしかない。
話はまだ、ここが終着点ではないらしい。蒼馬は本来の目的を忘れてしまっているのか、ヒートアップする一方だ。
自分の妖精のたしなめる声すら届いていない。
「みんなが騒いでたぞ、代表がいないって。まさか、この期に及んで出ないとか言うんじゃないだろうな旭。深紅ももう少し妖精としての自覚を持つべきだ――」
『……申し訳ありません。こうなったら、主は無理です。……旭さん。学園長も怒り心頭ですよ、新入生を迎える大事な式を潰す気かと』
一応、無駄だと思いつつも蒼馬の妖精は責務を果たそうとしてくれたらしい。結果は……無論言うまでもないが。少年の傍らにはやはり、淡い光の蝶が浮遊している。
淡い金髪の少年は爽やかに笑い飛ばす。自分がこの話題の張本人なのだが、そんなものは微塵の欠片も感じさせられない。
「それは面白いね。傑作だ」
「何が傑作だ! 幼馴染みと言うだけで、なぜ俺が毎回文句を言われなきゃならないんだ!?」
「ハイハイ。まったくお父さんはうるさいんだから」
「その名で呼ぶなっ」
騒がしく庭園から出ていく少年らの後を、淡いふたつの光の蝶がついてゆく。