四月。春のメインイベントの盟約式が幕を閉じるともに、桜も散った。風薫る季節が始まると共に、新入生の詩徒は担当の紡ぎ師からまず“妖精と紡ぎ手”の歴史を聞かされ、“詩”とは……みたいな事を学ぶ。
とにかく新入生の詩徒はやる事が多い。課題、詩の構築、庭園の手入れ、お茶会の準備。
休日になると疲れ果てた結果、部屋から出て来なくなるらしい。
先輩や紡ぎ師の壁は高いからか、新入生同士の情報交換が今や支流となっている。
淡い蜂蜜色のセミロングの少女は、ブルーモーメントの魚を連れて、学園内にあるスイーツショップのガラスケースを覗いている。
「わあ……見てみて薄明。宝石みたいなゼリーがある! あ、こっちは花蜜の串団子だって。美味しそう」
『うん、おいしそう』
日課である散歩。――本当は。旭さんと蒼馬さんを誘いたかった……けど。
カフェでテイクアウトをしている姿を見かけたから話しかけようとした途端、あっという間に人だかりができてしまった。
「きゃー旭先輩! これ、私が焼いたクッキーです♡」
「この課題見てほしいんですけど。蒼馬先輩、いいですか……?」
「旭先輩は私と話してるの!」
「あんたこそ遠慮しなさいよ! 私の方が先輩なんですけど」
こんな会話が延々と続いていて、ここに入っていく勇気はないから、遠目で見てるしかなかった。
残念だけど、ここは引くしかない。
「もう少し強くならないとだよね……ねぇ薄明。何か買って……あれ?」
いたはずの、魚がいない。
いたはずの……。