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❁盟約式〜7〜

「泣いてしまってすみません。もう、大丈夫ですから」


「それはよかった。じゃあ今回、ここまで来た用件を言おうか」


「……用件、ですか?」


 自分に会いに来る理由など、一体何があるのか。少女には見当もつかない。


 戸惑いながら旭の次の言葉を待つ。今すぐここから逃げ出してしまいたい衝動を抑えながら、精一杯の勇気を振り絞って。


透羽とわを俺と蒼馬のいるクラスに誘いにきたんだ。今のクラスがいいなら、それでいいんだけど。――もしもそうじゃないのなら変わればいい。君が望むなら、俺が助けるから安心して?」


 どこまでも真っ直ぐで、眩しい言葉。


 優しい瞳に吸い込まれそうになる。



「……神代さ」


「待った」


「あの……?」


「俺の名前は?」


「旭さんです」


「眼鏡執事は?」


「蒼馬さん、です」


「うん、正解。“さん”付けじゃなくて、名前で呼んでよ。俺たち“友達”でしょ? ね蒼馬」



 急に話を振られた蒼馬は「またか」と言った感じだったが、耐久性が備わっているため驚かなかった。少女に向き直り努めて、やわらかな口調で言った。


「悔しいが、旭の言う通りだ。俺たちは一緒に危機を乗り越えた仲間だ。透羽がいなければどうなっていたか、考えただけでも恐ろしい。――これからよろしく頼む」



 以前後輩から「蒼馬先輩、いい人なんだけどね? 声がね……? 声が、こわい」と言われたりした事があった。しかもこれが度々あるので、できるだけ、意識をして言った(つもり)だ。



 少女は泣いていたが、小さな花が咲いている。一応これは、成功だろうか? 蒼馬がほっと胸を撫でおろす。



「蒼馬さん……」


 こんな日が来るなんて、正直思っていなかった。


 “友達” “仲間”――もうひとりで、がんばらなくていいんだ……。



 『あー蒼馬! 女泣かしてやがる!』


 いつの間にお開きになったのか、深紅が嬉々としてこちらを見ている。カグラは申し訳なさそうな顔で主に頭を下げ、薄明は心配して少女の傍へ戻ってきた。



『とわ、だいじょうぶ?』


「うん。ありがとう薄明」



 ――明日はきっと大丈夫だ。


  もう、ひとりじゃないから。

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