「泣いてしまってすみません。もう、大丈夫ですから」
「それはよかった。じゃあ今回、ここまで来た用件を言おうか」
「……用件、ですか?」
自分に会いに来る理由など、一体何があるのか。少女には見当もつかない。
戸惑いながら旭の次の言葉を待つ。今すぐここから逃げ出してしまいたい衝動を抑えながら、精一杯の勇気を振り絞って。
「
どこまでも真っ直ぐで、眩しい言葉。
優しい瞳に吸い込まれそうになる。
「……神代さ」
「待った」
「あの……?」
「俺の名前は?」
「旭さんです」
「眼鏡執事は?」
「蒼馬さん、です」
「うん、正解。“さん”付けじゃなくて、名前で呼んでよ。俺たち“友達”でしょ? ね蒼馬」
急に話を振られた蒼馬は「またか」と言った感じだったが、耐久性が備わっているため驚かなかった。少女に向き直り努めて、やわらかな口調で言った。
「悔しいが、旭の言う通りだ。俺たちは一緒に危機を乗り越えた仲間だ。透羽がいなければどうなっていたか、考えただけでも恐ろしい。――これからよろしく頼む」
以前後輩から「蒼馬先輩、いい人なんだけどね? 声がね……? 声が、こわい」と言われたりした事があった。しかもこれが度々あるので、できるだけ、意識をして言った(つもり)だ。
少女は泣いていたが、小さな花が咲いている。一応これは、成功だろうか? 蒼馬がほっと胸を撫でおろす。
「蒼馬さん……」
こんな日が来るなんて、正直思っていなかった。
“友達” “仲間”――もうひとりで、がんばらなくていいんだ……。
『あー蒼馬! 女泣かしてやがる!』
いつの間にお開きになったのか、深紅が嬉々としてこちらを見ている。カグラは申し訳なさそうな顔で主に頭を下げ、薄明は心配して少女の傍へ戻ってきた。
『とわ、だいじょうぶ?』
「うん。ありがとう薄明」
――明日はきっと大丈夫だ。
もう、ひとりじゃないから。