後日。穏やかな昼休み。
盟約式が無事終わりふたりと別れたあとは食事もお風呂も気力すらなく、エネルギー切れになって、そのままパタリと死んだように眠ってしまった。一瞬課題が頭に過ったが、睡魔には勝てない。
少女は昨日の出来事を思い出していた。やっと、落ち着いて振り返る余裕が出てきたからだ。
旭の詩と蒼馬の笛。自分より遥かに優れていて、でも自然体で接してくれる、不思議な人たち。
もう会うこともないだろうと少女は思っていた。自分とは月とスッポンで、釣り合わない。
――神代さんは確かファンクラブもあるんだっけ。もしもわたしなんかが近くにいたら……不釣り合いだって思う、よね。
でもほんの少しだけ、期待してしまった。
“もしかしたら友達になれるかもしれない”なんていう淡い期待を。
学園内で目立たない場所にある一人掛けの錆びた椅子で、少女は休み時間を過ごしていた。授業中はまだ耐えられるが、休み時間ぽつんと浮いてしまうのは息苦しくて。
『とわ、とわ、みて!』
「どうしたの?」
いつも以上に落ち着きのない薄明は、瞳がきらきらと輝いていた。
一体何を見つけたのだろう――と顔を上げた先には、旭と蒼馬が立っていた。
「妖精は妖精にしかわからないから、深紅たちに案内してもらったんだ。俺たちじゃ
「当たり前だ。人は妖精ほど優れた生き物じゃない、紡ぎ手だからと言って論外だ」
詩季森の制服がよく似合っている。高級感ある珍しい素材でつくられた制服は、学園専属服職人が仕立てたものらしい。人は勿論のこと、妖精の着るものも。
「どうして……どうして、神代さんと真田さんが……」
その先は言葉にならなかった。
これは、夢なんじゃないかと。
確かめたくて、頬をつねってみる。ああ、夢じゃないんだと緊張が解けた少女は、思わず涙をぽろぽろと零す。
旭がすっと少女の前にしゃがみ込み、頭を撫でる。
――あっ……。
“こんな時物語の王子様や騎士なら、お姫様を助けにきてくれる。でも――わたしはお姫様じゃない”
――自分には無縁だと思っていた。可愛い女の子にしか資格がないんだって。
余計に涙は溢れてくる。ずっとずっと、我慢してきた心の傷が今になってじわじわと広がってゆく。
蒼馬はぎよっとし、焦っている。それを見た深紅が大笑いし、カグラはどこまでも冷静だ。――ハーブティーみたい。
少女は心に春を感じた。雪解けの先は、花の海だ。