“Paradisus blue fantasy aria”
青の楽園 幻想のアリア
ランプは鮮やかな青を灯し、ネモフィラの海を想い出させる。その中に自分が物語の登場人物としてあるような錯覚。
“ aria aria”
アリア アリア
風が詩を運び、森全体に浸透する。さっきまでの喧騒を沈黙に変え、無かったことにしてしまうほどの、詩。ここにいる
「相変わらず食えない奴だ」
「手がかかるほど、可愛いって言うじゃないですか?」
「あいつに可愛さがあると思うのか月下。“表現者”としては認めるが、それだけだ」
「素直じゃないですねー。今度私が手紙出しておきましょうか?」
「やめろ」
言い争いながらもどこか、穏やかだった。
あまねく祈りは世界を揺らす
始まりは夜 終わりは夜明け
詩が繋ぐ 遥か彼方の楽園 忘れじの面影
あまねく祈りは導きのランプ
すべては
すべては伝承の扉を開くために
“ aria aria”
アリア アリア
「…………あれ? なんで僕は泣いているんだろう」
「お前もかよ。なんかさ……浄化? っていうの? 苦しいこと、辛いこと、全部消えちまってさ。これが“詩”なんだな」
旭の詩を初めて聴く者は、特に“感情を引き出される”。
「相変わらず清麗な詩だな。――どこまでも白い」
「彼が引き継いだものは大きいですから。己を必死に磨いたかもしれません。まあこの真実を知るのは、私とあなたと……ですからね」
月下が静かに微笑む。
「ギリギリ間に合った、ようだな。あとで呼び出すのは確定だが」
「お説教ですか。それはまた楽しいことになりそうです。ねえ学園長?」
「楽しいわけあるか。旭の詩が終わったら、すぐに次の会議があるしな。……行くぞ」
「はいはい」
青葉色のコートが翻る。次の会議をする場所に移動するために。その後ろを慌てる事なくついてゆく月下。
「わあっ……まるで夢幻ね。お伽話みたい」
「花が降ってくる!!」
去っていく背後で、歓喜している者やこの光景に言葉が見つからない者、詩を記録している者――様々だ。
天上から青い花が零れ落ち、鳥は美しい声で歌い、旭の美しく鋭い詩と溶け合い、まるでミュージカルでも観賞しているかのようだ。
まさに、幻想の舞台。
“Paradisus blue fantasy aria”
青の楽園 幻想のアリア
物語の終演
詩の終わりに、旭の声が降ってくる。
盟約式の会場にいる全員が、天を仰ぐ。
「ようこそ“
ブルーモーメントの鱗が煌めく大きな魚が真上を優雅に泳ぐ。
青いランプの輝きがまるで、蒼海を創り出しているようだった。旭の言葉を合図に、蒼馬が神楽笛を口にする。深海のように深く神秘的で、響き渡る笛の音色に合わせて、蒼馬の妖精カグラが舞う。
人は感動すると、どうも月並みな感想しか述べられないらしい。
「蒼馬先輩、笛吹けるの?」
「いや、誰も知らないんじゃないか。噂にもなってないし。旭先輩の詩は盟約式で有名だけど、これはもう比較できるレベル超えてるよな……」
「でも祝福ってなんだろう?」
互いに顔を見合わせる。これも項目に入っていただろうかと先輩の詩徒は思考をフルに巡らせるが、記憶にはない。だとすると――即興だろうか、と。
「花はちがうのかな?」
「花は演出じゃないの?」
再び喧騒を取り戻す。旭の肩に乗っている深紅は、高みの見物気分である。特に役割も何も無いため、旭から頼みごとはされていなかった。
『祝福なんているのか?』
「人も妖精も“同じ”なら、たまには必要でしょ」
『ふーん。お前って……ほんとわかりづらい人間だよなぁ』
「ははっ。深紅は、それでも俺を選んでくれたじゃない紡ぎ手に」
『ま、そういうもんか』
結局祝福が何なのか明かされないまま、盟約式は幕を閉じた。新入生の詩徒たちはしばらくその話題に花を咲かせたらしい、妖精たちもまた、同じようだった。
また、いつも通りの日常が始まる。