原チャリが二台、夕暮れの道を並んで走っていた。運転しているのはともに少女だった。一人は赤く長いゆるいウェーブのかかった髪をした少女で、もう一人は茶色のまっすぐな長い髪の少女だった。
ところどころひび割れたアスファルトはもう何年も整備されていないようだった。埃っぽい風が少女たちの髪を揺らしていた。
二人の少女たちは背中に大きな荷物を載せている。その重さのせいか、バランスを取るためかスピードはそれほど出ていない。
「リリカ、もう夕方ですよ。今日の泊まるところ考えません?」
赤い髪の少女・ライラが言った。長い髪がヘルメットからはみ出して揺れている。
「そうだね。もう夕方だしね。考えないとだなとは思ってた」
リリカと呼ばれた長い茶色のセミロング丈の髪の少女が答えた。
空はオレンジ色に染まりつつあり、もう一日の終わりが近づいていた。
「だけど……」
「だけど……なんです?」
「今日は何の成果もないからね。休むべきかは判断しかねるね」
淡々とリリカは言った。赤い髪の少女は大きなため息をつく。
「リリカは厳しいですねぇ。成果なんて毎日は出ないですよ」
「あのね、ライラはそんなこと言うけどさ、私たちって明日があるかもわからないんだよ?」
リリカがため息をつくと赤い髪の少女・ライラは「そうですけどねー」とため息をついた。ライラは一日の疲れもあるのか背中を丸め気味に原チャリを運転していた。
「でも薄暗くなってきたし、闇夜をうろつくのもよくないかな」
「そうですよー。あ、ちょうどいいところに街が見えてきましたし」
ライラの指さす方向をリリカは見た。右ナナメの方向に確かにたくさんの家が並んでいる様子が見えた。
「街だね」
「はい」
「家の形がしっかりしているのも多そうだね。行ってみようか」
「今日はあの街で寝ましょう」
「まずはどんなとこか見てからだよ」
「あったかい布団で寝たいですねー」
「過剰な期待はよそう」
過剰な期待はしない、それはリリカがこの旅の間、ずっと思っていることだった。
リリカにしても、あたたかい布団で眠りたい。しかし、この旅ではそれもなかなか叶わないことも多いことだった。
「電気は通ってますかね」
「どうだろう」
ライラが言った。まだ日も明るいので街に明かりが灯っている様子はない。
「ありますよ、きっと」
ライラが笑った。
「過剰な期待はしないけど」
リリカはまた淡々とした言葉を返した。
「私は期待しますけどね」
ライラが笑った。ライラはちらっと隣を走るリリカを見たがヘルメットと髪で表情はよく見えなかったが、なんとなく微笑んでくれているようにも見えた。
リリカ自身は自覚していることがある。ライラの楽観的な感覚に救われている部分が大きいということを。ただ、リリカは、それをライラに伝えたことはない。
「あれ……?」
ライラの呟きをリリカは聞き逃さなかった。
「どうしたの?」
「あの街……変かもです」
リリカは何が変なのかは問わなかった。ライラが「変かも」と言うことはライラには
リリカの頭の奥で、ある文字列が蘇る。
『再構築、それが貴方に課せられたミッションです』
リリカは左の手首につけた青いブレスレットに目を落とし、フッと微笑む。
「あの街に行かない理由はなくなったね」
「ですね」
「鬼が出るか、蛇が出るか……」
「なんです、それ? 鬼? 『じゃ』って何です?」
ライラはそんなことわざを知らなかった。リリカはそこを咎めない。
「行ってみなきゃわからないってことだよ」
「ああ、なるほど。理解しました。では、行きましょう」
にっこりと微笑んだライラはスロットルを開けた。速度が増した原チャリをリリカは苦笑しながら追いかけた。
二人の影が夕陽に照らされて長く伸びていた。少女たちはまだ先に何が待ち受けるかもわからぬまま先を目指した。