「千葉に行っても、元気でね」
「……はい。ありがとうございます」
駅まで見送りに来てくれている人たちに、感謝を込めて頭を下げる。顔は上げられなかった。目を伏せたまま、小さく手を振る。
「じゃあ、また、いつか」
そう言って踵を返したところで、聞こえてくる呼び声。
「
先に列車に乗り込んでいた母だった。父も車両の窓から顔を覗かせ、手招きしている。
「わかってるー! 今行くってばー!」
無理に明るい声を作って、屋根のない晴れ空の下のホームに駆ける。列車に飛び乗ったところで、大きく汽笛が鳴った。ドアの閉まる音がして、ゆっくりと列車は動き出す。
窓の外に目をやると、見送りの皆がこちらに大きく手を振っていた。部活の先輩、お隣のご夫婦、クラスメイト。にこりと笑って手を振り返す。
――もうお別れだ、この町とも、友人たちとも。
新緑色の景色の中、列車は加速する。だんだんと遠くなっていく駅のホーム。いつまでも手を振り続ける彼らの姿を目に焼き付けながら思う。
――忘れよう。そして引っ越し先で新しくやり直そう。もう二度と
◇◆◇
同日夜――千葉県内の某公園にて。
閑静な住宅街の中に位置するそこでは、死闘が繰り広げられていた。
「まだ倒れないのか、この図太い奴め! さっさとあの世へ行きやがれ!」
「これを倒しても、あの世へは行かない。
星が
「あー、もうそーゆーツッコミは今求めてないから。俺だって知ってるよ、そんなことくらい。あの世っていうのは比喩だし、比喩!」
人影のうちの一人が喚く。それに対してもう一人は小さく笑った。
「ほう、ハルが比喩という言葉を知っているとはな。驚きだ」
「バカにしてんのか!? なんならアキの方から消滅させてやってもいいぜ」
「できるもんならやってみな、と言いたいところだがな。ちょっとヤバくなってきたぞ、こちらさんが」
彼の指差す先には、さらに巨大化した深い闇。
「うっわー。さっきより大きくなっちゃってんじゃん」
「僕らがくだらない
「おう! 準備万端だ。行くぞ!」
二人は地を蹴り、大きな闇のもとへと跳ぶ。
『
二つの声が揃う。
『
白い護符のようなものが闇に向かって放たれると同時に。
〈ギャァァァァァァァァ――ッ!〉
刹那の閃光が走り、断末魔の叫びが夜空にこだまする。
一瞬の後、静寂が公園を包み込んだ。
「終わったな。意外に弱かったか?」
「うん。単にしぶといっていうだけだった」
「そうだな。……帰るか」
「えー。ここの近くにさ、カフェがオープンするらしいんだよ! その場所見てから帰ろうぜ、もう開いているかもだし!」
「バカかお前は。今何時だと思ってんだ。そもそも店なんか開いてない」
「ちぇ」
二つの人影が公園をあとにする。
再び町を夜の静寂が包んだ。