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となりの晴明くん
となりの晴明くん
咲翔
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年04月09日
公開日
4.1万字
連載中
【対呪鬼陰陽師組織『祓』へようこそ! 毎日更新・和歌の力で闇を祓うバトルファンタジー】  陰陽師――天文や暦を司り、人々の恐れる闇を祓う者。彼らの活躍の最盛期は貴族文化が花開いた平安以降。そして陰陽寮が廃止された今、陰陽師の姿は殆ど見られない。  ――そう、思われている筈だった。  ***  物語は、主人公・天乃三笠が千葉県の中学校に転校してくるところから始まる。  クラスにも慣れてきたころのある日、三笠は帰り道に『呪鬼(じゅき)』と呼ばれる謎の黒い影に襲撃されてしまう。  絶体絶命の三笠の前に現れたのは……クラスメイトの双子の賀茂晴と賀茂明だった。   「実は俺たち『陰陽師』でさ」 「そう、とにかくこの世に跋扈してやがる化け物を祓っていて」 「安倍晴明……とかとは、ちょっと違うんだけど」 「まぁ、そんな感じ」    同時に双子は、三笠の「可能性」にも気づいていた。 「天乃三笠――僕たちと一緒に、『呪鬼祓い』やらないか?」  偶然か必然か……この出会いが、すべての始まりだった。 「ここはあたしの結界内よ?」 「舞花のことは俺が守る、何があろうと絶対に!」 「わたしは唐辛子ホットミルクを飲むので忙しいんだ」 「僕は戦わなきゃいけない、あいつの分まで」 「だーかーらー、陰陽師はオニギリなんだよ!」 「うちだって好きでここに居るわけやあらへん」 「琴白さん……オレは信じらんないよ。いい大人が子供にお年玉たかるなんて!」 「ぶっ殺すぞ琴白」 「わぁフブキちゃん、こわぁい!」  現代の日常の裏で暗躍する「陰陽師」たちの笑いあり涙あり、シリアスあり何でもありのバトルファンタジー!

000.序

「千葉に行っても、元気でね」

「……はい。ありがとうございます」


 駅まで見送りに来てくれている人たちに、感謝を込めて頭を下げる。顔は上げられなかった。目を伏せたまま、小さく手を振る。


「じゃあ、また、いつか」


 そう言って踵を返したところで、聞こえてくる呼び声。


三笠みかさー? もう出発しちゃうわよー」


 先に列車に乗り込んでいた母だった。父も車両の窓から顔を覗かせ、手招きしている。


「わかってるー! 今行くってばー!」


 無理に明るい声を作って、屋根のない晴れ空の下のホームに駆ける。列車に飛び乗ったところで、大きく汽笛が鳴った。ドアの閉まる音がして、ゆっくりと列車は動き出す。


 窓の外に目をやると、見送りの皆がこちらに大きく手を振っていた。部活の先輩、お隣のご夫婦、クラスメイト。にこりと笑って手を振り返す。


 ――もうお別れだ、この町とも、友人たちとも。


 新緑色の景色の中、列車は加速する。だんだんと遠くなっていく駅のホーム。いつまでも手を振り続ける彼らの姿を目に焼き付けながら思う。


 ――忘れよう。そして引っ越し先で新しくやり直そう。もう二度と


 ◇◆◇


 同日夜――千葉県内の某公園にて。

 閑静な住宅街の中に位置するそこでは、死闘が繰り広げられていた。


「まだ倒れないのか、この図太い奴め! さっさとあの世へ行きやがれ!」

「これを倒しても、あの世へは行かない。だけだ」


 星がまばらに瞬く空の下。跳躍するは二つの人影。そして彼らと対峙するのは――漆黒の巨大な闇の渦。


「あー、もうそーゆーツッコミは今求めてないから。俺だって知ってるよ、そんなことくらい。あの世っていうのは比喩だし、比喩!」


 人影のうちの一人が喚く。それに対してもう一人は小さく笑った。


「ほう、ハルが比喩という言葉を知っているとはな。驚きだ」

「バカにしてんのか!? なんならアキの方から消滅させてやってもいいぜ」

「できるもんならやってみな、と言いたいところだがな。ちょっとヤバくなってきたぞ、こちらさんが」


 彼の指差す先には、さらに巨大化した深い闇。


「うっわー。さっきより大きくなっちゃってんじゃん」

「僕らがくだらないいさかいをしてる間にな。……じゃ、そろそろ除霊と行くか」

「おう! 準備万端だ。行くぞ!」


 二人は地を蹴り、大きな闇のもとへと跳ぶ。


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!』


 二つの声が揃う。


呪鬼滅殺じゅきめっさつ!』


 白い護符のようなものが闇に向かって放たれると同時に。


〈ギャァァァァァァァァ――ッ!〉


 刹那の閃光が走り、断末魔の叫びが夜空にこだまする。


 一瞬の後、静寂が公園を包み込んだ。


「終わったな。意外に弱かったか?」

「うん。単にしぶといっていうだけだった」

「そうだな。……帰るか」

「えー。ここの近くにさ、カフェがオープンするらしいんだよ! その場所見てから帰ろうぜ、もう開いているかもだし!」

「バカかお前は。今何時だと思ってんだ。そもそも店なんか開いてない」

「ちぇ」


 二つの人影が公園をあとにする。

 再び町を夜の静寂が包んだ。

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