「じゃができなんだ」
僕はそれが何を指しているのかすぐにわかった。
「そこからは、ユウキに家を出るなとだけ言って、畑に行って帰って来るという毎日じゃ。きっと、ユウキは誰かにすがりつきたかったじゃろうなあ。そんなユウキをわしは無視した。ひどいババアじゃ。そんなある日、ユウキは言いつけを守らず家を出て行った。出ていく姿は畑からは丸見えじゃ。わかっておった。じゃが止める気にはならなんだ。わしより先に家に帰って来ていたユウキは、わしに初めて笑顔を見せたのじゃ。ぐふうっぅっ……」
おばあさんは、ユウキの眠る布団に顔をうずめて肩をふるわせた。
ユウキの笑顔がうれしかったのでしょう。
やさしい、良いおばあさんだ。
「わしは、きっと、家を出て行くユウキを見て、熊に襲われて死ねば良いなどと思っておったのかもしれん。ひどいババアじゃ。こんなババアをユウキはきっと嫌っておるじゃろうのう……ふぐうぅぅぐふぅっ……」
おばあさんは布団から顔を上げて話を続けようとしたがまた、布団に顔をうずめた。
「かみさまーーーー!! 私のだいじなおばあちゃんを連れて行かないでーーーー!!!! お願いします。何でもします!! 私の大好きなおばあちゃんを連れて行かないでぇーー!!!!」
その時、ユウキが眠ったまま大声ではっきり言った。
っておい!! ユウキ!!
ユウキの夢の中の神様は僕だよね。
その言い方だと、僕が死神みたいにおばあさんを冥府に連れて行くように聞こえちゃうよ。まったくー。
「……??!!」
おばあさんが目を見開いて顔を上げた。
「おばあちゃん、お願い!!」
ユウキは眠ったまま続けて言った。
「……!!」
おばあさんは、寝言だとわかっているのか、いないのか。
何度もうなずく。
「私より先に死なないでーー!! 長生きしてーーーー!!!! ありがとーーう、かみさまーー大好きーー!!」
「そ、それは、無理じゃよぉー」
「ふへへへ」
おばあさんは寝言に答えると、さみしそうに笑顔になり涙を止めどなく流した。
僕はうれしくて笑顔になり、開いた口からよだれが一筋こぼれた。
僕はゆっくり美味しい塩湯を飲んだ。
飲み終わると、静かに気配を消して、ユウキとおばあさんの家を後にした。
僕はユウキ達からみれば外国人だ。
でも、ユウキ達が困っていれば手助けする良い外国人だ。
おばあさん、今日飲ませてもらった、おいしい塩湯の恩は絶対忘れません。
きっとご恩返しをします。
そして、ユウキ! 僕は君の守護神だ。文無しだから、あんまり役には立たないかも知れないけれど全力で君を守るからね。
神社の階段を上りながら僕は、元いた世界の事を思い出していた。
あまり、良い思い出はない。
家族は僕がまだ弱い頃に人質にされて、守りきれないで殺されてしまった。
それだけじゃ無い、親類縁者、友達、はては一言会話しただけのお店の店員まで人質にされて殺されてしまった。
死ななかったのは、後に仲間になる最初から自分を守る事の出来たパーティーの仲間達だけだった。
「あいつら、元気にしているかなあ」
僕のパーティーの仲間は、戦士と武闘家、大賢者と大魔導師、大聖女の五人だった。
魔王城での戦いにも同行していたのだけれど、最後に置いてきぼりにしてしまった。
怒っているのかなあ。
でも、魔王は弱かったけど、君達よりもだんぜん強かった。
来なくて大正解だったと思うよ。
僕は君達を失いたく無かったんだ許してください。
階段を上り終えて、鳥居をくぐるとそこに首吊りの木が立っている。
「ふふふ」
少し笑ってしまった。
だって僕は、洗濯物がほしやすいので物干しに使っていたのだから。
それを怒っているのか、黒いオーラのようなものが見える。
「そんなに怒るなよーー」
僕は首吊りの木に抱きついて頬をスリスリした。
すると、木の葉がザワザワ震えた様に感じた。
「かーみーさまーー!! 守護神様ーー!!」
ユウキがいつもの様に階段をのぼってくる。
「やあ、ユウキいつも元気だねえ」
「な、なな何を、そんなにのんきにしているのですかーー!! たっ、たいへんでーーす!!」
「ななな、なんだ!? また、おばあさんが倒れたのかーーーー!!!! たたたた、大変じゃないかーーーー!!!! こうしてはいられない」
「もう!! おばあちゃんは、元気ですよ」
「ええっ!! じゃっ、じゃあなんだ!?」
「これです」
ユウキはカバンから一枚の紙切れを出した。
僕はユウキが手に持つ紙切れをのぞき込んだ。
「進路希望……??」
ユウキはすでに中学二年生になっていた。
小学生の間は坊主頭だったユウキだが、中学生になったユウキは髪を少しだけ伸ばしている。滅茶苦茶美少女になっている。
坊主頭だったのは、貧乏なので髪をおばあさんが切っていたのだけど、切る物がおじいさんの形見のバリカンだったので坊主頭だったのだ。
ちなみにおばあさんは今でも坊主頭だ。
ユウキの髪は今、僕が切ってあげている。僕とユウキは相変わらず仲良しだ。
ユウキの美貌は僕のいた世界でも一番と言って良い、この世界でもきっと一番だろう。絶世の美少女だ。僕の最高にいかした自慢の友達だ。
「そう、どこの高校へ行きたいのか、というのを書く紙よ」
「じゃあ、それを書いたら良いじゃ無いか。全然大変じゃ無い」
「それがね、うちはお金が無いから行けそうにないのよねえ」
「そ、それは大変じゃないか!」
「だから、さっきからそう言っているの!」
「そ、そうかー、ふむー……」
僕は、お金に関しては頼りにならない。
なぜなら、文無しだからね。
それに、もし持っていてもユウキは受け取らないはずだ。
さて、どうしたものか。
「やっぱり、就職した方がいいわよねえ。自分でお金を貯めて、それからゆっくり行けばいいもの」
「ゆぅーーきーーちゃーーん」
神社の階段からユウキを呼ぶ声がする。