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0007 別れ

「はい、これ」


ユウキは、おばさんの通帳と印鑑を返却した。


「神様、私は生きられるのですか?」


「一度、病院へ行ってみてください。たぶん大丈夫だと思いますよ」


僕の治癒魔法で、普通の人なら治らない病気もけがも無い。

恐らく完治しているはずだ。


「本当にありがとう!!」


おばさんは、僕に抱きついて肩を揺らした。

はっ!!

やられた、涙と鼻水を付けられた。


「ユウキのでも汚いのに、おばさんのは当然汚いよーー」


つい口から出てしまった。


「なっ!! なんですってーーーー!!!!」


ユウキとおばさんが同時に怒った。


「うふふふふ」


今度はユウキとおばさんが抱き合って笑っている。


「ユウキちゃん、ありがとう」


「いいえ。こちらこそ、おばさん、ありがとう」


「…………」


おばさんは、不機嫌そうな顔をして黙ってユウキの顔を見つめた。

ユウキは、ハッとした表情になった。


「お姉様、ありがとうございます。これで高校に行くことが出来ます」


「うふふ、どういたしまして」


今度はおばさんもうれしそうな笑顔で、ユウキをやさしげに見つめた。


「かぁーみさまぁーー!! ありがとぉーー!!」


今度は、二人で僕に抱きついて来た。

僕もユウキが進学出来るみたいなのでうれしくなっていた。

その後、二人はそそくさと神社から出て行くと、おばあさんの家に行ってしまった。

おばさんの足取りはしっかりしていて、なんだかスキップをしている様に見えた。


――ふふふ、ユウキが進学かぁ……うれしかったのですが急にさみしくなった。






「忘れ物は無いかい?」


おばあさんがユウキに声をかけた。

もうすぐ予約した村営の巡回バスが来る。

この集落は人が少ないので巡回バスは通常ここまでは来ない。

だから、来て欲しいときは電話をして予約をする。


「もう! おばあちゃんは何回同じ事を聞くのよ! 大丈夫です」


ユウキは、近くに通学出来る高校がないので、寮の有る都会の女子校を受験して合格した。

中学の卒業式が終わり、今日その女子校の寮に出発する。

既にユウキはその女子校の制服を着て、神社の下の空き地でおばあさんと僕と巡回バスを待っている。

神社の下の空き地がバスの停留所だ。

ここで巡回バスがユーターンをする。

巡回バスのエンジンの音が近づいて来るのが聞こえてきた。


「ユウキ、これを」


おばあさんが恥ずかしそうに通帳と印鑑を差し出した。


「えっ!? こっ、これは……」


ユウキはそれを受け取るのを一瞬ちゅうちょしました。

でも、満面の笑顔になってそれを受け取った。

きっと、この日のためユウキの事を考えて毎日節約して貯めたものでしょう。

それに気付きユウキは喜んで受け取ったようです。


「少ないがのう」


その言葉を聞いてユウキは素早く通帳の中を見た。

ユウキは目をまん丸にした。


「こ、こんなに……」


その言葉と共にせきを切ったように涙があふれ出した。

ずっと、我慢していたのでしょう。

泣かないつもりだったのかも知れません。

でも無理だったみたいです。

ユウキは、おばあさんに抱きついて大声を出した。


「ユウキ、僕もプレゼントが有るのだけど……」


「ふぇっ……」


ユウキは泣きながら驚いたので変な声を出した。


「両手の小指を出して」


ユウキは、僕の言った通りに素直に両手の小指だけを立てて僕の前に出してくれた。

その手の小指の上に僕は両手の平をかぶせた。


「……」


ユウキは黙って涙でびちゃびちゃの目で僕の顔を見つめて来た。

ユウキの思い出が次々よみがえってくる。

小さかったユウキがこんなに可憐になって大きくなったんだね。


「ふふ、終わったよ」


ユウキはうなずくと両手の小指をじっと見つめた。

ユウキの両方の小指の爪に小さな僕の勇者の紋章がついているはずだ。


「神様、これは?」


「それは、お守りだよ」


「お守り……」


ユウキはそう言ってうれしそうにもう一度小指の爪を見た。


「なにか困った事があったら、どこでもいいから小指の爪を体に三回擦りつけて僕を呼んで。そうすれば、すぐに僕がユウキを助けに行くからね。忘れないでね。僕はユウキの守護神だからいつも見護っているからね」


「うん、かみさまーー!! ありがとぉーーう!! わあぁぁーーん!!」


今度は、ユウキが僕に抱きついて泣きだした。

僕がユウキに付けた勇者の紋章は、移動魔法のマーキングだ。

僕はそのマーキングに移動魔法で一瞬に移動が出来る。

マーキングは、重要なので何か危害を加えられればすぐに僕は感じ取ることが出来る。

その上、防御魔法も付与されている。

きっとユウキを護ってくれるだろう。


村営の巡回バスが僕達の前に止まった。


「おばあちゃん、ありがとう。神様、ありがとう」


ユウキはおばあさんと僕に泣きながら言い終わると、何度も振り返りバスに乗り込んだ。

ユウキが泣きすぎるので、おばあさんと僕は泣かずに済んでいた。

でも、おばあさんの目には涙があふれそうにたまっている。

ユウキが巡回バスの扉を閉めると、遅いぞと言わんばかりに巡回バスが出発した。

運転手さんにとっては日常だ。きっとイライラしていたのだろう。


「ユウキーーーー!!!! げんきでなーー!!!!」


おばあさんと僕は巡回バスに向って自然と大声で言っていた。

そして、手を高くあげて目一杯振った。

ユウキも一番後ろの席で僕達の方を見つめて手を振っている。

巡回バスが見えなくなるまで手を振った。


「行ってしまったのう」


おばあさんがさみしそうにつぶやいた。

目から涙があふれ出している。


「行ってしまった……」


僕もつぶやいた。


「なんじゃ、神様でも泣くんじゃのう。ふひひひ」


おばあさんが僕の顔を見て笑っている。

自分だって涙でグチャグチャの顔をしているくせに!

その後、おばあさんの家で塩湯をご馳走になって、神社にもどった。

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