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0010 不気味な視線

三人は学校の駐車場に向います。

そこに一台のタクシーが待っています。

学園から最寄りの駅までは少し歩かないといけません。

エイリとノブコはユウキの為に呼んでくれていたようです。


「ヒッ……」


ユウキは誰にも聞こえないくらい小さく、悲鳴を上げました。

どうやら、トラウマがあってバスくらい大きければ良いのでしょうが、乗用車は恐怖心がよみがえるようです。


「ささっ、乗って、乗って」


エイリはユウキに助手席を勧めます。


「らめーーっ」


ユウキはテンパって少し噛んだようです。

声まで可愛いですね。


「ど、どうしたのですか??」


エイリとノブコが同時に質問します。


「助手席はだめ。ぜ、全員後部座席です」


「そ、それはいいのですけど……」


エイリはユウキの異変に少し気付きかけています。


「むしろ、それは御褒美です」


ノブコは、誰にも聞こえないくらいの小声で言って、顔に影を落とし悪い笑顔です。

メガネがキラリと光りました。

どうやらノブコは何も気がついていないようです。


ユウキは、本当は乗りたくないのでしょうけど、頑張って乗り込みます。

二人の友達がせっかくしてくれた好意を、無に出来る子ではありませんからね。

少し震えている様ですが、唇を噛みしめて最初に乗り込みました。

両サイドにエイリとノブコが座ります。

遠慮してか、ユウキの体には触れないようにしています。

良かったですね。おかげで震えているのはバレませんでした。

同時に、トラウマも解消出来るでしょう。


「運転手さん、……」


エイリが運転手さんの耳元に行き先を伝えました。

どうやら、最寄り駅では無く直接大きな町の駅まで行ってしまうようです。


「あっ、あら……」


ノブコがうれしそうに声を出しました。

車が走り出すとユウキは気を失ったように目を閉じて、ノブコの方に体を任せたからです。

眠った訳ではなく、本当に気を失ったのかも知れませんね。


「チッ」


エイリがくやしそうに舌打ちをしました。


「疲れていたのでしょうね」


ノブコは、うれしそうな顔のままエイリに聞きました。


「いいえ、ユウキさんは何かを耐えていたみたいに感じました。何も言いませんでしたので、言いたくないほどの嫌な事がタクシーで起きたのではないでしょうか。それでタクシーではすぐに眠るようにしているとか」


「言って頂ければ…………そんなことを言う子ではありませんね」


「うふふ、そういうことですわ。残念姫は少し残念ですが、いつも人の事を思いやるいい子ですわ」


「……そうですね」


ノブコは母親のような優しい目でユウキを見つめると、手をユウキの太ももの上に置こうとしました。


「こら!!」


「痛い!」


そのノブコの手の甲をエイリがつねっています。


「ノブコさん、どさくさにまぎれて何をなさろうとするのですか」


「うふ、良いではありませんか。こんな美しい人にバレずに、さわれられる機会はそうはありません。今なら何をしても気持ち悪がられません」


「あなたと一緒にしないで下さるかしら。私はそんな不純な気持ちはありません」


そう言うと鋭い目つきでノブコをにらみ付けました。

ノブコは鼻の下を伸ばし変態親父のような顔をしていましたが、急に真顔になってエイリに視線を向けます。


「そう言えば、あなたとは二人で話すのは初めてですね」


「うふふ、そうね。わたくしは、学園カーストの頂点に君臨出来ると思っていたのですけど、あなたの存在を知りこころよく思っていませんでしたからね」


「それは、わたしも同じ事です。家柄も美しさでも学園一だと思っていましたから」


どうやら、この二人はあまり仲が良くなかったようですね。


「でも、驚きました。こんなに美しい方がいらっしゃるなんて」


「そうそう、性別を越えてときめいてしまいました。一撃で沈没です。どこに隠れていたのでしょうか? この子ならどこにいても噂になるくらい目立つでしょうに」


「まあ、でも、おかげでわたくしが一番はじめに友達になれましたわ」


「はぁああーーーーっ!! なにをいうのですか、一番はわたしです!!」


「な、なんですってーーーー」


あらら、些細な事で、けんかが始まってしまいましたよ。


「らめーーっ、かみしゃまーーっ、エイリちゃんとノブちゃんを連れて行かないでーーいつも喧嘩をしていますが本当はいい子なんです。お願いします。お願いします。何でもします。鳥居の上の拭き掃除だってします。だから、連れて行かないでーーーー!!!!」


「ぷふっ、わたくしたちは、ユウキさんからそんな風に思われていたのですね」


エイリは、ユウキが夢に見てくれたことがうれしかったのでしょう。

満面の笑顔で笑っています。


「いつも喧嘩って、あなたの前ではしたことはありませんのに」


ノブコはふてくされたような顔をしていましたが、すぐに笑顔になりやさしくユウキの顔を見つめています。


「でも、いつも神様、神様って、ユウキさんはまったく残念姫ねー」


エイリも無邪気なユウキの顔をのぞき込んで眉をしかめました。

ユウキがことあるごとに、神様、神様というのがお気に召さないようです。


「そうね。この世に神様なんて存在しないのに」


ノブコは神様をまったく信じていないようです。


「って、鳥居の上の拭き掃除って、そんなことをやらされているのーー!!」


二人の声がそろいました。




「ユウキさん、着きましたよ」


エイリがユウキの耳元でいいました。

結局ユウキは、一度も目覚めること無く目的地に着いてしまったようです。

大きな町の駅前でタクシーは止まっています。


「えっ、あっ、おはようございます」


「ぷっ、おはようございます」


エイリとノブコが楽しそうに答えました。

ユウキがタクシーから降りて数歩歩くと、回りの視線がユウキに集りだしました。

光り輝いていますからね。

でも、その中に少し嫌な気持ちの悪い視線が混じっている事に、ユウキ達はまだ気がついていませんでした。

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