三人は学校の駐車場に向います。
そこに一台のタクシーが待っています。
学園から最寄りの駅までは少し歩かないといけません。
エイリとノブコはユウキの為に呼んでくれていたようです。
「ヒッ……」
ユウキは誰にも聞こえないくらい小さく、悲鳴を上げました。
どうやら、トラウマがあってバスくらい大きければ良いのでしょうが、乗用車は恐怖心がよみがえるようです。
「ささっ、乗って、乗って」
エイリはユウキに助手席を勧めます。
「らめーーっ」
ユウキはテンパって少し噛んだようです。
声まで可愛いですね。
「ど、どうしたのですか??」
エイリとノブコが同時に質問します。
「助手席はだめ。ぜ、全員後部座席です」
「そ、それはいいのですけど……」
エイリはユウキの異変に少し気付きかけています。
「むしろ、それは御褒美です」
ノブコは、誰にも聞こえないくらいの小声で言って、顔に影を落とし悪い笑顔です。
メガネがキラリと光りました。
どうやらノブコは何も気がついていないようです。
ユウキは、本当は乗りたくないのでしょうけど、頑張って乗り込みます。
二人の友達がせっかくしてくれた好意を、無に出来る子ではありませんからね。
少し震えている様ですが、唇を噛みしめて最初に乗り込みました。
両サイドにエイリとノブコが座ります。
遠慮してか、ユウキの体には触れないようにしています。
良かったですね。おかげで震えているのはバレませんでした。
同時に、トラウマも解消出来るでしょう。
「運転手さん、……」
エイリが運転手さんの耳元に行き先を伝えました。
どうやら、最寄り駅では無く直接大きな町の駅まで行ってしまうようです。
「あっ、あら……」
ノブコがうれしそうに声を出しました。
車が走り出すとユウキは気を失ったように目を閉じて、ノブコの方に体を任せたからです。
眠った訳ではなく、本当に気を失ったのかも知れませんね。
「チッ」
エイリがくやしそうに舌打ちをしました。
「疲れていたのでしょうね」
ノブコは、うれしそうな顔のままエイリに聞きました。
「いいえ、ユウキさんは何かを耐えていたみたいに感じました。何も言いませんでしたので、言いたくないほどの嫌な事がタクシーで起きたのではないでしょうか。それでタクシーではすぐに眠るようにしているとか」
「言って頂ければ…………そんなことを言う子ではありませんね」
「うふふ、そういうことですわ。残念姫は少し残念ですが、いつも人の事を思いやるいい子ですわ」
「……そうですね」
ノブコは母親のような優しい目でユウキを見つめると、手をユウキの太ももの上に置こうとしました。
「こら!!」
「痛い!」
そのノブコの手の甲をエイリがつねっています。
「ノブコさん、どさくさにまぎれて何をなさろうとするのですか」
「うふ、良いではありませんか。こんな美しい人にバレずに、さわれられる機会はそうはありません。今なら何をしても気持ち悪がられません」
「あなたと一緒にしないで下さるかしら。私はそんな不純な気持ちはありません」
そう言うと鋭い目つきでノブコをにらみ付けました。
ノブコは鼻の下を伸ばし変態親父のような顔をしていましたが、急に真顔になってエイリに視線を向けます。
「そう言えば、あなたとは二人で話すのは初めてですね」
「うふふ、そうね。わたくしは、学園カーストの頂点に君臨出来ると思っていたのですけど、あなたの存在を知りこころよく思っていませんでしたからね」
「それは、わたしも同じ事です。家柄も美しさでも学園一だと思っていましたから」
どうやら、この二人はあまり仲が良くなかったようですね。
「でも、驚きました。こんなに美しい方がいらっしゃるなんて」
「そうそう、性別を越えてときめいてしまいました。一撃で沈没です。どこに隠れていたのでしょうか? この子ならどこにいても噂になるくらい目立つでしょうに」
「まあ、でも、おかげでわたくしが一番はじめに友達になれましたわ」
「はぁああーーーーっ!! なにをいうのですか、一番はわたしです!!」
「な、なんですってーーーー」
あらら、些細な事で、けんかが始まってしまいましたよ。
「らめーーっ、かみしゃまーーっ、エイリちゃんとノブちゃんを連れて行かないでーーいつも喧嘩をしていますが本当はいい子なんです。お願いします。お願いします。何でもします。鳥居の上の拭き掃除だってします。だから、連れて行かないでーーーー!!!!」
「ぷふっ、わたくしたちは、ユウキさんからそんな風に思われていたのですね」
エイリは、ユウキが夢に見てくれたことがうれしかったのでしょう。
満面の笑顔で笑っています。
「いつも喧嘩って、あなたの前ではしたことはありませんのに」
ノブコはふてくされたような顔をしていましたが、すぐに笑顔になりやさしくユウキの顔を見つめています。
「でも、いつも神様、神様って、ユウキさんはまったく残念姫ねー」
エイリも無邪気なユウキの顔をのぞき込んで眉をしかめました。
ユウキがことあるごとに、神様、神様というのがお気に召さないようです。
「そうね。この世に神様なんて存在しないのに」
ノブコは神様をまったく信じていないようです。
「って、鳥居の上の拭き掃除って、そんなことをやらされているのーー!!」
二人の声がそろいました。
「ユウキさん、着きましたよ」
エイリがユウキの耳元でいいました。
結局ユウキは、一度も目覚めること無く目的地に着いてしまったようです。
大きな町の駅前でタクシーは止まっています。
「えっ、あっ、おはようございます」
「ぷっ、おはようございます」
エイリとノブコが楽しそうに答えました。
ユウキがタクシーから降りて数歩歩くと、回りの視線がユウキに集りだしました。
光り輝いていますからね。
でも、その中に少し嫌な気持ちの悪い視線が混じっている事に、ユウキ達はまだ気がついていませんでした。