氏子のユウキが村を出て、かれこれ二ヶ月がたちました。
ユウキは村の生活が抜けきらないのか、抜かないのか、朝は四時半に起きています。
朝食まで運動をして時間をつぶします。
寮の朝食のルールでは七時からですが、毎日数分ずつ早く食堂に行き、いまではユウキだけ特別に六時半から一人で食事をしています。
「神様、おばあさん。ユウキはお食事をいただきます」
ユウキは、食堂で村の方を向いている席に座り、静かに目を閉じていつものように「いただきます」をしました。
「まーぁたく、また神様ですか?」
この子は、ユウキの友達、十田愛莉。
ユウキはエイリちゃんと呼んでいます。
大企業の創業者一族の髪の長い美少女です。
珍しく早起きをして、ユウキと朝食をとるつもりのようです。
「神様なんかいないから」
そして、もう一人の友達、旧仲信子。
ユウキはノブちゃんと呼んでいる、髪の短いメガネをかけた美少女です。
偉い国会議員さんのお孫さんだそうです。
「土曜日とはいえ、ユウキさんは中学の時のジャージで朝食とは、わたくしは泣けてきました」
エイリは泣き真似をしました。
「エイリちゃん、いつも言っていますが、私は無駄遣いをしたくないので使える物は使える間じゅう使います」
ユウキは少し怒った表情で言いました。
「それなら、奨学金を受ければいいのに。ユウキちゃん、この前のテストで学年二位だったのでしょ」
ノブコがそう言って、ユウキの隣の席に座りました。
「それも、したくありません。私は学校へ行くためのお金は用意出来ているので、奨学金は本当のお金が無い人のために残しておかないと」
ユウキは慰謝料と損害賠償でもらった四億円は、学校の出費に使い、おばあさんからもらったお金を、普段必要な物を買うお金と決めているようです。
そのため、普段使うお金は一円でも無駄遣いをしないつもりのようです。
まあ、ユウキなら、おばあさんがどれだけ苦労をして貯めてくれたお金か理解しているのでそうなるでしょう。
「ユウキさん、今日は外出届を出してくださいましたか?」
「出してはみましたが、やっぱりやめておこうかと思います」
「はあぁぁーーーー!!!!」
エイリとノブコが眉間にしわを寄せてユウキの顔に自分たちの顔を近づけます。
ユウキは近づく二人の顔をよけようとして、のけぞりイスが倒れそうになりました。
「ユウキちゃん、約束しましたよね。一緒に買い物に行くって!! 楽しみにしていたのですよ」
「そうですわ!!」
「でも、無駄遣いはしたくないし」
「大丈夫です。お金はすべてわたくし達持ちです」
「ええーーっ!! それはできないよーー!!」
「ふふふ、あらあらユウキさんは、頭が良いのに経済がわかっていないですわねー。今の日本では、私達お金持ちには自然とお金が増えていくシステムになっていますのよ。わたくし達と一緒の時は、お金の心配をしなくて良いのです」
「そうですわ。それにユウキちゃんをお誘いしたのは、わたしたちです。どーーんと、おまかせください」
ノブコが胸をたたいた。
「うふふ、ユウキさんの普段着楽しみですわ」
エイリとノブコが、ユウキの体に視線を移し上から下までジロジロ見つめます。
ユウキ達は、食事を済ますと個室に戻って外出用の私服に着替えました。
「ぐはあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
「ぎええぇぇぇーーーー!!!!」
エイリとノブコが寮の部屋から出て来たユウキを見て奇声を上げました。
「ななな、なんて事ですのーー」
「とんでも無い服装ですわーー!!」
エイリとノブコが手で目をおおって、下を向いた。
「ユ、ユウキさん!! あなたが学園で、なんて呼ばれているのか知っていますの?」
「えっ!? ……さあ、知りません」
ユウキは、寮の廊下の天井を見つめ、少し考えましたが分からなかったようです。
「美しく聡明な……」
「わあ、うれしい!!」
「まだ終わっていませんわ。この先があります!!」
エイリはキッと目をつり上げてユウキを見ました。
「えっ??」
「美しく聡明な……残念姫です!!」
「えーーーっ!? って、どこが残念なのでしょう?」
「なんですか!! その服装は!! 上は、すすけたような黄色のアンナダメダーマンのイラスト入りティーシャツ、そもそもアンナダメダーマンってなんですか!! 下は茶色のなんだか分からないズボン。そんな服を着ている女子高生は、ユウキさんしかいません!!」
「えーーっ、お正月にお姉様に、街の古着屋で買ってもらったのです。上が百円、下が二百円、両方で三百円です。お年玉として買ってもらいました。ちなみにアンナダメダーマンは保育園で、はやっていました」
ユウキの村から一番近い町には大きな古着屋があります。
村や、町は活気が無く皆貧乏で、この古着屋は本当にどうしようもない古着ばかりをおいているのですが、基本百円か二百円で貧乏な老人には大人気です。
当然、ユウキもおばあさんも服はここで買っています。
「そ、そんなことは聞いていません!! って、三百円は安いですわね」
「でしょーー!! ちょーーお気に入りなのーー!!」
ユウキは本当にうれしそうな笑顔になりました。
二人はその笑顔を見ると、頬を赤らめて少し視線をユウキからずらしました。
「ちょーーお気に入りなの!! じゃありません。他の服は無いのですか!?」
「ええーーっ!! 私の普段着は、これと中学の時のジャージだけです。後は高校の制服と、体操服だけです」
ユウキは口をとがらせて、頬をふくらませて言いました。
「くっ……と、尊い」
ノブコが小声で言って、ハンカチで鼻の下を押さえています。
それをエイリがキッと横目でにらんで、
「じゃあ、制服で良いわ。それに着替えて……」と、いいました。
ユウキは素直に部屋のドアを開けると中に入ります。
「きゃああぁぁぁぁーーーー!!!!」
「どうしたのですか??」
ユウキの悲鳴に、エイリとノブコが心配そうにユウキの顔をのぞき込みます。
「ななな、なんで二人が入って来ているのですかーー!!!!」
「えっ!?」
「『えっ!?』じゃありませーーん!! 出て行ってくださーーい!! 私は人に見られるのははずかしいのでーーす」
それはそうですよね。
ユウキの下着は、ビリビリにやぶけた下着をおばあさんが手直しした物だけですものね。
「チッ!!」
エイリとノブコは舌打ちをして出ていきました。
ユウキは、セーラー服とブレザーが合わさったようなこの学校の制服を着て出て来ます。
この学園の制服は、基本ブレザーなのですが、ブレザーのえりがセーラー服のように広く大きくなっている変わったデザインになっています。
リボンが、中のカッターシャツに付けるようになっていて、とても可愛いらしい。
「ふーーっ!! 美しい!!」
エイリとノブコがため息をつきました。
でも、下着がねえ。エッチな風が吹かないことを祈ります。