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0015 異形なる者

地下へ続く階段の踊り場にしゃがんでいる人影があります。

壁側を向いて何かゴソゴソしていましたが、大きな悲鳴を聞いて10センチ程飛び上がりました。

大きな悲鳴を聞いて驚いたようです。

なんだか可愛いですね。


「だ、だれですの?」


エイリが懐中電灯で照らしました。


「皆、ここは少し危ないから、大きな声は出さない方が良かったのですが……もう手遅れですね。存在がばれてしまったでしょう」


「かみさまー!」


ユウキがうれしそうに笑って、ほっとしています。

神様は立ち上がって振り返り笑顔になりました。


「きゃああああぁぁぁーーーーーー!!!!!!」


エイリとノブコが再び悲鳴を上げました。


「て、てっ、て、て……」


ノブコが手と言っています。

壁から手でも出ているのでしょうか?

それなら、恐いですね。

建物の中は真っ暗で、今も懐中電灯の頼りない光だけで回りを照らしています。

懐中電灯の光の中には手のような物は見えませんが……


「かみさまーー!!!! てっ、手に何を持っているのですかーー!!!!」


エイリが震える声で聞きました。


「あーーこれ、良いでしょう。捕まえました」


自慢そうに神様は手の物を持ち上げました。

丸々と太ったネズミが三匹もがいています。

神様はネズミの尻尾を持ってご機嫌です。

ネズミたちは太りすぎのため尻尾の先までは体が動かせないようです。

手足をバタバタ動かすだけで、それ以上は動けないようです。


「よかったですね。とても美味しそうです」


ユウキが笑顔で言いました。

私もユウキも神様が、ネズミをご飯にする事を知っているので普通の事に感じました。


「お、おおお、おいしそぉーーうですってーー!!」


エイリとノブコが、目玉が落ちそうなくらい目を見開いています。


「ふふふ、こんなに大きな奴は初めてです。とても美味しそうです。でも変ですよね。こんな廃墟でこんなに……」


「かかか、かみさまああぁぁーー!!!! そんな物は捨ててください。後で美味しい物をご馳走しますからーー!!!!」


神様が何かを言おうとしていましたが、それをさえぎってエイリとノブコが同じ事を言いました。


「えええーーっ!! ネズミより美味しい物ですかーー!! へ、へびかなあ」


神様は床にネズミを置くと尻尾から手を離しました。

ネズミたちはゆっくり一度後ろを振り返ります。

そして、手足を猛烈な勢いで動かします。フェイントですね。

うふふふ、余りに速く走ろうとして手足が空回っています。

ものすごく真剣な顔をしていますね。

とても可愛いです。


「ユウキさん!! あ、あなたは神様に何て物をお供えしているのですかーー!!」


「わ、私じゃないよぉーー。神様が勝手に捕まえて食べているんですよぉー」


ユウキが口を尖らせて言いました。


「みんな、ここから先は危険地帯です。静かにしてついて来て下さい」


神様はネズミ達が走り去るのを残念そうに見送ると、真剣な顔をして手招きをしました。

手招きをしていない方の手は人差し指を立て、口の前に置きました。

そして、階段を降りていきます。


「あら、何にも無いですわ」


階段を降りきると、エイリが言いました。

そして、ユウキとノブコがうなずき、階段を昇ろうとします。


「ちょっと待って下さい。うふふ、皆にはそう見えるのですね。認識阻害の魔法がかけられています」


そう言うと、帰りたくてしょうが無いという素振りの三人の目の前に、神様は自分の手の平をかざしました。


「ああっ!!」


三人は声を上げて目を細めます。


「どうですか?」


「廊下が奥まで続いています」


ユウキが言うと、エイリとノブコがうなずきます。


「どうやら、あの突き当たりの部屋に良くない気配を感じます。どうしますか? 行きますか?」


「……わたくしは、ここに何があるのか、それを確かめるために来ました。い、いきますわ」


エイリは、少し黙って考え込んでいましたがそう言いました。

そして、神様の腕にしがみつきます。

遅れまいと、ノブコが反対の手にしがみつきました。

ユウキは出遅れて、つかまることが出来ずにまた口を尖らせています。

神様は少し困った表情になりましたが、その後はそのまま歩き出しました。


――きゅぃぃぃぃいいぎきききぃぃぃぃぃーーーーー


神様は扉に手を当てるとゆっくり押しました。

気持ち悪い音を立てて扉がすこしずつ開いていきます。

懐中電灯が中を丸く照らします。

照らしていないところは何も見えないほど真っ暗闇です。

少しずつ奥へ奥へと懐中電灯の光を入れていきます。


その光の端に、四本の足のような物が見えてきました。

でも、その足の様な物は異様な色をしています。

人間の肌の色ではありません。

蛙のような緑色に、黒い斑点があります。


光を上に上げると、背中が見えました。

背中には亀のような甲羅があります。


「かっ、かっぱ……」


小さな声でエイリが言いました。

その異形なる者達は、ステンレスの台のような物の上に置いてある物を無心に食べているようです。

こちらに背を向けている者が二人、反対側に一人います。


「うげぇぇぇーーー!!!!」

「おろろろろぉぉ!!!!」


エイリとノブコが神様の手を離して、数歩歩いてしゃがみ込みました。

台の上には、どうやら人間が置かれているようです。

三人は人間を食べている最中だったようです。


「ぎゃああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」


エイリとノブコはしゃがんだまま、力一杯叫んでしまいました。

異形の者達の視線が、ゆっくり、ゆっくり、こちらに集りました。

無言で、異形の者達はこちらを見つめます。

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