「あんちゃん……」
デェスが倒れるダニーを心配しています。
神様がダニーを垂直に頭から床にたたきつけたため、コンクリート製の床に脳天から突き刺さり目を回しています。
それでもダニーの頭はなんともないので、とても硬い石頭のようです。
衝撃で脳しんとうを起こしたのでしょう。
けがは無いので、治癒の必要は無いでしょう。しばらく時間がたてば、意識を取り戻すのではないでしょうか。
「あなた達は何故人間を食べるのですか?」
表面に美しいテカリのある高級なシルクのハンカチのような物で、口を拭きながら神様に近づいて、エイリがデェスに声をかけました。
きっと、人間が食べられたことに我慢が出来なかったのでしょう。
「はん、あんた達だって何の罪も無い牛や豚を殺して食べているじゃ無いデェスか」
「牛や豚と人間は違いますわ」
「おら達にとっては、人間だって牛や豚と同じズラ!!!!」
ズラーが不機嫌になり声を荒げて言いました。
表情も目をつり上げ怒りの表情です。
「ひっ!!」
エイリはあまりの剣幕に小さく悲鳴をあげて、神様の体の影に隠れます。
「うふふ、僕だって、熊やネズミを殺して食べています。たまたま、猿や、人間は自分に似ているから食べないだけです。彼らもきっと亀は食べないでしょう」
神様はエイリをかばうように優しく言いました。
「亀は食べるズラ」
「亀は好物デェス」
「くすっ」
ユウキが笑いました。
「お前達は、何かを勘違いしているズラ。神様はおら達より強いから敬意を示しているズラが、お前達には何も感じていないズラ。気安く話しかけるなズラ!! 殺すズラよ!!!!」
ズラーが、笑われた事に不機嫌になりユウキにすごみました。
そう言われて、ユウキの体がビクンと動きました。
神様は、チラリとユウキの顔を見ました。
ユウキの顔が恐怖に引きつっています。
可愛い目に涙が溜まっています。
「あなた達こそ、気を付けて下さい。僕にとってユウキは僕の命より大切な存在です。ここにいるエイリとノブコはそのユウキのお友達です。僕にとってはあなた達こそ、亀程度の命です」
神様は、全く怒りを見せずに静かに言いました。
でも、言っている内容が恐いですね。
ユウキとエイリとノブコに失礼な態度を取れば、亀として食べてしまうぞという意味ですね。
「ヒッ!!」
今度はズラーとデェスが悲鳴をあげる番です。
小刻みに体を震わせてあきらかに怯えています。
「大丈夫です。神様は世界で一番やさしいお方です」
ユウキはそう言うと、デェスに近づき座り込んでいるデェスの横に体を密着して座り手を握りました。
デェス達三人兄弟の体は、ヘドロの様な気持ちの悪いテカリも臭いもあります。
それに体を密着させて、ましてや手を握るだなんて事は、誰にでも出来る事ではありません。
ユウキの服が、みるみるヘドロ色に染まっていきます。
「!?」
デェスとズラーが驚いてユウキの顔を見ました。
ユウキは天使のような笑顔を二人に見せます。
そして、神様にその笑顔を向けました。
「か、神様!! 俺達をあなたの家来にして欲しいダニ!!!!」
いつから意識を取り戻していたのか、ダニーが静寂を破って声をあげました。
「えっ!!」
神様は一瞬小さく顔をくもらせました。
『嫌だよー』という表情ですね。
それは、よく注意していないと分からない程度でしたが、ダニーはすぐに感じ取ったようです。
「正々堂々相撲で戦って負けたダニ! 何でも命令に従うダニ! だから家来にして欲しいダニ!! お願いダニ! お願いしますダニーー!!」
それを聞くと弟達が姿勢を正し、頭を下げます。
ユウキも同じように姿勢を正して真剣な顔をして神様の顔を見つめます。
ユウキは完全にカッパの味方になっています。
「ふーーーーっ! 僕はユウキの願いは、僕に出来る事なら何でもしてあげると約束しています。仕方がありませんね。では、最初の命令をします。いいですか?」
神様は、そうとう嫌だったのか長いため息をつき言いました。
「はっ!!」
そう言うと、ダニーは頭を下げます。
「そんなにかしこまらないで下さい。僕の最初の命令は、今日より人間を食べるな!! それだけです」
あーあ、神様、エイリの目がハートになっていますよ。
知りませんからね。
「分かりましたダニ。実は人間はあまり美味しくないダニ。特に女は脂身が多くて最悪ダニ。捕まえるのが楽なので食っていただけダニ。もう食べないダニ」
どうやら、カッパ達は男の方が美味しいようです。
だから、最初に神様に襲いかかったのですね。納得です。
「たしか、カルッパーン族は雑食でしたね。人間を食べなくても生きていけますね。ところで、あなた達は何故こんなところにいるのですか?」
「あー、それデェスか。実は、偉大なる魔王様の魔力が減少しているのデェス。それを調べるためにきたデェス」
「魔王の魔力? 減少?」
「神様は知らないダニか。五千年以上前には女神エイルフ様の力で、オラ達の世界とこの世界はつながっていたダニ。おら達の世界には元々人間はいなかったダニ。偉大なる魔王様は移民として、文化の交流のためこの世界の人間を受け入れたダニよ」
「ええっ!?」
どうやら、神様は知らなかったようですね
ユウキもエイリもノブコも、神様と同じように驚いています。
「人間はみんな、女神エイルフ様の入り口を通るとき不思議な力を得るダニ。つまりすごく強くなるダニ。その力で人間達は国を作り、魔人達を滅ぼそうとしたダニよ。だから、偉大なる魔王様は女神エイルフ様の入り口を封印したダニ。急に前触れも無く封印したから、その時こっちに来ていたおら達は、こっちの世界に取り残されたダニよ」
「なるほど、じゃあ、カルッパーン族以外にもこの世界には取り残された者がいるということですか」
「そうダニ。そして、今、偉大なる魔王様の封印がとけかかっているダニ。偉大なる魔王様に一体なにがあったダニか?」
「もしかしたら、死んでしまったかもしれないデェス」
「バッ、バカな事を言うなズラ。偉大なる魔王様は、めちゃくちゃ強いズラ。何人も鍛え抜いた勇者を殺しているし、魔王様を越える存在など有りはしないズラ」
なんだか、神様の様子が変ですねえ。
挙動不審になっています。
いつも余裕の神様にしては珍しいですねえ。
なにかあったのでしょうか。
「ももも、もし、もしですよ。魔王が死んでしまったらどうなるのでしょうか?」
やっぱり神様が変ですねえ。
「まあ、そんなことはあり得ないダニが、再び世界がつながりを取り戻すと思うダニ。恐らく偉大なる魔王様は、封印を解いて、おら達が帰れるようにしてくれていると思うダニよ。だから弱まる魔王様の魔力の先を探しているダニ。きっとそこに女神エイルフの入り口があるダニよ」
「あの、魔王様はとてもお強いのですか?」
ユウキが怯える子ウサギの様な目でデェスに聞きました。
「強いデェス。あんなに恐ろしく強いお方はいないデェス。誰も勝てないデェス。人間に対しては怒っていたのでとても残忍デェス」
「神様、世界がつながって、魔王様が攻めて来たらどうしましょう?」
ユウキが怯えながら神様を見つめます。
「フェッ?」
神様はユウキの質問が意表を突いていたのか変な声を出しました。
まさか、神様でも魔王が恐いと言うことでしょうか。
これは大変な事が起きそうな予感がします。