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0020 強欲

安土様は、分体に意識を集中すると本体が消えてしまいます。

さっきまで会話しながら、おやしろの中で座って目を閉じていましたが、今はその姿が消えてしまいました。

この事に安土様は気がついているのでしょうか。


それにしても安土山とは良い名前ですね。

土地と山をやすんじると言う意味でしょうか。

ここの山神様にはふさわしい名前だと思います。


山神様が消えると僕はまた一人になりました。静かです。

いつもの様に鳥居から続く道をボーッと眺めています。

年のせいか、5分か10分だと思っていても実際には2時間も3時間も経っています。

朝から夕方になっていたこともありました。

心のどこかで来るはずの無いユウキをずっと待っているようです。


「た、大変ニャーー!!!!」


「えっ! ユウキ?」


おやしろの中から声がしました。

階段からじゃないのでユウキじゃありません。安土様ですね。

ユウキのまねをしたのでしょうね。だまされました。

と、言う事なら、全然大したことは無いはずです。それは、だまされませんよ。


「ニャッ、ニャにをそんなに落ち着いているニャーー!! 大変ニャーー!!」


可愛いすその短い巫女服の猫耳幼女が、手をバタバタさせています。

空でも飛ぶつもりでしょうか。


「ふふふ、何がそんなに大変なのですか?」


僕は笑いをこらえながら落ち着いて聞きました。

もはや、その手には乗りません。

絶対にたいしたことがないはずです。

僕はいつもより落ちついて聞きました。


「異世界人が、この世界の人間を皆殺しにするつもりニャーー!!」


「ええっ!! た、た、たたた、大変じゃ無いですかーーーー!!!!」


「だから、そう言っているニャーー!!」


「す、すすす、すぐにユウキを助けに行かないとぉーー!!」


「ぎゃはは!! 神様はあわて過ぎニャー!! まだ今すぐじゃないニャ」


大変と言ってあわてていたのは安土様なのに、腹を抱えて涙を流して笑っています。

もう!! 笑いすぎでパンツが丸出しになっています。

でも、あの魔力は僕のいた世界の人達の魔力でした。

僕のいた世界の人間がこっちの世界の人間を滅ぼすつもりと言うことでしょうか。


「じゃっ、じゃあ、まだあわてる必要はないですね」


今すぐじゃ無ければ、とりあえず落ち着きましょう。

でも、そんなことを本当に考えているのでしょうか?

安土様は誰からどうやって聞いて来たのでしょうか?


「まったく、神様が面白すぎて、頭が真っ白になってしまったニャ」


笑いすぎて流れた涙をふきながら言いました。


「いったい、どこでそんなことを聞いて来たのですか?」


「それニャ! 神様に言われて、廃病院を南に真っ直ぐ進んだら、異世界人のアジトを見付けたニャ」


「やはり有りましたか。と言う事はダニーが言ったように封印が解けているということですね」


「そうニャ。大勢人がいたから間違いないニャ」


「そ、それで?」


「そこで、異世界人の幹部の極秘情報を聞いてしまったニャ」


「極秘情報ですか?」


「そうにゃ、幹部の体の大きい髭面の元帥と、黒い服の大魔導師の女の密談を聞いてきたニャ」


「その二人の名前は何ですか?」


一体誰なのでしょうか?

僕は、あの世界の偉い人はだいたい把握しています。


「なまえ……なまえ……はーーっ!! さっき笑いすぎて忘れてしまったニャ!!」


「ええっ!? 僕のいたアッガーノ王国の元帥ならエディホゥガという元帥なら知っていますが」


と言うより僕がいたときには、元帥はこの人一人でした。


「ち、違うニャ。そんな名前じゃないニャ。なんか会議室じゃ無い、みたいな名前だったニャ」


違うということは、この十年で出世した人なのでしょう。


「か、会議室じゃ無いみたいななまえー? じゃあ商談室でしょうか?」


「そ、そうニャ。たしか商談という名前だった気がするニャ。黒い服の女は仕事をしてお金を稼ぐ場所のような名前ニャ」


「仕事をする場所? こ、工場でしょうか」


「そ、そうニャ。たしかそうだったニャ。さすがは神様ニャ。知り合いニャのか?」


「いいえ。商談と工場という名前には心当たりがありません」


おかしいですね。元帥まで出世する人なら、僕が知っている可能性が高い人だと思いましたが全く知らない名前です。


「神様の知り合いじゃニャいのか。まあいいニャ。その二人は若い将校を追い出すと二人だけで密談を始めたニャ。その話の中で、魔人の全人口の八割を殺したと言っていたニャ。今も虐殺は継続中で、全員殺すつもりと言っていたニャ」


「ええっ。そ、そんな。あの世界は元々魔人達の世界だったのに、人間が魔人を追いやってしまったのですか」


なんと言うことでしょう。僕の責任ですね。

僕が魔王を殺してしまったから。

でも、僕がいればそんな事はさせなかったのに……


――っ????!!!!


そっ、そうか、やられた!! それで僕をこの世界に追放したんだ!!!!

国王にしてやられました。

こんな恐ろしい事を考えていたなんて。

そして、魔人の国だけでは飽き足らず、今度はこの世界まで自分の物にしようと考えているのですか。なんという強欲!!!!!!


「二人は、恐ろしい表情で言ったニャ。この世界の人間を皆殺しにすると」


「な、なんですって!!!!」


僕は大きくショックを受けました。


「この話は極秘中の極秘みたいニャ。自国の若い将校には植民地にすると言っているみたいニャ。元帥や王国の大魔導師クラスしか知らされていないみたいニャ」


「それは、国王が本気でそう考えているということじゃないですか」


安土様は、真剣な表情でうなずきました。


「でも、二人は言ったニャ。この世界のどこかに恐ろしい人物がいると」


「……」


僕は。ゴクリと唾を飲んだ。


「そのお方が、この世界の人間の味方になれば、王国軍は勝てないと言っていたニャ。たった一人で襲いかかる異世界人を震え上がらせる人物がいると言っていたニャ。でも、いるはずなのに行方不明でいまだに探しきれていないらしいニャ。戦いはこのお方を見つけ出して、うまいこと言いくるめて王国に送り返して、そのお方に虐殺の事実を知られないようにしてから始めたいらしいニャ」


「そ、その、恐ろしいお方の名前は?」


「その恐ろしいお方の名前は……」


安土様は一歩踏み出して、僕の顔に可愛い猫耳の顔を近づけました。


「恐ろしいお方の名前は?」


「だ、だめニャ。思い出せないニャ。確かに名前を言っていたニャ。そうニャ。確か驚くような事があっても少しも動じない感じの名前ニャ」


「驚くような事があっても少しも動じない感じの名前……れっ、冷静ですか?」


「そ、それニャ。冷静ニャ!!」


「そうですか。わかりました。僕達もそのお方を探しましょう。そうすれば戦いを止められるかもしれない」


「それニャのだが、若い将校達はそのお方をよく知らないらしいニャ。もう戦争を始めたくて暴走寸前みたいニャ」


「それは急がないと、止められないと言うことですか?」


安土様は、真剣な表情で大きくうなずきました。

真剣な表情が可愛いですね。


「そうニャ。それに死んでいるかも知れないとも言っていたニャ」


「死んでしまったかも知れないのですか。あと虐殺までどの位猶予があるのでしょうか」


「二人の話では、もって数ヶ月と」


「そうですか。そうなるとユウキ達に知らせるより、せめて今の平和を楽しんでもらった方がいいですね」


「そうかも知れないニャ」


安土様は暗い表情になった。

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