「ユウキさん。さっき『いただきます』の時、『山神様』と言った時に神様の膝の上を見ていましたけど……」
エイリが、ちょっとしたことですが違和感があったようですね。
「あーっ。今、神様の膝の上に山神様がちょこんと座っています。可愛い幼女の巫女さんの姿です。着物のたけが短いので、ここからだとパンツが丸見えです」
「えーーっ!?」
エイリとノブコと私が驚いています。
私は、着物を引っ張って見えない様に隠しました。
エイリとノブコは神様のひざの上をジロジロ見ています。
「駄目ですわ。何も見えませんわ。神様本当ですか?」
エイリが神様の顔を見て赤い顔になり質問しました。
「いますよ。かわいい笑顔で二人の顔を見ています。山神様はとても可愛いですよ」
「えーーっ!! み、見て見たーーい!!」
エイリとノブコが残念そうに神様のひざの上をのぞき込みます。
それでも、何も見えないようですね。
「わたしは、ユウキちゃんにお目にかかるまで、神様の存在はまったく信じていませんでした。それなのに、こうして神様とお食事をして、カッパを見て、いままた、山神様の存在まで……。驚きの連続です」
ノブコが言うと、エイリが何度もうなずきます。
「僕は、こんなに美味しい物があることにすごく驚いています」
「ぼっ、ぼくっこ!!??」
店内のカウンター席に座っている、少し太った男の人達から声が聞こえました。思わず出てしまったようですね。
店内は、ほぼ満席でユウキ達以外は男性ばかりです。
どうやら、注目されていたようです。
まあ、四人とも美人ですからね。
神様とエイリとノブコは、この後、牛丼のお替わりをして幸せそうにお店の外に出ました。
そうそう、お替わりの時「えーーっ! あんなに美人なのにお替わりをするのーー!?」と店内がすこしザワザワしました。
「ずいぶんと、待たせるじゃねえか!!」
お店の外に出ると、人相の悪い体の大きな外国人が数人で待ち構えていました。
声を掛けてきた人は足が悪いのか松葉杖を使っています。
これでは、幸せな気分がいっぺんに台無しです。
「はあぁぁーーーーっ!! しっ、しまったーー!!!!」
声を出して、エイリとノブコが顔面蒼白になりました。
そして、体がガタガタ震えだしました。
どうやら、ずっと外国人達は報復のため探していたようです。執念深いですね。
エイリとノブコは当然街に出れば、こんなことがあると想定していなければいけませんでした。
いえ、あの言い方ならしていたのかも知れません。
でも神様と一緒に食事が出来る事で、浮かれて失念してしまったようです。
「だ、誰ですか??」
ユウキが質問しました。
「ユウキ。この人達は先日、駅前でからんできた人達だよ」
神様が言うと、エイリとノブコはうなずきます。
気がついていなかったのは、ユウキだけのようですね。
ユウキは、恐怖に顔が引きつり、体が震えだしました。
「今日は、俺の足を折った神様って奴はいねーのか??」
松葉杖の男は、眉間にしわを入れながらユウキの顔に自分の顔を近づけて言いました。
ユウキは目を大きく見開き、まばたきが出来なくなりました。
この男は、あの日に神様に足を折られた外国人達のリーダーですね。
「いますよ。僕です」
「て、てめーーっ!!!! お、女だったのか!!!!」
リーダーが驚いて、神様をジロジロ頭の上から、つま先まで何度も見ています。
「おいっ!! おめー達は、こんなにかわいい女子高生にやられたのか!!!!」
リーダーの後ろから、スーツ姿の男が声をかけました。
目つきが鋭くて髪をオールバックに決めた男です。
一見、紳士風ですが、目つきがやばい、やばすぎです。
「ぼ、僕。かわいいなんて初めて言われました。憎たらしいとかはよく言われたのですが」
神様が空気を読まずに言いながら、頬を赤くしてモジモジしています。あー、本当にかわいいです。
「おっ、おめー、そんなに可愛い顔をして、あんなえげつねー事をしやーがったのか! 見てみろ、こいつを!!」
紳士は横にいた男の肩を押しました。
「それが?」
神様は、紳士に突き出された片腕の男を見ると、一瞬で鋭い目つきになりました。
さっきまでがゆるい目つきだったので、ギャップで恐ろしさに拍車がかかっています。すごく恐いです。背筋が寒くなりました。
「なるほど…………。こいつは、おめーのせいで片腕を失った。余りにもバキバキに骨が折れて、筋肉もズタズタだった為に切り落とすしかなかったらしいぜ。あごをやられた奴らは、いまだに病院で入院中だ。一生、堅い物が食えねえらしいぜ」
神様の表情の変化を見て、紳士は目をギラリと光らせると、ニヤリと笑って言いました。この人も恐いです。
「その報告ですか?」
神様は、鋭い目つきから今度は無表情になって言いました。
「ひぃーっ、ひっ、ひっ!!!! いいねえ!! 肝がすわった嬢ちゃんだ。一緒に来てくれるんだろうなーー!!!! まさか断りはしねーだろうなーー」
紳士は気持ちの悪い笑い声で、笑いながら言いました。
でも、口は笑っていますが、目だけは笑っていません。
むしろ瞳の奥に怒りの炎が見えます。
「僕だけなら、何処へでも行きますよ」
「ひゃぁーーっ、はっ、はっ、はっ!! お前だけの訳があるかー!!」
リーダーが叫びました。
その声で、一緒に来ていた男達が、ユウキとエイリとノブコの後ろに回り込みます。
ギラリと光る、ナイフの様な物を三人の背中に突きつけます。
「ひっ!!」
ユウキとエイリとノブコは小さく悲鳴をあげました。
三人の体の震えが倍増しました。
「連れて行け!!」
紳士が言うと、道路に止められていたバスのような形をした、大きめの乗用車の方に連れて行かれます。
窓は真っ黒で中が見えません。
扉が開くと中にも屈強な男達が乗っています。
「いやあぁーーっ!!!」
ユウキとエイリとノブコは車の中を見て叫びます。
「うふふっ!! ユウキ、エイリ、ノブコ。怖がらなくても大丈夫、僕がついているからね。三人が何かをされることは全く無いよ。こいつらに、きついお仕置きをするためにいくのだからね。安心して楽しんでください」
神様は、三人に顔を近づけながら、とても可愛らしい笑顔で言いました。
ユウキもエイリとノブコも、体から恐怖が消えて大きな安心感に包まれました。
「てめぇーーっ!!!!」
紳士は車の運転席のすぐ後ろに座ると、低く小さな声で言いました。
そして、神様の方へ顔を向けます。
鋭い目がさらに吊り上がり、みるみる充血して、血走り真っ赤になりました。
可愛い女子高生に向ける目ではありませんね。
せっかく震えが収まったユウキとエイリとノブコが、その顔を見てしまい、体に再び恐怖が走ったようです。
泣きそうな顔になっていますね。
「……」
こんどは神様が無言で鋭い視線を紳士に向けました。