「これでも僕は、世界の人々から尊敬される存在だったのですけど……」
神様は、うつむいて自分の服装を見ながら情けない声で言いました。
それを聞くと罪の意識からか、エイリとノブコの表情が暗くなりうつむきました。
でも、ユウキはお構いなしです。
「大丈夫です。見てください」
ユウキは鏡を持って来て神様にむけました。
「うおっ!! か。かわいいですね。これが僕ですか?」
まんざらでもないようです。
お化粧は初めてだったのでしょう。
鏡をじっと見つめています。
「神様! 女装は男にしか出来ないのですよ。だから、一周回って男らしいのです」
ユウキが滅茶苦茶言っています。
「ほ、本当ですか?」
それを信じてしまったようです。
神様はユウキに甘いですからね。
とはいえ、これを信じますかねえ。
でも、おかげでエイリとノブコの表情がパアッと明るくなりました。
それを、見逃さずに神様は、ほっとした表情になりました。
少し心配していたようですね。
「とにかく、これで神様を男だと疑うことが出来る人はいなくなりましたわ。後は名前ですわね」
エイリが神様の顔をじっと見つめて言いました。
エイリは神様のお化粧をした顔が気に入ったみたいですね。
「な、名前なんて必要ですか?」
神様が言いました。
その時、またまたチーンと音が聞こえました。
「ヒメガミ、マモリ様なんてどうでしょうか。漢字では姫神守護と書きます」
ノブコが閃いたようです。
「良いですわね。じゃあマモリ様行きましょう」
エイリとノブコが神様の手を取って引っ張ります。
ちゃっかり手をつないでしまいました。
鏡をしまっていたユウキは出遅れてしまったようです。
ユウキは、唇を尖らせて後ろをついていきます。
女子寮の廊下に出て、階段を降りるとロビーに数人の生徒がいます。
「ああ、見て、学園の三大美女がいらっしゃいましたわ」
「ちょっと待って、も、もう一人、ものすごい美少女がいますわ」
「本当です」
「誰なのでしょう?」
ロビーの生徒達が、神様を見つけて集って来ました。
ロビーがザワついています。
かえって目立ってしまいましたよ。
「こ、こちらは、ヒメガミマモリさん、家庭の事情で遅れて入学されたのですわ」
「み、みなさん、よよ、よろしくお願いしますわ」
神様がエイリの真似をして、声を高くしていいました。
「きゃーーっ! 声までかわいい!!」
「マモリちゃんですかー」
「はーーーーっ!! うつくしい!!」
「マモリちゃん、よろしくお願いします」
集った女生徒が、神様をかこんでジロジロ見つめます。
「ささ、いきますよ!! みなさん、ごきげんよう」
ノブコが神様の手を引っ張ります。
どうやら、さきに名前を決めておいたのは正解だったようですね。
女子寮を出ると、「はあーーっ」と、三人が大きなため息をつきました。
三人は緊張していたみたいですね。
四人は仲良く歩いて最寄りのローカル駅に行き、今日は街まで電車で行くようです。
「さて、何を食べましょうか」
駅を出るとノブコが、神様の顔をのぞき込んで言いました。
お化粧のチェックをしているようですね。
ノブコはにっこり笑うと満足そうにしました。
「ふっふっふっ、ご馳走と言えば牛丼です。私は、おばあちゃんと町に出たときは、決まって牛丼でした。年に三回だけのご馳走でした」
ユウキは鼻の穴がヒクヒクして自慢そうです。
エイリとノブコの表情が残念姫と言っています。
「ぎゅ、牛丼??」
エイリとノブコ、そして神様が不思議そうな顔をします。
「ま、まさか? みんな、食べたことがないのですか?」
「な、ないですわ」
「ありません」
「ないよー」
「では、私にお任せください。駅前には必ずあるので、私は既に見つけてあります。こっちです」
ユウキはオレンジ色の看板のお店に入りました。
「なーーーーっ!!!!」
お店に入るなりエイリとノブコが驚いています。
「な、な、な、なんですか? まだ驚くような事は無いはずですけど??」
「な、なんですか。こ、この値段は??」
エイリとノブコの声がそろいます。
「あー、最近値上がりばかりで、高くなっちゃったんですよ」
「いやいや、いやいやいや、ちがいます。安すぎです」
「えーーっ!! 十分高いですよ。既に庶民の食べ物の域を出ようとしています。おばあちゃんが見たら、『とうとうお金持ちの食べ物になっちまったねえ』と言いそうです。『年金は上がらないのに物価は倍になりそうだ。牛丼は二百八十円だったのにねえ』って言いそうです」
そう言って、ユウキは券売機にお金を入れようとしました。
「駄目ですわ。わたくしが出します」
「えっ!?」
「いいですか、ユウキさん。今の日本は、狂っています。毎年庶民の税金は高くなり、政府はジャブジャブ庶民からお金を吸い上げています。そのお金はすべて、わたくしたちお金持ちの元に入って来ます。そしてそのお金は、株式などに使われて消費には回りません。うふふ、日本の株式などは良いところ日経平均一万円程度のものです。それが今や四万円程あります。差額の三万円は庶民から吸い上げられたお金ですわ」
そういうと、エイリはカードで支払いを済ませます。
そして、テーブル席に歩きながら、話を続けます。
「結局、お金持ちの持つお金は、お金持ちの間で横に動くだけで、庶民の方には降りてこないのですわ。だから、中小企業やお店が次々つぶれています。ユウキさんが私にお金を使わせれば、お金持ちのお金を庶民の方に流すことになります。ユウキさんは日本経済の為だと思って、私にお金を使わせてくださればいいのですわ」
わ、わかりにくいですが、どうやらエイリは、ユウキに「お金のことは気にしないで」と言っているようです。
「わたしは、エイリさんほどのお金持ちではありませんが、それでも地元では、旧仲財閥と呼ばれています。わたしからのお金も気になさらないでください」
ノブコもエイリと同じ考えのようですね。
「二人ともありがとう。でも、私はそれでも気が引けます。出来れば自分のものは自分で支払いたいです」
ユウキの眉毛が八の字になっています。丁度その時。
「お待たせしました」
店員さんが牛丼を持って来ました。
「神様、山神様……そしておばあちゃん、いただきます」
ユウキは箸を取ると、神様を見て、私を見て、最後におばあさんの家の方を向いていいました。
「いただきます」
エイリとノブコ、そして神様も言いました。
「うわあぁぁーーっ!!!!」
エイリとノブコ、そして神様が叫びます。
「えっ!? えっ!?」
ユウキは三人が余りにも驚くので、それに驚いています。
「うまーーい!!!!!!」
三人はそう言うと次々箸を口に運びます。
「よかったー!」
そう言うと、ユウキもうれしそうに食べ始めました。