「かっ、かみさまーーー!!! たすけてーーー!!!」
ユウキとエイリとノブコが涙目で拳を頭上にあげました。
何を考えているのでしょう。
神様は目の前だというのに。
三人そろって、ポンコツさんのようですね。
小指の爪をくっつけました。
「うおっ!! き、消えたーー!!!!」
神様に襲いかかろうとしていたボスが驚いています。
ボスの前から神様の姿が消えて、三人の前にあらわれました。
ほんの少しだけ神様の体が金色に輝いています。
距離が近かったからか、あまり光っていないようです。
使った魔力が多いほど光りが強くなるのでしょうか。
「こっ、こっちにあらわれたーー!!」
三人に襲いかかろうとしていた、男達の足が止まり驚いています。
「な、何が起きた?? しゅ、瞬間移動なのか? 本物の神様なのか??」
事務所の男達が全員棒立ちになっています。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! ボッ、ボスーーーーーー!!!!!! たたたた、たいへんだーーーーーー!!!!!!!!」
扉をすごい勢いで開けて、外から男が入って来ました。
「たっ、たいへんだってーーーー!!!! たいへんじゃないですかーー!!!! 何をしているんですかーー!!!! たたた、たいへんですよーーーー!!!!」
神様が大あわてです。
神様はたいへんという言葉に過剰反応してしまうようですね。
まったく、何が起きたかも分からないのに。
あわてんぼうさんです。ふふふっ。
こんな時のたいへんは、たいへんな訳がありません。
落ち着いてほしいものです。
「な、なにがあった!?」
ボスが少し緊張して言いました。
「街に出ていた奴が三人撃たれました。既に呼吸も、心臓も止まっています。くっ……」
入って来た男が泣いているようです。
「ニャーー!! ニャんだってーー!!!! そ、それは、たっ、たいへんじゃニャいかーー!!!!」
しまったニャー!! 私が、一番あわててしまいました。
神様とユウキが、冷ややかな目で私の方を見ています。
私の声が二人以外に聞こえないのが不幸中の幸いです。
「なにーーっ!!!! 他の者達は大丈夫なのか!!」
さすがボスですね。
部下の心配をしています。
「へい、殺された三人以外は全員無事です」
「やった奴は分かっているのか?」
「へい、大陸のアジアンマフィアの奴らです。アジトも分かっています」
「そうか! やつらか! くそっ!!」
ボスが唇をかみしめました。
抗争中の相手がいたみたいですね。
握った拳が小刻みに震えています。
「こっ、こりゃあ。ひでえ……」
三つの死体が二階の事務所へ、一人ずつブルーシートに包まれて運び込まれました。
包みが開かれると血だらけの男が横たわっています。
何発も銃弾を打ち込まれたためなのか、服に何カ所も穴が開いています。
丁寧に、全員頭を打ち抜かれています。
これでは助かりませんね。
「うっ!!!」
ユウキとエイリとノブコが、死体を一瞬見て顔をそむけました。
「なるほどねーー。たいしたことは、ないですねー。この位なら大丈夫でしょう」
神様が、ブルーシートに近づいて少し笑顔になりました。
神様の言う細胞は生きていると言うことなのでしょう。
「なっ、何を言っている。死者を前にして不謹慎だぞ!!」
ボスが、突然の神様の言葉に驚いて冷静になっています。
「おおおっ!!!!!!!!」
神様が右手を前に出して、ブルーシートの男達の上で手のひらを下に向けました。
すると、横たわる男達の体から銃弾だけが宙に浮かんできます。
その銃弾を見て、男達が声をあげたのです。
その銃弾は、神様の前までゆっくり移動すると、ポトリポトリと床に落ちました。
全部で十個以上あります。
神様は床に転がる銃弾を興味深そうにじっと見つめました。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
男達がさらに驚きの大声を上げます。
横たわる男達の体の傷がふさがっていくのです。
頭に開いた穴もふさがりました。
そして、なんと、呼吸を始めたのです。
一人の男が駆け寄って、心臓の音を直接胸に耳を当てて聞きました。
「動いている!! 動いているぞーーーー!! うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
胸に耳を当てた男の歓喜の雄叫びです。
血だらけの体に顔をつけたので男の顔が半分、真っ赤になっています。
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっっ!!!!! きせきだあぁぁぁぁーーーー!!!!」
事務所中に歓声が轟きました。
事務所にいる全員が腹の底から声を出しています。
工場の建物が少し振動しています。
「じょ、嬢ちゃん、あんたはいったい、いったい何者なんだーー?? まっ、まさか……本物のかみ……」
ボスが、鼻水を垂らして間抜けな顔をして、神様を見て言いました。
「いいえ。ちがいますよ。僕は、普通のにん……」
神様は首を振り、ここまでいいました。
「かぁーーみーさーーまーでーーーーすっ!!!!」
ユウキとエイリとノブコが、ここぞとばかりに大声を出して割り込みました。神様に全ては言わせないつもりのようです。
三人の瞳がキラキラ輝いています。
いいえ、瞳だけではありません。全身です。全身がキラキラ輝いています。光の星の間に所々ピンクの……いいえ、真っ赤なハートが見えます。
「おおっ!! やはりそうか。俺は初めて神の奇跡を見せてもらった。俺は今まで信じてきた神はいたのだが、何かをしてもらった記憶はねえ。だが、神様! あんたは違う。目の前で奇跡を見せてもらった。死者がよみがえるなんて、こんなことが……。俺はこれより、嬢ちゃ……神様……の信者になる。信者になるっ!!!!」
ボスはそう言うと神様の前にひざまずき指を組み合わせ神様にむけました。
そして、深く長く頭を下げます。
それを見た男達が全員で神様の前でボスと同じようにしました。
「女神様だ!! うっ、美しい!!」
顔を上げた男達の誰が言うというわけでも無く、あちらこちらから聞こえて来ました。
神様の姿は男達が言うように眩しいほどに、神々しいほどに美しく輝いて見えました。
それは美の女神様のようです。まあ、男なんですけどね。
神様の後ろにはユウキとエイリとノブコが控えています。
男達は神様の前にひざまずいていますが、それは、この三人にもひざまずいている形になります。
特にユウキは神様に見劣りする事も無いほどの美しさです。
エイリとノブコもこの二人の前で無ければ、誰もが振り返らずには、いられないほどの美人です。
ただ神様とユウキの前にいるから、かすんでしまって普通の人に見えているだけなのです。
男達の心に、ユウキとエイリとノブコの三人が女神様の使徒としてすり込まれました。