「じゃあ、行きましょうか」
神様は、視線を足元に落としながら言いました。
どうやら、足元に落ちている鉄砲の弾を気にしているようです。
「あ、あ、あのう、何処へ?」
ボスが恐る恐る聞き返しました。
「えっ、報復ですよ。ここまでの事をされて、黙っているわけがありませんよね」
「いえ、神様。奴らはとにかく数が多い。だから、俺達など比べものにならない位の資金力がある。とても勝ち目がねえ。くやしいが、ここは我慢するしかねえ」
「はぁあぁぁーーっ!! なっ、なんですってぇーーーー!! じゃあ、あなた達は四人の弱々しい女子高生なら襲って報復をしますが、相手が大きなマフィアだと何もしないで我慢するのですかぁーー!!!!」
神様は心底あきれたように言いました。
「……」
ボスは何も言い返せずに、拳を握りしめプルプル震えています。
「あーー、そうだ! そんなことより、この足元に落ちている金属の豆みたいな物はなんですか?」
神様は急に話を変えました。
ただ、興味のあることを聞いただけにも見えます。
「そ、そんなことより…………。それは、ピストルの弾です。まさか神様はピストルを知らないのですか?」
「知りませんし、見た事もありません。見せて下さい」
「おいっ!!」
ボスが声をかけると、四人の男が鉄砲を取り出すとそれを神様に見えるように持ち上げました。
「どうやったら、人の体にあんなにダメージを与えるのですか。一人、僕で試して下さい」
「えっ!?」
鉄砲を持った男達が驚きます。
「おい、神様がそう言うんだ。やれっ!!」
ボスは、さっき、バカにされたのが気に入らなかったのか、恐ろしい顔をして言いました。
殺意のような物を感じます。
「は、はいっ!!!!」
ボスの勢いに、鉄砲を持つ男達は驚くと同時に怯えています。
そして、一斉に鉄砲を神様に向けると引き金を引きました。
パパパパァァァァンと大きな音がします。
いっ、いけません!!!!
神様は「一人」と言ったのに四人が同時に、四方向から四発の弾丸を発射しました。
これは不吉です。
日本では古来より四と言う言葉は不吉として忌み嫌います。
それは四が「し」と発音し「死」をイメージさせるからです。
いくら神様でも、いきなり四発も撃たれれば、ただでは済まないはずです。
「きゃああああーーーーーー!!!!!!」
ユウキとエイリとノブコが悲鳴をあげました。
「……」
悲鳴のあとは、事務所の中が静寂に包まれます。
誰も声を出さずに目の前の光景をじっと見つめています。
四発の弾丸は、神様の体に近づくと急に動きがゆっくりになりました。
弾丸が透明なゼリーのような物に当たって、スピードが落ちているようにも見えます。
そして、最近見慣れてきた魔力の揺らぎのような物が弾丸を包んでいます。
弾丸がユラユラ蜃気楼のようにゆらめいて見えます。
カンカンカンカンという音が響きました。
神様が、何処から出したのか剣を出して、弾丸を床にたたき落としているのです。
その動きは速く、私の目でぎりぎり追える速さです。
一瞬消えたように見えました。
たたき落とされた弾丸が神様の足元のコンクリート製の床に少しめり込んでいます。
「なるほど、なかなか威力がありますね。でも、これなら弓矢のほうが何倍も威力があります」
「えっ、えっ?? いえ、弓矢よりもピストルの方が上ですよ」
ボスは、さっきまでの恐ろしい殺意のある表情が消えて、目の前で起きたことに驚いています。
目をパチクリしながら言いました。
そして「何を言うのか」という、あきれた表情になっています。
「そうですかねえ」
神様はまた、何処から出すのか弓を出しました。
まるで子供のおもちゃの様な小さな弓です。
それにおもちゃの矢をつがえます。
子供のおもちゃの様な矢は、矢尻の部分に吸盤が似合いそうですが、ちゃんと金属の矢尻がついています。
「…………」
回りの男達は、全員が冷ややかな目でこの光景を眺めます。
でも、可愛げがあったのはここまでです。
ここからは、あり得ない光景の連続です。
まず、弓を引く神様の手が、いつもの様に揺らぎ始めます。
同時にあたりに不穏な風が起きて、神様の回りで渦巻き始めました。
ピュキーーンンという、高い超音波のような音が耳では無く頭の中に直接響きます。
神様の回りで起きた風が床から天井にむかって、回りの物を巻き上げ始めました。
「キャッ!!」
エイリとノブコが短いスカートを押さえます。
押さえますが、とてもそれでは間に合わないほど強い風です。
あらあら、エイリとノブコの超高級なパンツが丸出しです。
あらら、神様とユウキのスカートは、この風でも全く動いていません。
二人のスカートから神様の何かしらの力を感じます。
強いえこひいきを感じます。いえ、ユウキに対する深い愛情ですね。そんなものを感じます。
「おおっ!!!!」
男達が、低い声を出しました。
「キャッ」という悲鳴が聞こえたので声のする方を見たのでしょう。
そして視線がエイリとノブコに、いいえ、パンツに集中しました。
そんな時、神様は矢を放ちました。
矢は爆音を上げて進みます。
矢の回りには白い水蒸気のような物が二本巻き付きます。
それは、二匹の龍が矢の回りでグルグルたわむれているようです。
ドカンという、大きな音を立てると、事務所の壁が大きく丸く吹飛びました。
それでも矢の勢いはとどまることを知りません。
真っ直ぐ空に向って飛んで行きます。
あの矢は、宇宙の果てまで飛んでいきますね。きっと。
これなら、人工衛星はロケットなんか必要ありません。
神様の矢で打ち上げられそうです。
「うふふ。僕は一本の矢で、密集陣形の歩兵なら五十人は倒しますよ」
「あははは、これはすげー!! 確かにこれなら、ピストルなんか比べものにならねえ。密集陣形の歩兵の先頭の奴は、上半身が跡形もなく吹飛びそうだ。ひぃひーぃひっひっ!!!!」
ボスが腹を抱えて笑っています。
「えーーっ!! 上半身が吹っ飛ぶなんてーー……」
神様がボスの方を見ながら言います。
これは、いつもの否定ですね。
「見ていたんですか?」
おーーいっ!! 本当に吹飛ぶのかよーーっ!!!!
い、いけません。つい突っ込んでしまいました。
「さて、支度をしてください。僕も同行します。報復に行きますよ!」
「おおっ!!!!!!」
男達から気合いの入った良い声が聞こえました。
とても高い士気を感じます。
まさか神様は、士気を高めるためにこんなことをしたのでしょうか?