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0029 悪い奴ら

「うっ!」


ガンネス一家から、声が漏れました。

巨大な倉庫の大きな扉が細く開かれています。

近づくとそれは、丁度一人分の隙間です。

中は暗くて、外から中の様子が何も見えません。


「ふふふ、罠ですね」


神様は笑いながらトラックを降りると、なんの警戒もしていない様子でスタスタ歩いて行きます。


「待ってくだせい! 神様を先には行かせられねえ。俺が先に行かせてもらいやす」


ガンネスが、神様の前に出ようとしました。


「いいえ、その必要はありません。僕の方がこういう経験は豊富なはずです。僕に任せて下さい」


神様は、左手でガンネスを制止しました。


「経験豊富!? 神様は女子高生じゃねえのですか?」


「ふっ、僕はもしかすると、ガンネスより経験豊富な年寄りかも知れませんよ。ふふふ」


神様は、鋭い流し目でガンネスを見ました。

目がギラリと強く光りました。


「なっ!?」


ガンネスは、神様の迫力に少しビビッた様子で驚きの声を出しました。

ガンネスだけでは無くこの会話を聞いていた手下までが驚いています。

私は、知っていましたよ。

だって、安土のお山で十年以上暮らしていましたが、全く容姿が変わっていませんでしたからね。

もうずっと、長い年月歳をとっていないのでしょうね。


「ゆっくりついて来て下さい」


神様は大扉の隙間へと進みます。

最近私は、魔力という物が空気のゆらぎのような形で見ることが出来るようになりました。

その私から見て、ここにはそのゆらぎが全く見えません。

だから、ここには魔力を持つ者がいないと想定できます。


ただ、心配なのは神様には強い魔力があるはずなのに、それを私は見ることも感じる事もできません。

おそらく、神様ほどの強い魔力の持ち主の魔力は、もはやゆらぎとして見ることが出来ないのかも知れません。

それとも、神様は魔力を他人に感じ取られないようにする事が出来るのかも知れません。


と、するならば、ここにあの異世界の元帥ショウダンすらも恐れさせるレイセイがいた場合、私には見ることも感じる事も出来ないということになります。

神様は本当に大丈夫なのでしょうか。心配です。


「ひひひっ!! まさか、おめー達の方から来てくれるとは思わなかったぜ。恐れをなして来ねえと思っていたぜ!! おいっ!!!!」


何事も無く全員が入った瞬間に声が聞こえました。

そして、敵の親分が声をかけると、照明が点灯して倉庫の中が急に明るくなりました。

敵のマフィアはガンネス一家が来ることを知っていたようですね。

どこかに見張りがいて、待ち構えていたようです。

正面に五十人ほどが武装して荷物の段ボールを盾にしてその影からこちらをにらんでいます。

全員鉄砲を持っています。

こっちは三十と数人、圧倒的に不利です。


「てめー達は、もうおしめーだ!! 皆殺しにしてやる覚悟しやーがれ!!!!」


ガンネスは強気で言いました。

心強い味方の神様がいるからでしょうね。


「馬鹿め、この状況が分からねえのか。今のおめー達はただの的だ」


「うっ!!」


ガンネスは言われるままだと思ったのか、返事に詰まりました。

そして、神様の顔を見ています。


「それによう。これを見ろ」


敵の親分が手を上げると、倉庫の荷物の上に部下が隠れていました。

右手の荷物の上に五十人ほど、左手の荷物の上にも五十人ほどが姿を現しました。

正面の五十人と合わせると百五十人以上がいる事になります。

その中には大きな鉄砲を持っている人までいます。

三方向から狙われたら最早、袋のネズミです。


「うわあああああああぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!!!」


ガンネス一家が悲鳴をあげて尻もちをつきました。

さすがですね。今、自分たちがどれだけ窮地に置かれているのか、状況を瞬時に判断できていますね。


「ぎゃははははは!!!!」


敵の親分は、腹をかかえて爆笑しています。

勝ちを確信したようですね。


「くくくっ、これで、この程度で勝ったつもりですか? 片腹痛いですね」


こんどは神様が、不機嫌そうな顔をして笑い出しました。


「なにーーっ!! ……なっ、なっ、なんだてめーは、日本の女神様のコスプレかー??」


この状況の中で、まるで動じることの無い神様を見て、敵の親分が少し驚いて言いました。

そうですね。まるで日本の神話の神様ですよね。

でも、コスプレではありませんよ。


「か、か……みさ……ま」


ガンネスが尻もちをついたまま、すがるような目で神様を見て弱々しく呼びました。


「安心して下さい。僕がついています」


神様がニコリと微笑みます。

滅茶苦茶神々しい、かわいい笑顔です。


「てめーーっ!!!! ふざけるなー!! 神様のつもりかーー!! 神様なんかいてたまるかよーーーー!!!!」


神様の余裕の表情に、敵の親分がとうとう激高しました。


「馬鹿めーーーー!! このお方は本物の神様だぁーー!!!! おめぇーー達は神様に喧嘩を売ったんだ勝ち目はねえぞぉぉーー!!!!!! 許して欲しければ土下座をして謝るんだなーー!! ぐわあぁはっはっはっはあぁぁーーーっ!!!!」


ガンネスが余裕を取り戻しました。

さっきまで恐怖に顔が歪んでいましたが、今は自信に満ちています。

神様の笑顔を見て落ち着いたようですね。


「くそがーーっ!!!! 構わねえ、撃てーーーー!!!! 撃ち殺せーー!!!! みなごろしだぁぁーーーー!!!!」


敵の親分が大声で叫びました。

倉庫中に銃声が響きます。

鼓膜が破れそうな程の銃声です。


「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーーー!!!! いてぇぇぇーーーー!!!! うぎゃあああぁぁぁーーーー!!!! いでぇぇーー!!!!」


そして、倉庫中に悲鳴です。痛みを訴えて、苦しむ声が続きます。

弾丸は、全てガンネス一家の手前止まって床に落ちました。

悲鳴は敵のマフィアから出ています。

敵は、全員両手の親指と人差し指が切られ、右足がひざの下で切られています。

その割には出血が少ないです。

神様が少し治癒魔法で止血したのでしょうか。


「くそーーっ!! てめーーっ!! 一体何をしやあがったーー!! くそがぁーー!!!! 俺達にこんなことをしてタダですむと思っているのかーーーー!!!!」


敵の親分が、いかっています。

この状況でこの勢いは、敵ながら見上げたものです。

天晴れですね。


「ガンネス。少し聞きたいのですけど」


神様は敵の親分をまるで無視して、ガンネスに話しかけました。


「へ、へい。な、な、なんでしょう?」


敵の全員が一瞬で行動不能になったのを見て、改めて神様のすごさを認識したのか、ガンネスがおびえています。

「すげぇーー!! すげぇーー!!」まわりのガンネス一家の手下が小さな声でつぶやいています。


「やさしい日本人の国に来て、侵略行為をしている奴らは悪い奴らと判断してもいいですよね」


「も、もちろんですとも……はっ!?」


ガンネスは何かに気付いたようですね。

一体これから何がおこるのでしょうか? こ、こわいですね。

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