「ふっふっふ! 気がつきましたか。これから始まる魔法こそが侵略者に対する魔法です。本当はあなた達ガンネス一家に使おうとしていた魔法です」
神様は悪魔のような顔を作ろうとしたのでしょうか。
眉をつり上げ、目を見開きガンネス一家の方を見ます。
それ、目がぱっちりして、ただただ可愛いだけですよ。
神様は女の子の顔になっていることを忘れているみたいですね。
「ぎゃははは!! 魔法だと! この馬鹿は何を言っているんだーー!!」
敵の親分はやけくそなのでしょうか、手足が痛むはずなのに無理矢理笑って神様を嘲笑します。
「うるせーーんだよ!! てめーは少しだまっていろ!!!!」
ガンネスが敵の親分の前に行き、見おろすとにらみ付けました。
その表情は私からは見えませんが、そうとう恐ろしい顔だったのでしょう、敵の親分が静かになりました。
さすがは、一家のボスですね。
「この魔法は、僕が最後の戦いの後に憶えた魔法です。恐らく究極魔法のはずなんですが、発動条件が難しいんですよね。まあ、魔法が成長すればドンドン恐ろしい魔法になるはずなんですが、それだけに、発動条件が難しいようです。ですが、こちらの世界では一番難しいハードルが無くなってしまったんですよ」
「そ、その条件とは?」
ガンネスがゴクリと唾を飲み神様に質問しました。
「そんなことを聞きたいのですか。まあ、良いでしょう。その条件とは、魔法耐性がまったく無い事。これが僕の世界ではあり得ないのですよね。僕のいた世界では、生まれたばかりの赤ちゃんでも少しは魔法耐性があります。だから、ぜんぜん使えませんでした。でも、この世界の人間には魔法耐性がまったくありません。まさか、こんな世界があるとは思いませんでした」
「では、全ての人に使えると」
「いいえ。あと、一つ条件があります。それは地獄に落ちるほどの悪事をはたらいていることです。つまり良い人には効かないのです。でも、悪人にはすごく効きますよ。だからそのまま使うと、ガンネス一家も巻き込まれる恐れがあります」
「ええっ!?」
ガンネスが大げさに驚きました。
「安心して下さい。ちゃんと敵には目印をつけました。間違えることは無いはずです」
「まさか、そのために指と、足を切ったのですか?」
「そうです。まあ、それだけではありませんけどね。戦闘能力を奪う為でもありますけどね。みなさーーん!! 親指と人差し指はそろっていますかー?」
神様が聞くと。
「おおっー!!!!」
ガンネス一家が全員両手をあげます。
そして、親指と人差し指を神様に見せました。
それを見て神様は安心したようにうなずくと、美しい笑顔を見せました。
「この魔法は僕にとって、とても使いやすい魔法でしてねー。なぜかというと、発動すると体のダメージが治ってしまうのです。病気だって治りますよ。そして死なせる事もありません。僕には罪の意識があまり起きない魔法なのです」
「それでは、罰にならないのでは?」
「それは、あなた達の目で見て確認して下さい。この魔法は名付けて、ヘルグレートエンペラーってところでしょうか。僕は中学生位の英語も分かるのですよ」
そうですね。ユウキの宿題を全部やっていましたものね。
神様はそう言うと右手を頭上に上げて、手のひらを天井に向けます。
神様の手のひらの上に黒い暗黒の雲の様な物が浮き出て来ました。
「おおっ!!」
それを見ると、ガンネス一家も敵マフィアも全員が驚きの声をあげます。
「開け獄門!!!!」
神様が大きな、き然とした声でいいます。
すると黒い暗黒の雲の中にぽっかりと穴が開きました。
「うぎゃあああぁぁぁーーーー!!!!」
「ぎええええぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!」
「いやだぁーー!!!! た、たすけてくれーー!!!!」
「ぐああああぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」
暗黒の穴の中から人々の悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえてきます。
その声だけで、マフィアの屈強な男達が震え上がります。
「うおおおーーーっ!!!!」
そして、屈強なマフィアの男達が悲鳴をあげました。
暗黒の穴から人間の、顔の鼻の下から胸にかけての、体の一部が血をまき散らしながら飛び出してきて、ビチャリと床に落ちたからです。
「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!」
穴から出て来た、体の一部が床に落ちると悲鳴をあげました。
こんな状態になっても生きているようです。
「うわあああああああーーーーーーーーっ!!!!!!」
それを見て、またマフィアの男達が悲鳴をあげました。
「その暗黒の穴の中は地獄に続いています。この穴の中では過酷な罰を受けているのですよ。こんな体になっても死ぬ事は出来ません。次の日には完全に治ってしまい、また一から罰を受けるのです。毎日毎日過酷な罰を受け続けるのです。自殺すらゆるされませんよ」
神様は悲しそうな顔をして言いました。
「まさか……本当なのか……」
敵の親分が言いました。
神様がコクリと無言でうなずきます。
「いでよ獄炎!! 親指と人差し指を切りおとし目印とした。その中から極悪人だけを連れていけ!!!!」
神様の言葉が終わると、暗黒の穴から黒い炎がモクモクと出て来ます。
やがて、その炎が手の形になります。
その手は赤い血管の様な物が浮き出して、黒い炎に包まれているように見えます。
何十本も穴から出て来て、倒れている敵マフィアの男達に向かって近づいて行きます。
「や、やめろーー!!」
「やめろーーーー!!」
「や、やめてーーー!!!!」
敵の男達が近づく手から逃れようとします。
ですが、神様は敵の男達の右足も、ひざから下を切り落としています。
走って逃げる事も出来ません。
はいずって必死で逃げるしかありません。
「ギャアアアアァァァァァーーーーーーーー!!!!!」
次々悲鳴をあげながら、男達は穴に引きずり込まれていきます。
逃げ切れるはずがありませんよね。
「ひっひぃぃぃぃ」
一本の手がガンネスの前まで伸びてきました。
そのため、ガンネスが情けない悲鳴を出して震えています。
「こらこら、良く見てください。その人は指がありますよ」
神様が言うと、ガンネスの前の獄炎の手は、赤い血管の様な物が顔の形になり、ニヤリと笑って次のターゲットに向いました。
獄炎は、本当に悪人が分かるようですね。
神様が目印をつけていなければ、確実に連れて行かれていましたね。
獄炎は、敵の男達をつかむと、忘れないように小さな手を分岐させて落ちている指や足も拾って、獄門の中に消えていきます。
そして獄門から伸びていた手が全て獄門の中に消えました。
「ひゃああーーはっはっ!!」
高らかな笑い声が聞こえます。
敵の親分がまだ残っています。
まさか、いい人だから残ったのでしょうか。
「よかったですね。あなたは良い行いもたっぷりしたのでしょうね。助かったみたいです」
神様がやさしく微笑んで言いました。
「てめーー!! てめーーは、ぜってー許さん!! 後で散々暴行してやる。憶えておけー!!!!」
「あーあー、せっかく助かったのに、残念です」
神様が言うと、暗黒の穴、獄門の中から恥ずかしそうに獄炎の手がチラリとのぞきます。
ひょっとすると、ただ単に忘れていただけなのかもしれません。
そして、ノロノロと獄炎の手が敵の親分の方に伸びていきます。
「や、やめろーー!!!! やめてくれーー!!!! かーみーさーまーー、わるかったーーゆるしてくれーー!! 頼むーゆるしてくれーー!!!!」
獄炎の手は、神様を気にしながらゆっくり、親分を獄門に運びます。
まさか、獄炎の手は神様の命令なら聞くのでしょうか。
やめろと神様が命令すれば、その場で連れて行くのをやめさせることが出来そうです。
「無理ですよ。助けると暴行されそうですもの」
神様が女の子のように言いました。
か、可愛いです。
女の子だと思い出したようです。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!! やめてくれええぇぇぇぇ……」
神様の言葉を聞くと、獄炎の手はしゅるんと獄門の中に消えました。
少しずつ獄門が閉じ始めます。
「あーこらこら、忘れ物ですよ」
神様が言うと再び恥ずかしそうに手が伸びてきて、獄門から飛び出してきて床に落ちている、人間の体の一部を握って獄門の中に消えました。
そして、静かに獄門は閉じます。
結局敵の男達は全員地獄に落ちたようです。