「あのー、神様。奴らはどうなったんでやすか?」
ガンネスが心配そうに聞きます。
その表情は、敵のマフィアの一味を心配しているわけでは無く、本来自分たちが受けるはずの魔法を、自分たちが受けたときにどうなるのか興味があって聞いたように見えます。
「地獄で、贖罪をしています。ふふ、安心して下さい、全員生きていますよ。むしろどんなに苦しい罰を与えられても死ぬ事が出来ません。僕がこの魔法を成長させれば、いつかは助け出せる日も来るかもしれません。その時はあの人達も、反省していい人になっているといいですね」
「ひっ、ひえええぇぇぇ。こえぇぇーー。か、神様は、この魔法を俺達に使うつもりだったのですよね?」
ガンネスは神様の返事に全身が震えています。
そして、あらたに質問しました。
「うふっ! そうですよー! 僕の大事なユウキとその友達の女子高生に、悪さをしようとする人に容赦をする気はありませんでしたからね。指と足を切るところからフルセットで全部やるつもりでした。ターゲットが変わって良かったですね。うふっ!」
神様は、いたずらっぽく笑うと可愛い笑顔で言いました。
その顔が余計に恐かったのか、ガンネスは体がブルッと震えました。その後はガタガタ震えが止まらなくなっています。
神様はすごいですね。
マフィアの恐い顔をしたボスを、可愛い笑顔だけで恐れさせるのですから。
なかなか出来る事ではありませんね。
「こっ、こえぇぇーー」
ガンネス一家の手下達まで震えだしました。
ガンネス一家の手下は、全員恐ろしい顔をした体の大きな屈強な男達です。しかも今は、全員鉄砲まで持っていて完全武装です。
そんな男達が神様を見て心底震え上がっています。
見た目は、可愛い日本の姫神様にしか見えませんが、少なくともガンネス一家は全員で神様の恐ろしさを心の底から理解したようです。
「さあ、帰りましょうか」
神様はユウキ達が心配なのでしょう、すぐに帰ろうとしました。
「ちょっと、待ってくだせい!!」
ガンネスが、帰ろうとする神様の前をふさぎ邪魔をしました。
「ど、どうしました??」
「へい、この倉庫は持ち主がいなくなりやした」
「なるほど、では、ガンネス一家が好きにしたらいいと思いますよ」
神様は全て察したのか、ガンネスの自由にさせるようです。
「あ、ありがとうごぜいやす!! おい、おめー達少し倉庫を家捜ししろ! 戦利品をトラックに積むんだ。かねめの物はいただいて帰るぞ。神様、なるべく早く済ませやす。しばらくお待ち下せい」
「うん、わかった。のんびり待っているから。ゆっくり存分にやって下さい」
「ははーーっ!!」
そう言うと、ガンネス一家は全員が嬉々として散開し、広い倉庫の中に姿を消しました。
神様は、のそのそ丁度いい段ボールを運びます。
そして、その上にちょこんと座りました。
まるでひな祭りの、おひな様のようです。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! 姫神様――!! 見てください!! これをーー!! かねでーーす!!」
「こ、こっちは武器です!!!!」
数人の男達が、大きな金属ケースを持って来ました。
そして、それをいちいち神様に開いて見せています。
最早、ガンネス一家は神様を心の底から敬っているみたいですね。
「うふふ、次々トラックに積んで下さい」
神様がかわいい天使のような笑顔でいいました。
手下の男達もうれしそうになり次々トラックに金属ケースを運びこみます。
「たっ、たいへんでーーーーす!!!!」
数人の男達が走って来ました。
「ななな、なっ、なにーーっ!!!! た、た、たいへんですってーーーー!!!!」
神様は相変わらずたいへんと言う言葉に弱いようですね。
大あわてです。
「こっちに、日本人の裸の女と、子供がいます。おそらく拉致された人達でしょう」
「なー!! 何てことですか! た、たいへんです!!」
い、いけません。あせって私が声を出してしまいました。
「ぷっ! 安土様、ニャーを忘れていますよ!」
神様が吹き出して笑っています。
おかげで神様は落ち着きを取り戻したようです。
「ニャーー!! そんなことはどうでもいいニャー!! すぐに助けて下さいニャーー!!!!」
「うふふ、場所を教えて下さい」
「はっ!!」
手下はうやうやしく頭を下げると神様を案内します。
コンテナの様な物の中に、大人の女性と子供が閉じ込められていました。
拉致された人達は、ガンネス一家の手下を見ておびえています。
仕方がありませんよね。
こいつら、全員人相が悪いですからね。
「ケガはありませんか? 助けに来ました」
神様が心の底から優しさが染み出るような笑顔で言いました。
暗いコンテナの中の拉致された日本人は、最初に驚きましたが神様が美しい女性なのですぐに落ち着きを取り戻して、神様に駆け寄り抱きつくと、今度は安心したのか泣き出しました。
「わああああああぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!」
それは、絶叫にも似た大きな大きな泣き声でした。
心をゆさぶる泣き声です。
神様の目にも涙がたまっています。神様は優しいですからね。
しかし、よくも日本人にこんなひどいことが出来るものです。
私は、許せない気持ちで怒りが次から次へとわいてきました。
「恐らく性奴隷にでもするつもりだったんでやしょう。まあ、そっちで売れ残っても、臓器として高く売れやすから、アジアンマフィアは日本人を大勢拉致していますぜ」
ガンネスがいつのまにか後ろに来て言いました。
「やさしい日本人に、保護してもらってこんな仕打ちとは、外国人とはひどいものですね」
「ふふふ、俺達からしたら、日本人が間抜けなだけですぜ。せめて自分達の命ぐれえ自分達で守らねえと」
ガンネスはもう少し言いたそうでしたが、神様の顔を見て口をつぐみました。
「やっぱり、侵略する方が圧倒的に悪いです。僕は何てことをしてしまったんだ!! 知らなかったとはいえ侵略の先頭に立って戦ってしまうとは……」
「神様……」
ガンネスが心配そうに神様の顔を見つめます。
神様はそれほど悲痛な表情をしています。可愛い顔が台無しです。
「よし、決めました。僕はユウキの守護が第一ですが、ユウキが日本人なので日本人も侵略から守ります。そして、なるべく早く僕の世界に戻って魔人達を侵略から守ります」
なんだか、神様がキラキラ輝いています。
とても美しいすがすがしい表情になりました。
新たな生きる目的が決まったみたいですね。よかったです。
「神様」
一人の日本人の裸の女性が神様に呼びかけました。
安心して下さい。
裸ですが、手で見えてはいけないところはちゃんと隠しています。
「あの、僕は神様ではありません。ですがなんですか?」
又、始まりました。
もういい加減あきらめれば良いのに神様は神様であることを否定しています。
だいたい、今の格好は私が見ても日本の女神様ですよ。
「わたし達はどうなるのでしょうか?」
「安心して下さい。今から家に帰れますよ。ガンネス!!」
「はっ!!」
「着る物を探して渡してあげて下さい」
「はっ!! おい!! 聞いただろ、服を探してこい!!」
「へい!!」
手下が走り出しました。
「すぐに服を探します。それを着たら自由です。近くの駅までお送りしますからね。ガンネス!! トラックで駅まで送ってあげて下さい。さっきのお金を一人一束ずつ、渡してあげて下さい」
「ははっ!!」
ガンネスは深々と頭を下げると返事をしました。
女性達は作業着のような物を渡され、それを着こみました。
そして、日本のお札の束を一人一つずつ渡してもらっています。
こうして、日本人の女性と子供は助け出されました。